特集 組織犯罪対策の歩みと展望

第1節 組織犯罪情勢の推移

1 暴力団情勢

(1)暴力団の勢力と動向

暴力団は、一般に、その起源である博徒(注1)や的屋(注2)の習慣であった盃事(さかずきごと)といわれる儀式を通じ、構成員同士で擬制的血縁関係を結び、首領を親分、配下を子分、先輩を兄貴分などと位置付けるとともに、このような封建的な身分律に支配された関係や行動を、仁義、義理人情等と称する彼らの独特の虚飾の論理によって正当化しようとしている。

しかしながら、実際には、暴力団は、その威力を背景として経済的利益を追求するなど、一般の法秩序を逸脱した行動原理にのっとって、様々な不法・不当な活動を行っている。また、暴力団の意に沿わない事業者を対象とした報復・見せしめ目的とみられる襲撃事件を敢行したり、組織の継承等をめぐって銃器を用いた対立抗争事件を引き起こしたりするなど、自己の目的を遂げるためには手段を選ばない凶悪性もみられる。

注1:縄張内で非合法な賭博場を開き、そこから利益(寺銭)を上げることを稼業としている者の集団
注2:縁日、祭礼等に際し、境内や街頭で営業を行う露天商や大道芸人等の集団のうち、縄張を有しているもので、暴力的不法行為等を行い、又は行うおそれのあるもの
① 暴力団構成員及び準構成員等の推移

暴力団構成員及び準構成員等(注1)の推移は、図表-1のとおりである。その総数は、平成8年から16年にかけて緩やかに増加してきたが、17年から減少し、26年末現在で約5万3,500人と、4年の暴力団対策法(注2)施行後で最少を記録した。その背景としては、近年の暴力団排除活動の進展や暴力団犯罪の取締りに伴う資金獲得活動の困難化等により、暴力団からの構成員の離脱が進んだことなどが考えられる。

他方、山口組、住吉会及び稲川会の3団体の暴力団構成員及び準構成員等の数は、18年から減少しているものの、総数に占める割合は7割以上に及んでおり、依然としてこれら3団体による寡占状態が続いている。中でも、山口組の暴力団構成員及び準構成員等の数は、総数の43.7%を占めている。

注1:暴力団構成員以外の暴力団と関係を有する者であって、暴力団の威力を背景に暴力的不法行為等を行うおそれがあるもの、又は暴力団若しくは暴力団構成員に対し資金、武器等の供給を行うなど暴力団の維持若しくは運営に協力し、若しくは関与するもの
注2:暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律
 
図表-1 暴力団構成員及び準構成員等の推移(平成17~26年)
図表-1 暴力団構成員及び準構成員等の推移(平成17~26年)
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② 暴力団の解散・壊滅等の状況

26年中に解散・壊滅した暴力団の数は152組織であり、これらに所属していた暴力団構成員の数は710人である。このうち山口組、住吉会及び稲川会の3団体の傘下組織の数は125組織(82.2%)であり、これらに所属していた暴力団構成員の数は618人(87.0%)である。解散・壊滅の理由としては、事件検挙によるもの、首領の死亡、引退、絶縁等によるものなどがみられる。

また、近年の暴力団構成員及び準構成員等の年齢構成をみると、40歳未満の層の減少が顕著であり、暴力団の高齢化が進んでいる。

暴力団の資金獲得活動の困難化等により、暴力団の組織を支える資金が不足するだけでなく、新たに暴力団に加入する者が減少し、運営が困難になっている組織もあるものとみられる。

 
図表-2 暴力団構成員及び準構成員等の年齢構成(平成18年、22年、26年)
図表-2 暴力団構成員及び準構成員等の年齢構成(平成18年、22年、26年)
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コラム 暴力団構成員の意識

捜査等の過程で、暴力団構成員が次のように話している例があり、暴力団構成員が将来について不安を抱いている状況がうかがわれる。

・ このままでは、構成員数が減ることはあっても増えることはなく、組織の発展もない。

・ いい思いができると思ってヤクザになったが、現実は違った。

・ 暴力団の世界では、金を持っている人間しか生き残れない。

・ 生活は非常に厳しい。ヤクザをやっていても未来が見えない。

③ 暴力団の指定状況

27年6月1日現在、暴力団対策法の規定に基づき、21団体が指定暴力団として指定されている。26年中は、浪川睦会が3回目の指定を受けたほか、5団体(注)が8回目の指定を受けた。

注:三代目侠道会、太州会、九代目酒梅組、極東会及び二代目東組
 
図表-3 指定暴力団(21団体)
図表-3 指定暴力団(21団体)
④ 暴力団の犯罪性の高さ

暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者(以下「暴力団構成員等」という。)の検挙状況は、図表-4のとおり近年減少傾向にある。しかしながら、罪種別の検挙人員に占める暴力団構成員等の割合をみると、殺人等の凶悪犯罪や、恐喝、覚せい剤取締法違反等の犯罪において高い水準にあり、暴力団が治安に対する大きな脅威となっている。

 
図表-4 暴力団構成員等の検挙人員の推移(平成17~26年)
図表-4 暴力団構成員等の検挙人員の推移(平成17~26年)
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図表-5 罪種別検挙人員に占める暴力団構成員等の割合(平成26年)
図表-5 罪種別検挙人員に占める暴力団構成員等の割合(平成26年)
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暴力団犯罪の具体的な態様をみても、暴力団は、首謀者による指示の下、犯罪を実行する者、見張りをする者、現場の下見をする者、逃走用車両を運転する者等に役割を分担したり、フルフェイスのヘルメット等の着用により顔を隠すとともに、髪の毛等の物的証拠が残らないようにしたりするなど、組織的・計画的に犯罪を敢行しており、その悪質性は高い。また、警察による取締りを警戒し、取調べにおいて供述を拒否するよう組織的に指示の徹底を図るなど、構成員等に対する統制を強化している状況もみられる。

暴力団は、このように組織防衛を徹底する一方で、その意に沿わない事業者を対象とした報復・見せしめ目的とみられる襲撃事件や、組織の内紛等に起因する対立抗争事件を引き起こしている。近年の暴力団等によるとみられる事業者襲撃等事件(注)及び対立抗争事件の発生状況は、図表-6のとおりである。

注:暴力団構成員、暴力団準構成員、総会屋、政治活動標ぼうゴロ、社会運動標ぼうゴロ、会社ゴロ、新聞ゴロ等が、その意に沿わない活動を行う企業(株式会社等の会社、信用組合、医療法人、学校法人、宗教法人その他の法人をいう。)その他の事業者に対して威嚇、報復等を行う目的で、当該事業者又はその役員、経営者、従業員その他の構成員若しくはこれらの者の家族を対象として敢行したと認められる事件のうち、次のいずれかに該当するもの
1 殺人、殺人未遂、傷害、傷害致死、逮捕及び監禁、逮捕及び監禁致死傷又は暴行
2 上記1に該当しない次の事件
(1)銃器の使用  (2)実包(薬きょうを含む。)の送付  (3)爆発物の使用(未遂を含む。)
(4)放火(未遂を含む。) (5)火炎瓶の使用(未遂を含む。)
(6)上記(1)から(5)までに掲げるもののほか、車両の突入によるなど人の生命又は身体に重大な危害を加えるおそれがある建造物損壊、器物損壊又は威力業務妨害
 
図表-6 暴力団等によるとみられる事業者襲撃等事件の発生件数等の推移(平成22~26年)
図表-6 暴力団等によるとみられる事業者襲撃等事件の発生件数等の推移(平成22~26年)
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事例

共政会傘下組織組長(45)らは、風俗店経営者からみかじめ料を徴収しようと企て、24年12月から25年7月までの間、同組長の指示の下、同店に電話をかけて脅迫するとともに、みかじめ料の支払いを拒まれたことから、同店従業員が使用する車両への追尾、襲撃等を行った。26年3月までに、同組長ら9人を恐喝未遂罪で逮捕(同月、組織的犯罪処罰法(注)違反(組織的恐喝未遂)で起訴)した(広島)。

注:組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律
⑤ 銃器情勢と暴力団

26年中に発生した銃器使用事件(注1)は、147件と、前年より19件(14.8%)増加した。このうち、銃器発砲事件(注2)は32件、その他の銃器使用事件(過失による発砲に係るもの及び発砲を伴わないもの)は115件であった。

近年の銃器発砲事件の発生状況は、図表-7のとおりである。銃器発砲事件による死傷者数は近年減少傾向にあるものの、暴力団等によるとみられるものが多数を占める傾向が続いており、また繁華街や住宅街における拳銃を使用した凶悪な犯罪も後を絶たないことから、引き続き警戒が必要である。

近年、拳銃の全押収丁数に占める暴力団からの押収丁数(注3)の割合は、減少傾向にある。その背景には、暴力団の組織防衛の強化による情報収集の困難化や、拳銃の隠匿方法の巧妙化等があるものと考えられる。

注1:銃砲及び銃砲様の物を使用した事件。「銃砲」とは、「けん銃、小銃、機関銃、砲、猟銃その他金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲及び空気銃」(銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)第2条第1項)をいう。「銃砲様の物」とは、銃砲らしい物を突き付け、見せるなどして犯行に及んだ事件において、被害者、参考人等の供述等により、銃砲と推定されるものをいう。
注2:銃砲を使用して金属製弾丸を発射することにより、人の死傷、物の損壊等の損害が発生したもの及びそのおそれがあったものをいう(過失及び自殺を除く。)。
注3:暴力団が管理している拳銃と認められるものの押収丁数
 
図表-7 銃器発砲事件の発生状況と死傷者数の推移(平成17~26年)
図表-7 銃器発砲事件の発生状況と死傷者数の推移(平成17~26年)
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図表-8 拳銃押収丁数の推移(平成17~26年)
図表-8 拳銃押収丁数の推移(平成17~26年)
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コラム 準暴力団の動向

近年、繁華街・歓楽街等において、暴走族の元構成員等を中心とする集団に属する者が、集団的又は常習的に暴行、傷害等の暴力的不法行為等を行っている例がみられる。こうした集団は、暴力団と同程度の明確な組織性は有しないものの、様々な資金獲得犯罪や各種の事業活動を行っており、中には、暴力団等の犯罪組織との密接な関係がうかがわれるものも存在している。警察では、こうした集団を準暴力団と定義し、実態解明の徹底及び違法行為の取締りの強化等に努めている。

事例

準暴力団チャイニーズドラゴンのリーダー格の男(44)らは、25年9月から26年10月までの間、都内に所在する飲食店経営者に対し、「これから俺たちが仕切る」などと申し向け、みかじめ料名目で合計70万円を喝取した。同年11月、同男ら4人を恐喝罪で逮捕した(警視庁)。

(2)暴力団による資金獲得活動の実態

暴力団は、暴力と組織の威力を最大限に利用しつつ、より巧妙かつ効率的に経済的利益を得るため、経済・社会の発展等に対応して、その資金獲得活動を変化させ続けている。

① 暴力団による資金獲得活動の変遷

博徒や的屋、愚連隊を起源とする暴力団は、戦後の混乱期に闇市の支配権を確立するとともに、賭場を開き、又は組織力をいかして覚醒剤を密売するなどして、その勢力を拡大した。また、昭和20年代から30年代にかけて、経済復興に伴う闇市の消滅、公営競技の再開等がみられると、組織の維持・拡大を図るため、恐喝、公営競技のノミ行為等へと、資金獲得活動を多様化させていった。

覚せい剤取締法違反、恐喝、賭博及びノミ行為等の4種類の犯罪は、暴力団による伝統的資金獲得犯罪である。暴力団構成員等の総検挙人員のうち、伝統的資金獲得犯罪に係る検挙人員の占める割合は3割程度で推移しており、依然として有力な資金源となっている。

他方、暴力団に対する取締りが強化されていく過程で、暴力団は、摘発のリスクを逃れつつ、より安定的に資金を獲得するため、明らかに違法な資金獲得活動から、暴力団の威力を示すことによる不当な金銭等の要求行為へと重点を移行するようになった。40年代から50年代にかけて増加した民事介入暴力や企業対象暴力、バブル期における不動産取引等への介入、バブル崩壊後における金融機関の不良債権処理への介入等は、その典型である。

さらに、近年、暴力団は、その実態を隠蔽しながら各種の事業活動へ進出するなどし、一般社会での不透明な資金獲得活動を活発化させているほか、各種公的給付制度等を悪用した詐欺、振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺等への関与を深めるなど、その活動分野を更に拡大している状況がうかがわれる。

 
図表-9 伝統的資金獲得犯罪の検挙人員の推移(平成17~26年)
図表-9 伝統的資金獲得犯罪の検挙人員の推移(平成17~26年)
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図表-10 暴力団の資金獲得活動の変遷
図表-10 暴力団の資金獲得活動の変遷
② 威力を示さない資金獲得活動の増加

近年の暴力団構成員等の罪種別検挙状況をみると、恐喝、傷害等の暴力団の威力をあからさまに示す形態の犯罪の割合が減少傾向又は横ばいで推移する一方で、必ずしも暴力団の威力を示す必要のない詐欺の割合が増加している。また、暴力団が、インターネットを利用して偽ブランド品を販売し、資金を獲得している例もみられる。

この背景としては、数次にわたる暴力団対策法の改正による規制の強化、社会における暴力団排除活動の進展等により、暴力団の威力をあからさまに示して行う資金獲得活動が困難化したことなどが考えられる。

 
図表-11 暴力団構成員等の罪種別検挙人員の状況(平成17年、26年)
図表-11 暴力団構成員等の罪種別検挙人員の状況(平成17年、26年)
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事例

山口組傘下組織構成員(39)は、生活保護費をだまし取ろうと企て、暴力団構成員であることを隠して生活保護の適用要件を満たしているかのように装い、平成25年3月から同年12月にかけて生活保護費合計約140万円をだまし取った。26年4月、同構成員を詐欺罪で逮捕した(岩手)。

③ 資金獲得活動の不透明化・多様化

近年、暴力団に対する取締りの強化等に伴い、暴力団と強い結び付きがありながら、正式に組織に所属しない者が増加しているとみられるほか、暴力団の周囲にある者の活動実態や暴力団との関係性も多様化している状況にある。

例えば、暴力団は、従来から、準構成員や元暴力団構成員が実質的に経営する暴力団関係企業を利用した資金獲得活動を活発化させてきたが、近年では、暴力団関係企業以外にも、暴力団の資金獲得活動に協力し、又は関与する共生者(注)の存在がうかがわれる。暴力団関係企業や共生者は、暴力団の威力等を背景として、経済取引や法制度を悪用し、自らの利益を拡大しているだけでなく、暴力団との関係を隠しつつ、暴力団が違法又は不当に獲得した資金を合法的な事業に投資したり、威力等を利用する対価として暴力団に資金を提供したりするなど、暴力団の資金獲得活動を不透明化させている。

また、暴力団が、より安定的に資金を獲得するため、みかじめ料の徴収方法を巧妙化させるなど、新たな態様により資金を獲得している例もみられる。

注:暴力団に利益を供与することにより、暴力団の威力、情報力、資金力等を利用し自らの利益拡大を図る者
 
図表-12 不透明化する暴力団の資金獲得活動
図表-12 不透明化する暴力団の資金獲得活動
ア 繁華街・歓楽街における資金獲得活動

飲食店・風俗店等が集中し、多額の消費活動が行われる繁華街・歓楽街は、伝統的に暴力団による資金獲得活動の場となってきたが、近年では、暴力団が警察による取締りを逃れるため、共生者等を利用しつつ、資金獲得活動を更に巧妙化させている状況がみられる。

具体的には、暴力団は、正規に営業する飲食店を仮装した違法カジノ店や違法風俗店の経営を行っており、摘発された場合であっても実質的に経営をしている首謀者等が検挙されることがないよう、名義だけの店長や経営者を置くなどして、組織の関与を隠蔽している。また、飲食店や風俗店の店長等から、家賃や広告料、おしぼり代等の名目でみかじめ料を徴収するなど、民事取引を仮装した不当要求行為を行っている例も多い。

事例

山口組傘下組織構成員(39)は、自らが実質的に経営する飲食店において、神奈川県公安委員会の許可を受けずに、ホステスに飲食客を接待させていた。24年5月、同構成員及び同店店長(43)を風営適正化法(注)違反(無許可営業)で逮捕した(神奈川)。

注:風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律
イ 建設分野における資金獲得活動

建設業界においては、1件の工事に複数の事業者が関与する場合が多く、施主との建設請負、建設資材の購買、建設機材のリース、労働者派遣等、関連する事業の内容も多岐にわたる。また、規模が大きな工事ほど下請業者等に対する再委託契約が数多く連鎖することが多い。このような取引構造から、暴力団関係企業等が下請に参入したり、コンサルタントと称して取引に介入したりする危険性が高く、従来から暴力団による公共事業等への参入がみられた。特に、近年では、暴力団が、元暴力団構成員等が経営する暴力団関係企業のほか、一見して暴力団との関係が判明しない共生者を介して、公共事業等に参入したり、東日本大震災の復旧・復興事業に労働者を違法に派遣したりする例がみられる。これらの中には、共生者においても、自らが実質的に経営に関与しているにもかかわらず、名義だけの経営者を置くなどして暴力団と企業との関係を更に巧妙に隠蔽していた例もあり、資金獲得活動の実態が一層不透明化している。

今後、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の関連施設整備等による建設需要の増大が見込まれるところであり、暴力団が、暴力団関係企業や共生者を利用して、これらの事業への参入を図ることも強く懸念される。

 
図表-13 建設業界における資金獲得活動の例
図表-13 建設業界における資金獲得活動の例

事例

26年3月、住吉会傘下組織幹部(51)を暴力行為等処罰二関スル法律違反で検挙したところ、その捜査の過程で、建設会社役員が、同幹部と社会的に非難される密接な関係を有していることが判明した。同年6月、東京都、墨田区等合計36地方公共団体に通報し、同社を公共工事から排除した(警視庁)。

ウ 売春等への関与による資金獲得活動

暴力団は、従来から売春等に関与して資金を獲得してきたが、近年では、店舗を設けることなく、出会い系サイト等を利用して組織的に児童買春の周旋を行う事犯がみられるなど、悪質かつ巧妙な売春関係事犯を敢行し、資金を獲得している状況がうかがわれる。

事例

山口組傘下組織幹部(42)らは、無職の少女(16)らを雇い入れ、「援助交際」を装い、出会い系サイトを利用して、組織的に児童買春等の周旋を行っていた。25年1月までに、同幹部ら16人を児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為)等で逮捕した(福岡、大分)。

エ 公的給付制度を悪用した資金獲得活動

近年、暴力団が、生活困窮者に違法な高金利で金銭を貸し付けたり、ホームレスを施設に入居させたりした上で生活保護を申請させ、返済金や家賃等の名目で不当に生活保護費を搾取する「貧困ビジネス」に関与する例がみられる。また、東日本大震災による被災者を対象とした貸付制度を悪用して資金を獲得している例もある。暴力団が、生活困窮者等を対象とした公的給付制度に目をつけ、これを悪用しているものと考えられる。

事例

山口組傘下組織組長(60)らは、22年12月から25年5月にかけて、生活保護受給者の男性2人に対して、計約200万円を貸し付け、法定利息を上回る約50万円の利息を受け取っていた。25年6月、同組長ら2人を出資法(注)違反(高金利の受領)で逮捕した(警視庁)。

注:出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律
オ 不良グループを利用した資金獲得活動

近年、暴力団が、暴走族その他の不良グループによる犯罪活動への投資等を行ったり、各種トラブルを解決したりすることの対価として、これらの集団から金銭の提供を受けている状況がうかがわれる。暴力団排除活動の進展により一般社会での資金獲得活動が困難となった暴力団が、構成員の人的供給源としてだけではなく、安定的に資金を獲得できる対象として、これらの不良グループを利用しているものと考えられる。

コラム 資金獲得活動の具体的態様

捜査等の過程で、暴力団構成員らが次のように話している例があり、暴力団が共生者を活用するなどして資金獲得活動を巧妙化させている状況がうかがわれる。

○ 今の時代、暴力団構成員自らがシノギ(資金獲得活動)を行うことは難しいので、不良グループや破門者(元暴力団構成員)を利用し、堅気(かたぎ)の者を会社の代表者にして経営させている(暴力団構成員)。

○ 性風俗営業では、女性従業員の引き抜き等に伴うトラブルが多く、その大半には暴力団が介入することから、暴力団が経営に関与しない店舗であっても、定期的に金銭を暴力団に支払っているのではないか(無店舗型性風俗特殊営業経営者)。

○ A組を後ろ盾として、土木建設の談合を取りまとめている。A組組長には、資金の提供を行っているほか、ゴルフを一緒に行うなどしている(建設会社経営者)。

○ 月約13万円の生活保護費は、住居費と食費が除かれた後、小遣いとして1万5,000円が与えられたものの、残金は貰えなかった。施設経営者のBは、暴力団関係者であると噂されていた(無料低額宿泊所入居者)。

○ Cさん(暴力団関係者)には、他のグループとトラブルになった場合の仲裁等をお願いし、ひったくり等で手に入れたお金を渡していた(「旧車會」(注)メンバ-)。

注:163頁参照

(3)第一線から見た暴力団の動向

警察庁では、近年における暴力団の活動実態の変化の状況等を的確に把握し、今後の対策に役立てるため、平成26年12月から27年1月にかけて、警視庁及び道府県警察本部の情報官(注1)等を対象としたアンケート(注2)を実施した。また、27年2月には、より詳細に実態を把握するため、暴力団が関与する事件の捜査指揮に当たった警察官等による意見交換会(以下「意見交換会」という。)(注3)を行った。以下のアンケート結果の評価・分析に当たっては、意見交換会における議論を参考とした。

注1:警視庁及び道府県警察本部の組織犯罪対策部門においては、関係する様々な部門が保有する組織犯罪に関する情報を一元的に集約・分析するとともに、関係部門間における情報の共有化等を図ることにより、より戦略的な組織犯罪対策を講ずるため、総括情報官、情報官等を設置する「情報官制度」を導入している。
注2:暴力団対策部門の情報官等を対象としたアンケート(以下「暴力団対策部門等に対するアンケート」という。135人が回答した。)並びに薬物対策部門、銃器対策部門、国際組織犯罪対策部門、犯罪収益対策部門、強行犯捜査部門、知能犯捜査部門、盗犯捜査部門、少年事犯対策部門、風俗関係事犯対策部門、サイバー犯罪対策部門、生活経済事犯対策部門及び暴走族対策部門の警察官を対象としたアンケート(以下「関係部門に対するアンケート」という。522人が回答した。)を実施した。
注3:窃盗犯、知能犯、薬物事犯、犯罪インフラ事犯等を含む、暴力団が関与していた重要な事件であって最近検挙されたものにおいて捜査指揮に当たった警察官8人と警察庁職員が参加した。
① 暴力団情勢の変化

「暴力団対策部門等に対するアンケート」において、近年の暴力団の勢力の変化について質問したところ、「全体的に弱体化している」と「多くの暴力団は弱体化しているが、一部の暴力団は勢力を維持又は拡大している」との回答が合計で69.7%に上った。他方で、少なくとも一部の暴力団は勢力を維持又は拡大していると考えている者も合計で76.3%に上ることから、第一線においては、暴力団の弱体化が進む中で、勢力を維持又は拡大する組織が一定数存在しているとの見方がされているものと考えられる。さらに、暴力団が勢力を維持又は拡大する要因について質問した(注)ところ、図表-15のとおり、共生者等が暴力団の活動を助長し、又は容易にしているとの回答を選択した者が最も多かった。

注:「全体的に弱体化している」又は「わからない」と回答した者以外に対して質問した。
 
図表-14 近年の暴力団の勢力の変化
図表-14 近年の暴力団の勢力の変化
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図表-15 暴力団が勢力を維持・拡大している要因(複数回答・3つまで選択可)
図表-15 暴力団が勢力を維持・拡大している要因(複数回答・3つまで選択可)
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また、10年後の暴力団勢力はどのように変化していると思うか質問したところ、「資金獲得活動の態様がより巧妙化する」との回答が最も多かった(図表-16)。これに次いで、「主要3団体の寡占化がより進展する」との回答と、「新たな分野における資金獲得活動が進む」との回答を選択した者が多かった。

 
図表-16 10年後の暴力団勢力は、現在と比べてどのように変化していると思うか(複数回答)
図表-16 10年後の暴力団勢力は、現在と比べてどのように変化していると思うか(複数回答)
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② 近年の暴力団活動の変化の具体的内容

「暴力団対策部門等に対するアンケート」においては、近年暴力団が勢力を維持又は拡大している状況を示す具体的な理由やエピソードについても回答を求めた(自由記載)。また、「関係部門に対するアンケート」においては、暴力団が関与し、又は関与がうかがわれる事案の捜査等における経験を通じ、それぞれの担当分野において近年感じている変化等について回答を求めた(自由記載)。

ア 資金獲得活動の巧妙化

これらのアンケートへの回答では、共生者等の利用や警察対策の徹底等により、暴力団の資金獲得活動が巧妙化していることを指摘する意見が多くみられた。

資金獲得活動の巧妙化

・ 暴力団構成員が共生者に不動産を取得させ、後で自分に所有権を移転させるなど、共生者の存在が暴力団の資産を形成する上での人的インフラとなっている。

・ 暴力団の関与がうかがわれる風俗店では、近年、前科前歴のない者を名義人にしたり、複数の者を介在させたりしており、暴力団の存在が見えにくくなっている。

・ 実際には、暴力団構成員として活動している実態がある者が、警察に離脱相談をするなどして暴力団を離脱したことを装って資金獲得活動を行っている。

・ 最近は、暴力団に所属せず、暴力団に犯罪収益が流れていることも自覚していない若者が、実行犯として利用されるケースがある。

暴力団構成員が、取調べに対して完全に黙秘したり、資金の流れを徹底して隠蔽したりする傾向も強まっているため、暴力団構成員かどうかの判断や資金源の解明が一層難しくなり、暴力団が潜在化していくことが危惧される。

イ 新たな分野への進出

特殊詐欺等の新たな分野への暴力団の進出を指摘する意見も多くみられた。

新たな分野への進出

・ 警察の取締りによって恐喝やみかじめ料等から得られる利益が枯渇しているため、暴力団が一度に多額の利益を得られる特殊詐欺に進出してきていると思われる。

・ 暴力団がIT企業からノウハウの提供を受けてフィッシング(注)を行っていた。今後ますます暴力団によるサイバー犯罪が増加すると思う。

・ サイバー犯罪は、以前は小規模、自己完結型の犯罪が多かったが、近年は、暴力団や外国人が関係するケースや、組織的に敢行されるケースが増加してきていると感じる。

・ 国内での資金獲得に危機感を有する暴力団幹部は、国外に資金源を求め始めている。

注:アクセス管理者になりすまし、当該アクセス制御機能にかかる識別符号の入力を求める行為をいう。いわゆるフィッシングサイトを公衆が閲覧できる状態に置く行為等

暴力団は、常に、検挙されるリスクが低く、労せずして経済的利益を得られる分野を求めていることから、暴力団の資金獲得活動の実態とその変化を注視していく必要がある。

ウ 暴力団の二極化

資金獲得が困難となっていることから、検挙されるリスクを冒して自ら犯罪に関与する者や、生き残りのために有力組織の傘下に入る暴力団の存在を指摘する意見もみられた。

暴力団の二極化

・ 捕まるヤクザは、金を持っていない者が多い。暴力団の中で格差が広がっており、金のないヤクザが危険を冒しているように感じられる。

・ 暴力団幹部が、組の運営資金を稼ぐために、自ら窃盗を敢行していた事件があった。

・ 山口組弘道会の存在が大きいため、弘道会の傘下に入ることで弱体化を防いでいる暴力団もあるとみられる。

共生者を利用するなどした資金獲得活動により、潤沢な資金を有する組織がある一方で、暴力団排除活動の進展等の情勢の変化により、資金が不足する組織も少なくない。暴力団に新たに加入する若者が減少し、構成員の高齢化が進んでいることも、特に規模の小さい組織における人材不足に拍車をかけ、いわば暴力団の二極化が進んでいると考えられる。



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