特集 組織犯罪対策の歩みと展望

3 国際組織犯罪情勢

来日外国人犯罪の総検挙件数・人員は、平成の初期から増加傾向となり、検挙件数は平成17年に、検挙人員は16年に、それぞれピークに達したが、警察を含む関係機関による総合的な施策により、不法残留者数が減少したことに伴い、近年減少傾向にある。

しかしながら、経済・金融のグローバル化の進展や情報通信技術の発達を背景に、犯罪組織の構成員の多国籍化、犯罪行為の世界的展開といった状況がみられるほか、犯罪インフラ事犯の新たな手口もみられるところである。また、現在、査証緩和を始めとする観光立国の実現に向けた取組や、外国人材の更なる活用に向けた取組が政府一体となって進められており、今後、来日外国人の一層の増加が見込まれる中で、これらが、不法就労や不法残留、来日外国人犯罪の増加等につながることがないよう、引き続き、関係機関と連携した対策を講ずる必要がある。

(1)来日外国人による犯罪の検挙状況

① 全般的傾向

来日外国人犯罪の検挙状況の推移は、図表-28のとおりである。平成17年から26年にかけて、刑法犯の検挙件数は2万3,373件(70.7%)減少しており、包括罪種別にみると、図表-30のとおり、侵入窃盗を始めとする窃盗犯の検挙件数が2万8,525件から6,716件へと最も大きく減少(76.5%)している。また、17年から26年にかけて、特別法犯の検挙件数は9,277件(62.6%)減少しており、適用法令別にみると、図表-30のとおり、不法残留、不法在留を始めとする入管法(注)違反の件数が1万2,199件から3,855件へと最も大きく減少(68.4%)している。

注:出入国管理及び難民認定法
 
図表-28 来日外国人犯罪検挙状況の推移(平成元年~26年)
図表-28 来日外国人犯罪検挙状況の推移(平成元年~26年)
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図表-29 来日外国人犯罪検挙状況の推移(平成17年~26年)
図表-29 来日外国人犯罪検挙状況の推移(平成17年~26年)
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図表-30 来日外国人犯罪の包括罪種別刑法犯・適用法令別特別法犯検挙件数の状況(平成17年、26年)
図表-30 来日外国人犯罪の包括罪種別刑法犯・適用法令別特別法犯検挙件数の状況(平成17年、26年)
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② 不法滞在者による犯罪

来日外国人の正規滞在・不法滞在別の検挙人員の状況をみると、図表-31のとおり、17年から26年にかけて、不法滞在者(注)の検挙人員は、1万1,839人から1,882人へと大きく減少(84.1%)している。

不法滞在者の検挙人員の大幅な減少は、警察と関係機関が緊密に連携し、入管法に基づく入国警備官への被疑者の引渡しのほか、入国管理局との合同摘発を積極的に行うなどの対策を講じたことにより、不法滞在者数が減少したことによるものと考えられる。

しかしながら、近年、来日外国人の数が増加する中、来日した外国人が不法に就労する事例も少なくなく、さらに、不法に就労するよりも効率的に金銭を得ることができるとして、犯罪に手を染めるようになる者も依然としてみられる。

注:入管法第3条違反の不法入国者、入国審査官から上陸の許可を受けないで本邦に上陸した不法上陸者及び適法に入国した後在留期間を経過して残留している者等の不法残留者
 
図表-31 来日外国人の正規滞在・不法滞在別による検挙人員の状況(平成17年、26年)
図表-31 来日外国人の正規滞在・不法滞在別による検挙人員の状況(平成17年、26年)
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事例

人材派遣会社代表取締役の日本人の男(51)は、25年8月から26年6月までの間、技能実習の在留資格で入国したまま在留期間が経過していた複数のベトナム人を作業所で働かせていた。26年7月までに、同会社代表取締役を入管法違反(不法就労助長)で、ベトナム人4人を入管法違反(不法残留)でそれぞれ逮捕した(兵庫)。

③ 国籍・地域別検挙状況

近年の来日外国人犯罪の刑法犯検挙人員を国籍・地域別にみると、過去10年間、中国(台湾及び香港等を除く。)が継続して最も高い割合を占めている。一方、最近では、ベトナム人の検挙人員の割合が高くなっており、26年中は、その検挙人員の68.8%(782人)が万引きにより検挙されている。

過去10年間の来日外国人犯罪の刑法犯検挙件数を罪種別にみると、窃盗犯が継続して最も高い割合を占めている。さらに、26年中の窃盗犯を主たる被疑者の国籍・手口別にみると、侵入窃盗は、中国が32.4%と最も高い割合を占め、コロンビアが24.7%、韓国が13.5%と続いている。自動車盗は、ブラジルが37.9%と最も高い割合を占め、ベトナムが27.3%、スリランカが18.1%と続いている。万引きは、ベトナムが51.7%と最も高い割合を占め、中国が23.2%、韓国が4.3%と続いている。このように、罪種等によって被疑者の国籍・地域に大きな差異がみられる。

 
図表-32 来日外国人犯罪の国籍・地域別刑法犯検挙人員の状況(平成17年、26年)
図表-32 来日外国人犯罪の国籍・地域別刑法犯検挙人員の状況(平成17年、26年)
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(2)国際犯罪組織の実態

① 来日外国人犯罪の組織化の状況

平成26年中の来日外国人による刑法犯の検挙件数に占める共犯事件の割合は35.1%と、日本人(12.7%)の約2.8倍に上り(注)、来日外国人が組織的に犯罪を敢行している状況がうかがわれる。罪種別にみると、住宅を対象とした侵入窃盗の共犯事件の割合が過去10年間継続して高く、26年中は72.7%となっている。

注:来日外国人と日本人の共犯事件については、主たる被疑者の国籍・地域により、来日外国人による共犯事件であるか、日本人による共犯事件であるかを分類して計上している。
② 日本で活動する国際犯罪組織の特徴

国際犯罪組織(注)のうち、来日外国人で構成される犯罪組織についてみると、出身国や地域別に組織化されているものがある一方で、より巧妙かつ効率的に犯罪を敢行するため、様々な国籍の構成員が役割を分担するなど、構成員が多国籍化しているものがあるほか、暴力団と連携する例もみられる。

これらの犯罪組織の中には、短期滞在の在留資格等により来日し、犯行後は本国に逃げ帰るいわゆるヒット・アンド・アウェイ型の犯罪を敢行するものもある。

犯罪行為や被害の発生場所等の犯行関連場所についても、日本国内にとどまらず2、3か国に及んだり、被疑者や被害者との関係を有しない地域であったりするものがある。特に近年は、インターネットバンキングのID、パスワード等を不正に入手し、これを用いて他人の口座へ不正送金を行う事犯が急増しており、これらの資金が外国人名義の口座に送金されたり、資金移動業者を介して国外送金されるなど、世界的な展開がみられる。

注:外国に本拠を置く犯罪組織、来日外国人犯罪グループその他犯罪を目的とした多人数の集合体で国際的に活動するもの
 
図表-33 来日外国人と日本人の刑法犯における共犯率の違い(平成26年)
図表-33 来日外国人と日本人の刑法犯における共犯率の違い(平成26年)
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事例

パキスタン人の男(52)らは、24年11月から25年11月までの間、海外から入手したカードデータを基に、クレジットカードを偽造した上で、当該カードを高速道路料金所、商業施設等において使用していた。また、ロシアに不正に輸出する目的で広域的に自動車を窃取していた。26年1月までに、同男らパキスタン人6人、日本人5人、インド人1人及びロシア人5人を不正作出支払用カード電磁的記録供用罪、電子計算機使用詐欺罪、窃盗罪等で逮捕した(埼玉、富山、奈良)。

事例

ナイジェリア人の男(32)らは、日本国内において多数の銀行口座を開設の上、これらをシンガポール及び米国で敢行された詐欺事件による詐取金(総額約3億円)の入金先口座として利用し、詐取金入金後にこれを日本国内で引き出し、海外に送金するなどしていた。26年10月までに、同男らナイジェリア人2人、日本人1人を組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)、詐欺罪等で逮捕した(新潟、埼玉)。

(3)国際犯罪組織に利用される犯罪インフラの実態

国際犯罪組織は、犯罪インフラを利用して各種犯罪を効率的に敢行しており、国際犯罪組織が関与する犯罪インフラ事犯には、地下銀行(注1)による不正な送金、偽装結婚(注2)、偽装認知(注3)、旅券・在留カード等偽造(注4)、不法就労助長(注5)等がある。

地下銀行は、不法滞在者等が犯罪収益等を海外に送金するために利用されており、近年は、送金依頼を受けた資金で中古重機や農機具等を購入し、正規の貿易を装って輸出して現地で換金するなど手口が巧妙化している。旅券・在留カード等偽造は、身分偽装手段として利用されるほか、国際犯罪組織が違法に資金を得るために偽造に関与し、不法滞在者等に偽造品を販売することもある。偽装結婚、偽装認知、不法就労助長は、不法滞在者等に在留資格を不正取得させたり、就労の機会を提供することで不法滞在等の犯罪を助長しており、これを仲介して利益を得るブローカーや、暴力団が関与するものがみられる。また近年では、在留資格の不正取得や不法就労を目的とした難民認定制度の悪用が疑われる例も発生している。

注1:銀行業を営む資格のない者が、報酬を得て国外送金を代行することなど
注2:「日本人の配偶者等」等の在留資格を得る目的で、日本人等との間で、婚姻の意思がないのに市区町村に内容虚偽の婚姻届等を提出すること
注3:不法滞在等の外国人女性が、外国人男性との間に出生した子等に日本国籍を取得させるとともに、自らも長期の在留資格を取得する目的で、市区町村に日本人男性を父親とする内容虚偽の認知届等を提出すること
注4:外国人が正規の出入国者、滞在者、運転免許保有者、就労資格保持者等を装う目的で、旅券、在留カード、運転免許証その他の身分証明書等を偽造し、又は行使すること
注5:就労資格のない来日外国人を不法に就労させ、又は不法就労をあっせんすること

事例

タイ人の女(44)らは、平成14年6月から25年5月にかけて、依頼人から集めた現金を中古バイクに換えてタイに輸出し、同国内で換金するなどの手口で地下銀行を営み、合計約131億円を不正送金していた。25年8月までに、同女らタイ人9人及び日本人1人を銀行法違反(無免許営業)等で逮捕した(埼玉、栃木、三重)。

事例

行政書士の日本人の男(35)らは、中国人の男らに「投資・経営」等の在留資格を得させるため、24年3月から26年4月にかけて、同中国人の男らを取締役とする虚偽の会社設立登記申請書を作成し、同申請書を法務局に提出するなどした。26年10月までに、日本人4人及び中国人12人を、電磁的公正証書原本不実記録罪、司法書士法違反(無資格での業務)等で検挙した(千葉)。

コラム 日本で犯罪を行った理由

捜査等の過程で、検挙された来日外国人等が、次のように話している例があり、日本の経済的豊かさ等を理由として日本で犯罪を行っている状況がうかがわれる。

(窃盗)

・ 本国で勤めていた自動車販売会社の社長から、「日本製自動車や部品を売れば儲かる」と聞いていたので、金儲けのために日本で自動車を盗むことを決意した(ロシア人)。

・ 知人から、「日本で窃盗をすれば大金が手に入る」、「仲間がいるので紹介する」と誘いを受け、偽造旅券で日本に入国した(コロンビア人)。

(偽装結婚)

・ 本国にいるとき、ブローカーから、「日本人の配偶者となれば、長い期間日本に滞在できて、お金を稼げる」と誘われ、日本で偽装結婚をした(フィリピン人)。

・ 日本人の配偶者という資格であれば、警察や入国管理局の摘発を免れることができ、ホステス側も働いて金を返せるし、給料から天引きすることにより店側も仲介料等を確実に回収できるというメリットがある(日本人ブローカー)。



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