第5章 公安の維持と災害対策

2 国際テロ対策

我が国における国際テロの脅威が現実のものとなっている中、平成27年2月、改めてテロの未然防止及びテロへの対処体制の強化に取り組むための諸対策を検討するため、「警察庁国際テロ対策推進本部」を設置した。同年6月、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催までに、おおむね5年程度を目途として強力に推進すべき対策を取りまとめた「警察庁国際テロ対策強化要綱」を決定・公表した。

警察では、同要綱に基づき、情報収集・分析、水際対策や警戒警備、違法行為取締り、事態対処、官民連携といったテロ対策を強力に推進していくこととしている。


(1)テロの未然防止のための具体策

① 官民一体の「日本型テロ対策」の推進

テロを未然に防止するためには、警察による取組のみでは十分ではなく、民間事業者、地域住民等と緊密に連携し、官民が一体となってテロ対策を推進することが不可欠である。

例えば、警視庁等では、テロに対する危機意識の共有や大規模テロ発生時における協働対処体制の整備等を推進するために、官民連携の枠組みとして、テロ対策パートナーシップを構築し、研修会、訓練、パトロール等を実施している。

また、爆発物の原料となり得る化学物質については、薬局、ホームセンター等の店舗における購入やインターネットを利用した購入が可能な状況にあり、近年、我が国においても、市販の化学物質から爆発物を製造する事案が発生している。

このため、警察では、これらの化学物質の販売事業者に対して個別訪問を行い、販売時における本人確認の徹底や、盗難防止等の保管管理の強化を要請するほか、事業者とのロールプレイング型訓練を通じて不審な購入者に関する通報を促進するなどして、爆弾テロの未然防止を図っている。

さらに、テロリストが利用する可能性のある旅館、インターネットカフェ、賃貸マンション等を営む事業者に対しても、本人確認の徹底を促進するとともに、利用者に不審な点を発見した場合には、警察に速やかに通報するよう協力を求めるなどの対策を推進している。

 
東京空港パートナーシップ
東京空港パートナーシップ
 
警察と薬局従業員とのロールプレイング型訓練
警察と薬局従業員とのロールプレイング型訓練
② 核物質、特定病原体等の防護対策の強化

NBCテロ(注)の発生を未然に防止するため、警察では、核物質や特定病原体等を取り扱う事業所等に警察職員が定期的に立入検査を行うなどして、事業者の講ずる防護措置や盗難防止措置が適正なものとなるよう指導している。

注:N(Nuclear:核)B(Biological:生物)C(Chemical:化学)物質を使用したテロの略称
③ 国際協力の推進

国際テロ対策を推進するためには、我が国一国のみの努力では限界があり、世界各国との連携・協力が必要不可欠であることから、警察庁では、諸対策に関する国際会議等に積極的に参加している。また、例年、独立行政法人国際協力機構(JICA)と共催している国際テロ対策セミナーにおいて、世界各国から招へいした実務担当者に対し、テロ事件の捜査技術に関するノウハウの提供を行っている。

コラム 国際テロリスト財産凍結法の制定

我が国は、国際テロリストの財産の凍結等を求める国際連合安全保障理事会決議(注1)に基づき、外為法(注2)により国際テロリストに係る対外取引を規制している。他方で、国際テロリストに係る国内取引については規制されておらず、FATF(注3)からも早急に必要な法制上の措置を講ずることが求められていた。

このような状況を踏まえ、国際テロリストに係る国内取引について都道府県公安委員会の許可制とすることなどを内容とする国際テロリスト財産凍結法(注4)が、平成26年11月、第187回国会において成立した。

注1:国際連合安全保障理事会決議第1267号、同理事会決議第1373号等
注2:外国為替及び外国貿易法
注3:41頁参照
注4:国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法
 
図表5-5 国際テロリスト財産凍結法の概要
図表5-5 国際テロリスト財産凍結法の概要

(2)テロへの対処体制の強化

① テロ対処部隊の充実強化

警察では、万一テロが発生した場合に備え、特殊部隊(SAT)、銃器対策部隊、NBCテロ対応専門部隊等の各種部隊を設置し、その充実強化を図っている。また、有事の際に迅速的確な対処を可能とするため、関係機関と連携して、日々訓練を実施している。

 
図表5-6 テロ対処部隊の概要
図表5-6 テロ対処部隊の概要
② スカイ・マーシャルの運用

航空機がハイジャックされて自爆テロに用いられないようにするため、警察では、国土交通省等の関係機関や航空会社と緊密に連携して、平成16年12月から警察官が航空機に警乗するスカイ・マーシャルを運用している。

③ TRT-2(注1)の派遣

警察では、邦人や我が国の権益に関係する重大テロが国外で発生した場合には、情報収集や現地治安機関に対する捜査支援等を任務とするTRT-2を派遣することとしている。シリアにおける邦人殺害テロ事件においても、27年1月20日以降、外事特殊事案対策官(注2)等所要のTRT-2要員をヨルダンに派遣するなどし、外務省と連携の上、関係国の治安情報機関との情報交換等を行った。

注1:Terrorism Response Team - Tactical Wing for Overseas(国際テロリズム緊急展開班)の略
注2:平成25年1月に発生した在アルジェリア邦人に対するテロ事件を受け、国外における邦人や我が国の権益に関係するテロ事件等の重大突発事案に対処するために設置された。
 
図表5-7 TRT-2の概要
図表5-7 TRT-2の概要
④ 自衛隊等との共同訓練の推進

警察では、平素から防衛省・自衛隊と緊密な情報交換を行うとともに、都道府県警察と陸上自衛隊の師団等との間で武装工作員等による不法行為が発生した場合を想定した共同実動訓練を実施するなどし、重大テロ等が発生した場合に備えた対処体制の強化を図っている。このほか、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律に基づく関係機関との共同訓練を通じて、武力攻撃事態等(注1)及び緊急対処事態(注2)における被災情報等の収集、住民の避難要領等について習熟するよう努めている。

注1:武力攻撃事態(武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態)及び武力攻撃予測事態(武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態)
注2:武力攻撃に準ずる手段により多数の人を殺傷する行為が発生した場合又は発生する危険性が明白であると認められるに至った事態で国家として緊急に対処することが必要なもの
 
自衛隊との共同実動訓練
自衛隊との共同実動訓練
 
国民保護共同実動訓練
国民保護共同実動訓練

コラム 原子力関連施設におけるテロ対策

(1)福島第一原子力発電所事故の教訓

東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故においては、冷却機能の喪失等により原子炉が管理不能の状態に陥り、放射性物質等が外部に放出されるなど、原子力関連施設のぜい弱性を露呈した。こうした事態は、自然災害のみならずテロリスト等による妨害破壊活動によっても発生することが懸念される。

 
原子力関連施設の警戒
原子力関連施設の警戒

(2)テロ対策の推進

① テロ関連情報の収集・分析

警察では、原子力関連施設に対するテロを未然に防止するため、外国治安情報機関等との緊密な情報交換、関係省庁との連携による水際対策、不審人物や組織に関する情報の収集・分析等を実施している。

② 原子力関連施設における警戒警備

平成13年9月の米国同時多発テロ事件発生以降、サブマシンガン、ライフル銃、耐爆・耐弾仕様の車両等を装備した銃器対策部隊が、24時間体制で原子力関連施設の警戒警備に当たっている。また、東日本大震災を受け、警戒警備に従事する警察官を増員し、警戒要領を見直すとともに、爆発物使用事案及びNBCテロ事案への対処に係る装備資機材を整備・拡充するなどして、テロ対処能力の更なる強化を図り、原子力関連施設の警戒警備を一層強化している。

さらに、23年11月、政府は、原子力発電所等に対するテロを現実の脅威として再認識し、その未然防止対策を強化することを決定しており、その中で、警察庁、海上保安庁、防衛省等の関係省庁による継続的な連携強化が示された。これを受けて、各関係警察では、警察力だけでは対応することができないと認められる事案が発生した場合を想定し、24年以降、原子力発電所の敷地を利用して自衛隊との共同実動訓練を実施している。また、25年5月の福島第二原子力発電所における原発テロ対処合同訓練を始め、海上保安庁との合同訓練を定期的に実施している。

 
原子力発電所敷地を利用した自衛隊との共同実動訓練
原子力発電所敷地を利用した自衛隊との共同実動訓練

③ 警察庁職員による立入検査

原子力事業者との間では、警察庁職員が事業所等に定期的に立入検査を行うとともに、治安当局の立場から自主警戒に関する指導を行うことなどにより、事業者による防護措置が実効あるものとなるよう努めている。



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