特集:変容する捜査環境と警察の取組 

特集:変容する捜査環境と警察の取組

特集に当たって

戦後の警察制度等の改革により、警察は、独立した第一次捜査権を担うこととなり、自らの責任において国民のための捜査を遂行することとなりました。以来、警察捜査は、刑罰法規を適正かつ迅速に適用実現するための刑事司法手続上の役割を果たすだけでなく、個人の生命、身体及び財産を保護し、公共の安全と秩序を維持するという警察の責務の遂行において、重要な役割を果たすこととなりました。こうした役割を果たすため、警察では、その時々の犯罪情勢の変化に応じて、捜査力の充実強化に努めてきました。

刑法犯の認知件数が平成14 年をピークに一貫して減少しているなど、犯罪情勢には一定の改善がみられるほか、殺人や強盗を始めとした重要犯罪の検挙率も14 年以降改善傾向にあります。一方、国民が治安への不安を感じやすい犯罪の代表である窃盗犯の検挙件数は、過去20 年間で大きく落ち込んでいるほか、振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺の被害総額は過去最高となるなど、警察捜査は大きな課題にも直面しています。

こうした課題の背景には、社会情勢の変化や制度の変革に伴う、警察捜査をめぐる環境の変容があります。高齢化の進展や世帯構造の変化に伴い、単身独居の世帯が増えたことなどにより、地域社会における人間関係が希薄化し、聞き込み捜査のような警察の伝統的な捜査手法によって有力な情報を得ることは困難となっています。また、携帯電話やインターネットといった新しいサービスの普及は、国民生活や経済活動の利便性向上に大きく寄与している一方、こうしたサービスが悪用されることで、犯人の追跡が困難になっています。さらに、一連の司法制度改革による裁判制度やその運用の変革に伴い、取調べを中心に警察捜査自体の在り方も変革を迫られています。

このため、警察では、民間事業者からの協力の確保や科学技術の活用・体制の整備といった取組により、犯罪の痕跡と犯人とを結び付ける事後追跡可能性の確保に努めるとともに、客観証拠の収集を徹底し、適正に証拠化するための取組を進めています。また、取調べの録音・録画や新たな捜査手法の導入といった今後の警察捜査の在り方を変えていくこととなる施策についても検討を進めています。

この特集では、まず、第1節で犯罪情勢と捜査上の課題について概説します。そして、第2節で警察捜査に影響を与えている社会情勢の変化や制度の変革等について触れ、第3節でこれらに対応するための警察の取組を記述します。さらに、第4節で諸外国の捜査手法等について紹介した上で、第5節で警察捜査に関する世論調査の結果を紹介するとともに、今後の警察捜査の在り方について展望します。

今後の警察捜査の在り方は、国民の安全・安心を確保するために警察が果たすべき役割、ひいては、我が国の今後の治安と密接に関わっています。この特集が、国民の皆様の警察捜査に対する理解を深めるとともに、我が国の今後の治安について考えていただく一助となれば幸いです。


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