第3章 サイバー空間の安全の確保 

2 サイバー犯罪への対策

(1)コンピュータ・ウイルス対策

近年、解析ソフトによる解析を妨害する機能を備えたものが確認されるなど、コンピュータ・ウイルスの高機能化が認められ、また、これらのコンピュータ・ウイルスを感染させる手口として、有用なアプリに偽装したコンピュータ・ウイルスをダウンロードさせる手法等の巧妙かつ多様な手法が確認されている。その結果、個人情報や機密情報の窃取、データの損壊等、被害の多様化・深刻化が懸念される。

そこで、警察では、コンピュータ・ウイルスに関する罪の取締りを推進するとともに、民間事業者と連携したコンピュータ・ウイルスによる被害拡大防止のための対策を講じている。

警察庁では、平成 25年3月、犯罪捜査の過程で警察が把握した新たなコンピュータ・ウイルスに関する情報をウイルス対策ソフト提供事業者等に提供し、当該コンピュータ・ウイルスによる被害の拡大防止を図るための枠組み(注)を構築した。

注:118頁参照

(2)不正アクセス対策

① 発生状況の公表及び共同対処協定の締結

警察庁では、毎年、不正アクセス行為の発生状況を取りまとめ、総務省及び経済産業省と共に公表するとともに、利用権者、アクセス管理者等が不正アクセス行為による被害を防ぐために講じるべきパスワードの適切な設定・管理を始めとする措置について、具体的な注意喚起を行っている。

② 不正アクセス防止対策に関する官民意見集約委員会

平成23年12月、不正アクセス防止対策に関する官民意見集約委員会(注1)において「不正アクセス防止対策に関する行動計画」が取りまとめられ、24年9月には、同計画に基づいた取組の成果の一部として、情報セキュリティに関する情報を掲載した情報セキュリティ・ポータルサイト「ここからセキュリティ!」(注2)を公開するなど、不正アクセスを防止するための官民連携した取組を実施している。

注1:平成23年6月、警察庁、総務省及び経済産業省が主体となって、社会全体としての不正アクセス防止対策の推進に当たって必要となる施策に関して、現状の課題や改善方策について官民の意見を集約するため民間事業者等と共に設置した委員会

注2:http://www.ipa.go.jp/security/kokokara/

コラム② 連続自動入力プログラムによる不正ログイン攻撃

連続自動入力プログラムによる不正ログイン攻撃とは、インターネット利用者の多くが複数サイトで同一のID・パスワードを使い回している状況に目を付け、不正取得した他人のID・パスワードのリストに基づき、インターネットで各種サービスを提供する企業等のサイトに対し、次々とID・パスワードを自動に入力するプログラムを用いてID・パスワードを入力し、不正アクセス行為を敢行するものである。このようなプログラムは、大手電気通信事業者や大手通信販売事業者等に対する不正アクセス事案で用いられたことが確認されている。

 
図表3-9 連続自動入力プログラムによる不正ログイン攻撃
図表3-9 連続自動入力プログラムによる不正ログイン攻撃

(3)インターネット上の違法情報・有害情報対策

① インターネット・ホットラインセンターにおける取組等

インターネット上には、児童ポルノ画像や覚醒剤等規制薬物の販売に関する情報等の違法情報や、違法情報には該当しないが、犯罪や事件を誘発するなど公共の安全と秩序の維持の観点から放置することができない有害情報が氾濫している。

警察庁では、一般のインターネット利用者等から、違法情報・有害情報に関する通報を受理し、警察への通報やサイト管理者等への削除依頼を行うインターネット・ホットラインセンター(IHC)の運用を、平成18年6月から開始した。25年中にIHCが削除依頼を行った情報のうち、違法情報については12,341件が、有害情報については964件が削除された(削除率は、それぞれ96.4%、76.4%)。

違法情報・有害情報の中には、外国のウェブサーバに蔵置されているものがある。このうち児童ポルノについては、IHCが、19年3月に各国のホットライン相互間の連絡組織として設置されたINHOPE(注)に加盟し、INHOPEの加盟団体に対して削除に向けた措置を依頼している。

IHCからの削除依頼に応じない悪質なサイト管理者の中には、違法情報・有害情報を自らのサイトに掲載し、サイトへのアクセス数を増やすことで、広告料収入を得ている者がみられた。こうした状況への対策として、IHCから広告業界に対して、違法情報・有害情報の削除依頼に応じない悪質サイトに関する情報を提供し、広告業界において悪質サイトへの広告配信の停止等の措置を講ずる新たな取組が26年3月から開始されている。

注:旧名称であるInternet Hotline Providers in Europe Associationの略。現在の名称はInternational Association of Internet Hotlines。平成11年に設立され、26年3月末現在、IHCを含む49団体(43の国・地域)から成る国際組織

 
図表3-10 インターネット・ホットラインセンターにおける取組
図表3-10 インターネット・ホットラインセンターにおける取組
 
図表3-11 IHCの通報受理件数及びIHCからの削除依頼数の推移(平成18~25年)
図表3-11 IHCの通報受理件数及びIHCからの削除依頼数の推移(平成18~25年)
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② 効果的な違法情報・有害情報の取締り

警察では、サイバーパトロール等により違法情報・有害情報の把握に努めるとともに、IHCからの通報に基づく全国協働捜査方式(注)の活用等により、効率的な違法情報の取締り及び有害情報を端緒とした取締りを推進している。25年中のIHCからの通報に基づく違法情報の検挙件数は1,452件と、10月に全国協働捜査方式の試行を開始した22年中の検挙件数(405件)と比べて約3.6倍に増加している。

注:IHCから警察庁に通報される違法情報・有害情報について効率的な捜査を進めるため、違法情報・有害情報の発信元を割り出すための初期捜査を警視庁が一元的に行い、捜査すべき都道府県警察を警察庁が調整する捜査方式。違法情報については23年7月から、有害情報については24年4月から、それぞれ本格実施している。

また、IHC等から削除依頼がなされたにもかかわらず、削除されなかった違法情報・有害情報が相当数インターネット上に流通したままになっている。警察では、合理的な理由もなく違法情報の削除依頼に応じない悪質なサイト管理者については、検挙を始めとした積極的な措置を講じていくこととしている。

(4)コミュニティサイト等に起因する事犯への対策

① コミュニティサイト等に起因する事犯の発生状況

出会い系サイト(注1)に起因して犯罪被害に遭った児童(18歳未満の者をいう。以下同じ。)の数は、平成20年の出会い系サイト規制法の改正以降減少傾向にある。一方、コミュニティサイト(注2)に起因して犯罪被害に遭った児童の数は、23年から減少に転じていたが、25年中は、無料通話アプリのIDを交換する掲示板に起因する犯罪被害が増加したことにより、再び増加に転じた。

注1:面識のない異性との交際(以下「異性交際」という。)を希望する者(以下「異性交際希望者」という。)の求めに応じ、その異性交際に関する情報をインターネットを利用して公衆が閲覧することができる状態に置いてこれを伝達し、かつ、当該情報の伝達を受けた異性交際希望者が電子メールその他の電気通信を利用して当該情報に係る異性交際希望者と相互に連絡することができるようにする役務を提供するウェブサイト等

注2:SNS、プロフィールサイト等、ウェブサイト内で多数人とコミュニケーションがとれるウェブサイト等のうち、出会い系サイトを除いたものの総称

 
図表3-12 出会い系サイト及びコミュニティサイトに起因する事犯の検挙件数及び被害児童数の推移(平成21~25年)
図表3-12 出会い系サイト及びコミュニティサイトに起因する事犯の検挙件数及び被害児童数の推移(平成21~25年)
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② コミュニティサイト等への対策

警察では、コミュニティサイト等に起因する事犯の検挙を推進するとともに、コミュニティサイトに起因する児童被害の防止に向けた対策として、サイト事業者に対するミニメール(注1)の内容確認を始めとするサイト内監視の強化や実効性あるゾーニング(注2)の早期導入に向けた働き掛け、関係省庁、事業者及び関係団体と連携した更なるフィルタリングの普及徹底、児童、保護者、学校関係者等に対する広報啓発等を推進している。

注1:コミュニティサイト内において、会員同士でメッセージの送受信ができる機能

注2:サイト内において悪意ある大人を児童に近づけさせないように、携帯電話事業者の保有する契約者年齢情報を活用し、大人と児童とのミニメールの送信や検索を制限すること

(5)サイバー防犯ボランティアに対する支援

サイバーパトロールにより発見した違法情報・有害情報をIHC等に通報する取組や講演活動等を行うサイバー防犯ボランティアは全国で141団体(平成26年4月現在)に増加しており、警察ではこうした活動を行う団体を育成するため、研修会の開催等の支援を行っている。


 第2節 サイバー空間の脅威への対処

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