特集:変容する捜査環境と警察の取組 

第4節 諸外国の捜査手法等

警察では、社会情勢の変化や制度の変革による捜査環境の変容に対応するための取組を進めている。本節では、今後の警察捜査を展望する上で参考となる諸外国の捜査手法等について紹介する。

警察庁が行った諸外国の捜査手法等についての調査の結果によれば、図表-60のとおり、英国、米国、ドイツ、フランス、イタリア及びオーストラリア(以下「欧米各国等」という。)では、日本と比べて多様な捜査手法が活用されている。

通信傍受といった日本においても導入されている捜査手法が、非常に広範に活用されているほか、会話傍受、仮装身分捜査といった日本では現在導入されていない捜査手法が認められており、欧米各国等では、こうした捜査手法が困難な事件の捜査に用いられている。

また、欧米各国等においては、公判における証人出廷や証言の確保を目的として、証人やその家族の安全を確保するための様々な制度が設けられている。

これら以外にも、欧米各国等では、例えば、捜査段階における罰則付き文書等提出要求・命令(注1)(英国及び米国)、公的機関等のデータを広く捜査に活用するラスター捜査(注2)(ドイツ)等の捜査手法も導入されており、犯罪の捜査に幅広く用いられている。

注1:英国においては、重大又は複雑な詐欺罪の捜査につき、捜査に関連する事項についての文書の提出を要求することができ、合理的な免責事由がないのに要求に従わなかった者や、当該文書を変造、隠匿等した者には罰則が科せられる制度がある。また、米国においては、罰則付き召喚令状(Subpoena、サピーナ)により、証人に対し、文書やデータ等の提出を命ずることができ、従わなかった者には罰則が科せられる制度がある。

注2:捜査機関が被疑者等の発見を目的として、公的機関等のデータを入手し、そのデータと捜査の過程において判明した犯人像に関する特徴(Raster、ラスター)を比較する捜査手法。例えば、銀行強盗において、使用された車両の型が判明し、また犯人は特定地域出身者の特徴を持つ外国人であった場合、まず自動車局の保有する自動車登録データから該当する車両の抽出を行い、その車両の所有者と外国人局に登録されたデータの比較を行って、該当車両を所有する当該地域出身の外国人をリスト化し、それを基に捜査を進め、犯人にたどりつくことが期待できる。

 
図表-60 日本と欧米各国等の捜査手法の比較
図表-60 日本と欧米各国等の捜査手法の比較

1 通信傍受・会話傍受

(1)通信傍受

通信傍受について、欧米各国等と年間令状発付等件数を比べると、図表-60のとおり、イタリアは十数万件、それ以外の国はいずれも数万件から数千件であるのに対し、日本は64件であり、英国及び米国の50分の1に満たない。対象犯罪を比べると、欧米各国等では殺人、強盗、強姦、放火、詐欺、贈収賄といった幅広い犯罪で通信傍受が可能であり、重要犯罪の捜査に広く用いられる捜査手法となっているのに対し、日本では対象犯罪が4罪種(注)に限定されている。

また、日本の制度は、通信傍受をすることができる要件も欧米各国等に比べて厳格なものとなっているほか、通信事業者の施設において通信事業者等による常時立会いの下に傍受が行われるなど、欧米各国等に比べて制約が大きい制度となっている。

注:33頁参照

 
イタリアの通信傍受施設

イタリアの通信傍受施設


(2)会話傍受

会話傍受とは、令状を得るなどした上で、捜査対象者が管理する住居等に傍受装置を設置して、捜査対象者の言動を傍受・記録して証拠化する捜査手法をいう。欧米各国等においては、いずれの国でも導入されており、中でも米国及びイタリアでは、通信傍受と同じ対象犯罪や実施手続により会話傍受が可能となっている。

日本において会話傍受が導入された場合に有効と考えられる点として、特殊詐欺や暴力団犯罪等の秘密保持が徹底された組織犯罪や、密室で行われる犯罪において、犯行の事前謀議や実行の指示、犯行後の逃亡の指示や証拠隠滅工作を把握することができるようになり、犯罪組織のリーダー等の検挙に資すること等が挙げられる。


 第4節 諸外国の捜査手法等

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