特集 組織犯罪対策の歩みと展望

4 犯罪組織によるマネー・ローンダリング

マネー・ローンダリングとは、一般に、犯罪によって得た収益を、その出所や真の所有者が分からないようにして、捜査機関による収益の発見や検挙を逃れようとする行為である。暴力団を始めとする犯罪組織は、個別の資金獲得活動とそれにより得られた資金の間の関係や、当該資金の帰属先等を隠蔽することにより、獲得した資金が没収、課税等されたり、資金の流れが追跡されて首謀者等が検挙される事態を回避することを目的として、マネー・ローンダリングを行っている。

我が国では、組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法においてマネー・ローンダリングが罪として規定されている。

(1)マネー・ローンダリング事犯の検挙状況

① 全般的検挙状況

マネー・ローンダリング事犯の検挙事件数は、図表-34のとおり、近年増加傾向にある。

我が国においては、とりわけ暴力団が巧妙にマネー・ローンダリングを行っており、脅威となっている。平成26年中のマネー・ローンダリング事犯のうち、暴力団構成員等によるものは60件であった。

また、経済・金融サービスのグローバル化が進んでいる現代社会においては、瞬時に国境を越えて資金を移動させることが可能であり、犯罪組織等が、国境を越えてマネー・ローンダリングを敢行することも少なくない。特に、来日外国人によるマネー・ローンダリングは、日本国内で得た犯罪収益を外国に為替送金していたもの、現金を母国に密輸していたものなど、法制度や取引システムの異なる他国への資金移動が多く認められ、資金の追跡が国内取引と比べて困難な場合が多い。26年中のマネー・ローンダリング事犯のうち、来日外国人によるものは36件であった。

 
図表-34 マネー・ローンダリング事犯の検挙状況の推移(平成17~26年)
図表-34 マネー・ローンダリング事犯の検挙状況の推移(平成17~26年)
Excel形式のファイルはこちら

事例

山口組傘下組織組長(45)は、25年5月から同年6月までの間、労働者派遣禁止業務である建設業務に労働者を派遣し、同年7月、その派遣料等約120万円を同組長が管理する他人名義の口座に入金させた。26年2月、同組長を組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で検挙した(大阪)。

② 前提犯罪別検挙状況

24年から26年までの間におけるマネー・ローンダリング事犯の前提犯罪(注)別検挙状況は図表-35のとおりである。このうち、暴力団構成員等によるマネー・ローンダリング事犯の前提犯罪についてみると、暴力団構成員等以外の者によるマネー・ローンダリング事犯の前提犯罪と比較して、売春防止法違反や覚せい剤取締法違反等の割合が高い。

また、24年から26年までの間における暴力団構成員等によるマネー・ローンダリング事犯を前提犯罪別にみると、主要なものとしては詐欺に係るものが48件、売春防止法違反に係るものが34件、窃盗に係るものが24件、ヤミ金融事犯に係るものが21件、覚せい剤取締法違反に係るものが19件となっているほか、風営適正化法違反や賭博に係るものなどがあり、暴力団が様々な犯罪により資金を獲得し、マネー・ローンダリングを行っている実態がみられる。

注:不法な収益を生み出す犯罪であって、その収益がマネー・ローンダリングの対象となるもの

(2)マネー・ローンダリングに悪用される各種取引

暴力団等の犯罪組織は、様々な取引や商品・サービスを利用して巧妙にマネー・ローンダリングを行っている。平成24年から26年までの間におけるマネー・ローンダリングに悪用された取引等の状況は図表-36のとおりであり、内国為替や現金取引を悪用したマネー・ローンダリングが多くみられる。

 
図表-35 マネー・ローンダリング事犯の前提犯罪別検挙状況(平成24~26年)
図表-35 マネー・ローンダリング事犯の前提犯罪別検挙状況(平成24~26年)
Excel形式のファイルはこちら
 
図表-36 マネー・ローンダリングに悪用された取引等(平成24~26年)
図表-36 マネー・ローンダリングに悪用された取引等(平成24~26年)
Excel形式のファイルはこちら

コラム 新たなサービスとマネー・ローンダリング

通信、金融等の様々な分野における各種サービスが高度化し、国民生活や経済活動の利便性に大きく寄与している一方で、こうしたサービスの中には、マネー・ローンダリングの新たな脅威となり得るものも存在する。

例えば、ビットコインについては、強制通用力を有さず、通貨には該当しないとされる一方で、その移転が迅速かつ容易である上、利用者の匿名性が高いことから、世界的にマネー・ローンダリング等に悪用されるリスクが指摘されており、関係省庁において情報収集が行われている。



前の項目に戻る     次の項目に進む