特集 組織犯罪対策の歩みと展望

2 今後の組織犯罪対策の取組

このような現状と課題を踏まえ、犯罪組織の中枢を支える人的・経済的基盤の切り崩しを図り、その弱体化・壊滅を進めるため、以下の取組を一層強化していく。

(1)情報収集・分析能力の強化と戦略的な組織犯罪対策の推進

組織犯罪は、実行犯が検挙されても、首謀者が検挙されなければ組織としての活動が継続可能であるほか、その収益が組織の維持・拡大や将来の犯罪に再投資されるおそれが大きい点で他の犯罪とは性質を異にする。犯罪組織を弱体化・壊滅し、組織犯罪を撲滅するためには、末端の構成員を検挙するだけでなく、首領その他の主要幹部を検挙するとともに、徹底した犯罪収益の剥奪と資金源の遮断により、犯罪組織の中枢を切り崩さなければならない。

そのためには、組織犯罪の実態に関する情報を的確に収集するとともに、それを全国的に集約・分析して犯罪組織の構成員、指揮命令系統、資金獲得活動等の実態を解明した上で、戦略的な対策を講ずる必要がある。こうした一連のプロセスを真に実効あるものとするためには、情報の収集・集約・分析、実態解明、戦略策定、それに基づく取締り等の諸活動を有機的に連関させ、好循環を生み出すことが重要である(図表-50参照)。

近年、暴力団の資金獲得活動が不透明化・多様化しているほか、薬物犯罪組織や国際犯罪組織の活動やネットワークが国境を越えて広がるなど、組織犯罪の捜査はますます複雑・困難になっている。限られた捜査資源を有効に活用して最大の成果を上げるには、有用性の高い情報を組織的に収集した上で、深度ある分析を加え、実効ある戦略を策定することが、一層重要になると考えられる。

また、犯罪組織は、常に法の規制が及ばない分野や、規制が緩い分野を求めて活動範囲を拡大していることから、犯罪組織の活動を助長している要因を的確に分析し、更なる規制の強化についても検討していく。

 
図表-50 組織犯罪対策の在り方
図表-50 組織犯罪対策の在り方

(2)組織犯罪の取締りに有効な捜査手法の積極的活用

平成26年9月、法制審議会において、通信傍受の合理化・効率化、訴追に関する合意制度の新設等を内容とする制度案が答申され、現在、これらの制度を導入するための法整備が進められている(注1)。新制度においては、通信傍受について、組織的に行われる詐欺等が対象犯罪に追加され、特殊詐欺事件等の捜査における活用が可能となるほか、その実施手続の合理化・効率化も図られることから、従来から通信傍受を活用してきた薬物事犯等の捜査においても一層の活用が期待される。また、訴追に関する合意制度については、犯罪組織の中枢幹部による犯行への関与等を明らかにするために活用するなど、組織犯罪の捜査において新たな武器となり得ると考えられる。警察では、新制度も見据え、組織犯罪の取締りに有効な捜査手法の活用の在り方について、検討を進めていく。

加えて、組織犯罪の立証を的確に行うには、証拠収集能力を一層強化するとともに、証人等の安全の確保に万全を期す必要がある。法制審議会の答申において今後の課題とされた会話傍受(注2)や証人保護の在り方等についても、引き続き検討を進めていく。

注1:97頁参照
注2:令状を得るなどした上で、捜査対象者が管理する住居等に傍受装置を設置して、捜査対象者の言動を傍受・記録して証拠化する捜査手法。欧米等の各国において導入されている。

(3)関係部門・関係機関等との連携の強化

暴力団は、暴力的な犯罪のみならず、窃盗や詐欺、薬物事犯、犯罪インフラ事犯、風俗関係事犯等の様々な犯罪に関与し、直ちには暴力団の関係者と分からない共生者等を利用していることも少なくない。また、特殊詐欺のように、巧妙に組織化されたグループにより敢行され、組織犯罪対策上の新たな脅威となっているものが現れているほか、今後、暴力団を始めとする犯罪組織が、サイバー空間における資金獲得活動を拡大していくことも懸念される。このように活動分野を拡大する犯罪組織に対抗するため、部門の枠組みにとらわれず、組織犯罪に関する情報を集約・分析し、その共有を図るとともに、合同捜査・共同捜査を積極的に展開するなど、警察組織の総合力を発揮し、犯罪組織の弱体化・壊滅に向けて真に実効ある取締りを行っていく。また、薬物の密輸入その他の国際的に行われる組織犯罪等に対しては、国内の関係機関と連携した水際対策や、外国捜査機関との捜査協力等を強化していく。

さらに、犯罪組織は、経済的利益を得るため、社会のあらゆる側面に寄生しようとすることから、警察の努力のみによってその弱体化・壊滅を図ることは困難である。引き続き、関係機関・団体等と連携し、総合的な暴力団排除活動に取り組むほか、犯罪組織が悪用する制度について情報共有を図ることなどにより、社会を挙げた組織犯罪対策の推進に努めていく。



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