特集 組織犯罪対策の歩みと展望

5 新たな脅威となっている組織犯罪への対策

組織犯罪は、警察による取締りを逃れつつ、より巧妙かつ効率的に経済的利益を得るため、社会・経済の発展等に応じて常に変化している。その撲滅を図るためには、犯罪組織の組織実態・活動実態や組織犯罪の態様についての情報収集・分析を行い、その変化を的確に捉えて効果的な対策を講ずることが重要である。

警察では、従来から、暴力団犯罪、薬物・銃器犯罪、来日外国人犯罪グループによる犯罪等に重点を置いて組織犯罪対策を進める一方で、新たな脅威として出現する組織犯罪に対し、関係部門が緊密に連携して、警察の総合力を発揮した戦略的な対策を実施している。

特に、近年被害が急増している特殊詐欺については、巧妙に組織化されたグループにより敢行されている状況がみられることなどから、警察では、これを新たな脅威となっている組織犯罪と位置付け、警察組織全体で情報収集を行い実態を解明するなど、犯行グループそのものの壊滅に向けた取締りを推進している。

(1)組織的に敢行される特殊詐欺への対策

① 特殊詐欺の犯行グループ

特殊詐欺(注)の犯行グループは、リーダーや中核メンバーを中心として、電話を繰り返しかけて被害者をだます「架け子」、自宅等に現金等を受け取りに行く「受け子」等が役割を分担し、組織的に犯罪を敢行している。

また、特殊詐欺の犯行グループの周辺には、犯行に悪用されることを承知しながら、犯行拠点をあっせんしたり、他人名義の預貯金口座を供給したりする者が存在し、犯行グループの活動を助長している。

さらに、平成26年中における特殊詐欺で検挙された暴力団構成員等は698人と、特殊詐欺の検挙人員全体の35.2%を占めており、特殊詐欺が暴力団の資金源となっている状況もうかがわれる。

注:72頁参照
 
図表-49 犯行グループの構造
図表-49 犯行グループの構造

コラム 特殊詐欺への暴力団の関与

暴力団は、自らは前面に出ることなく、「受け子」を勧誘したり、実態のない会社に登記名義人を置くなどし、これらの者に特殊詐欺を敢行させている状況がうかがわれ、検挙された「受け子」や「架け子」等が次のように話している例がみられる。

・ 暴力団関係者から恐喝され、金を稼ぐために「受け子」をやるよう指示された。

・ 生活に困っていたところ、知り合いのヤクザから「会社を起業して金を稼げ」と言われ、詐欺の被害者の名簿を渡された。

・ 特殊詐欺のアジトには「架け子」の仕事を監督するヤクザがおり、犯行グループを厳しく統制していた。

② 組織犯罪対策の手法を活用した特殊詐欺対策

特殊詐欺の被害の増加を食い止め、抜本的な解決を図るためには、「受け子」等の現場実行犯を検挙するだけでなく、犯行グループの中枢を摘発し、グループを壊滅に追い込むことが必要である。警察では、詐欺事件の捜査を担当する知能犯捜査部門と暴力団犯罪等の捜査を担当する組織犯罪対策部門の連携を強化することなどにより、「受け子」等から得られた供述等を端緒とする上位者への突き上げ捜査に加え、犯行グループの組織実態や犯罪収益の移転ルート等に関する徹底した情報の収集・集約・分析により、犯行グループの中枢の摘発を図るなど、組織犯罪対策の手法を活用した取締りを推進している。

27年4月には、特殊詐欺の犯行グループに関する情報収集等を強化するため、特殊詐欺対策のための地方警察官約230人の増員が行われた。

 
部門横断的な特殊詐欺専従捜査班の編成(神奈川・特殊詐欺緊急検挙対策プロジェクト)
部門横断的な特殊詐欺専従捜査班の編成(神奈川・特殊詐欺緊急検挙対策プロジェクト)

事例

準暴力団チャイニーズドラゴンの関係者の男(21)らは、過去に詐欺の被害に遭った女性に対し、「詐欺被害に遭われた方に被害回復給付金が出る。受け取るには会社の経営権を購入していただく必要がある」などと虚偽の事実を告げ、3,500万円をだまし取るなどしていた。26年7月までに、同男ら12人を詐欺罪等で逮捕した(警視庁)。

事例

山口組傘下組織幹部(33)らは、証券会社の社員等になりすまして高齢者に電話をかけ、「会社から社債の申込みに関するパンフレットが届く。社債を購入したら、1.3倍の値段で買い取る」などと虚偽の事実を申し向け、5,200万円をだまし取るなどしていた。27年1月までに、同幹部ら14人を詐欺罪等で検挙した(静岡)。

(2)地域の犯罪情勢に即した組織犯罪対策

犯罪組織を弱体化・壊滅し、組織犯罪を撲滅するためには、特殊詐欺に限らず、それぞれの地域で治安対策上の問題となっている組織犯罪を的確に捉え、重点的に取り組むことが重要である。警察では、地域の犯罪情勢に即して組織犯罪対策部門と関係部門が緊密に連携し、犯行グループの壊滅に向けた対策を行っている。

コラム 愛知県警察における組織窃盗グループ壊滅プロジェクト

愛知県内においては、侵入盗及び自動車盗の認知件数が他の都道府県と比較して多い状況にあるところ、これらの犯罪が多発する背景には、元暴力団幹部等を中心とした組織窃盗グループの存在があるとみられる。愛知県警察においては、平成26年6月までに、県内の男性宅から現金2,400万円や外国紙幣(約130万円相当)等を窃取した元暴力団幹部の男(44)ら6人を窃盗罪で逮捕したところ、その後の捜査により、同元幹部が、暴走族の元メンバーらからなる実行部隊を編成し、自らは直接犯行に加わることなく、この実行部隊に窃盗を行わせていたことを突き止めた。また、犯行に当たっては、見張り役を配置するほか、防犯カメラに映っても個人が特定されないように服装を統一するなど、警察対策を徹底していたことも明らかになった。

同県警察では、このような事例等を受けて、27年1月、盗犯捜査部門や組織犯罪対策部門を始めとする関係部門から成る「組織窃盗グループ壊滅プロジェクト」を立ち上げた。同プロジェクトでは、組織窃盗グループの実態解明や捜査員の集中的な運用を行うなど、組織窃盗グループ及びその背後にある組織の壊滅に向けた取組を推進している。



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