第2章 生活安全の確保 

第4節 将来にわたる犯罪抑止のための基盤の構築に向けた取組

1 犯罪抑止に向けた取組

(1)地域社会との協働

良好な治安は、社会・経済の発展の礎であるが、その確保は、独り警察のみによって達せられるものではない。警察は、地域社会や関係機関・団体等との連携の下、社会全体で良好な治安が保たれるよう取り組んでいる。

① 社会の犯罪予防機能の高度化
ア 安全・安心なまちづくり

政府では、平成 17年6月に犯罪対策閣僚会議と都市再生本部の合同会議において決定された「安全・安心なまちづくり全国展開プラン」及び都市再生プロジェクト「防犯対策等とまちづくりの連携協働による都市の安全・安心の再構築」に基づき、官民連携した安全で安心なまちづくりを全国で推進している。

今後は、25年 12月に閣議決定された「「世界一安全な日本」創造戦略」(注)も踏まえ、関係機関・団体等と連携して、引き続き全国で安全・安心なまちづくりの取組を推進していくこととしている。

注:210頁参照

イ 安全・安心なまちづくりを推進する気運を高めるための取組

犯罪対策閣僚会議において定められた「安全・安心なまちづくりの日」(毎年 10月11日)の前後の期間を中心に、安全で安心なまちづくりの気運を高めるための様々な取組が行われており、その一環として、顕著な功績等のあった団体・個人を首相が表彰する「安全・安心なまちづくり関係功労者表彰」が毎年首相官邸において行われている。

 
安全・安心なまちづくり関係功労者表彰(提供:内閣広報室)

安全・安心なまちづくり関係功労者表彰(提供:内閣広報室)


また、警察庁では、「安全・安心なまちづくりの日」関連行事として、25年 10月27日、優れた活動を行う防犯ボランティア団体と防犯まちづくりに積極的な取組を行っている地方公共団体がそれぞれ取組内容を発表する「防犯ボランティアフォーラム 2013」を開催した。

ウ 繁華街・歓楽街を再生するための総合対策等の推進

警察では、健全で魅力あふれるまちづくりを推進するための施策を講じている。具体的には、繁華街・歓楽街の再生に向け、商工会、地域住民、自治体等と問題意識を共有し、自治体が行うまちづくり事業に計画段階から積極的に関与するほか、客引きやスカウト行為、非行少年や不良行為者のい集、違法広告物の設置、ゴミや自転車の放置、違法駐車、落書き等の迷惑行為の取締り等を通して街並みの改善を図っている。また、違法風俗営業等の風俗関係事犯や不法就労、人身取引事犯、組織的な資金獲得犯罪等の取締りを行うとともに、犯罪インフラ対策の一環として、繁華街・歓楽街において犯罪組織が暗躍することのないよう、雑居ビル、広告宣伝媒体等から犯罪組織を排除する取組を推進している。

② 防犯ネットワークの整備と活用の促進

治安を取り巻く情勢が依然として厳しいことに加え、人口・家族構造の変化等により社会情勢が変化している中で、かつて良好な治安を支えてきた社会の連帯感が希薄化している。

このような現状を踏まえ、警察は、地方公共団体、地域住民、事業者等の各主体を包括する防犯ネットワークを整備し、これを有効活用した積極的な情報交換や、地域住民による防犯パトロール等の防犯ボランティア活動、事業者によるCSR(注)活動等の主体的な自主防犯活動に対する支援等を行うことで、地域社会が一体となった犯罪抑止対策の推進と連帯感の向上を図っている。

注:Corporate Social Responsibilityの略。企業の社会的責任と訳される。法令遵守、環境保護、地域貢献等、純粋に財務的な活動以外の分野において、企業が持続的な発展を目的として行う自主的取組

ア 防犯ボランティア団体の活動

25年末現在、警察が把握している防犯ボランティア団体は全国で4万7,084団体(注)と、16年の約6倍の水準となっている。これらの団体の多くは、町内会、自治会等の地域住民による団体や子供の保護者の団体である。その構成員数についても、約275万人と、同年より約5倍に増加したものの、25年に初めて減少した。この背景には、新たな団体の設立は引き続き進んでいるものの、構成員の高齢化等により、団体の少人数化が進んでいる状況がみられる。

このため、警察庁では、自主防犯活動の持続的発展に向け、防犯ボランティア活動における次世代リーダー育成等についての調査研究を実施し、ニーズに応じた活動支援策を検討することとしている。

注:平均月1回以上の活動実績(単に意見交換や情報交換のみを行う会議を除く。)があり、かつ、構成員が5人以上の団体

 
図表2-44 防犯ボランティア団体・構成員の推移(平成16~25年)
図表2-44 防犯ボランティア団体・構成員の推移(平成16~25年)
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イ 自主防犯活動に対する支援

警察では、防犯ボランティア団体に対し、犯罪情報の提供、防犯ボランティア保険の経費負担等を通じた経済的支援、合同パトロールの実施等の活動支援を行っているほか、自主防犯パトロールに使用する自動車に青色回転灯を装備することができる仕組みづくりを行い、25年末現在、全国で9,206団体、4万2,501台の青色回転灯装備車が活動を行っている。

また、警察庁ウェブサイト上に「自主防犯ボランティア活動支援サイト」を開設し、防犯ボランティア団体相互のネットワークづくりを推進している。

 
図表2-45 自動車に青色回転灯を装備した防犯パトロールの実施状況(平成16~25年)
図表2-45 自動車に青色回転灯を装備した防犯パトロールの実施状況(平成16~25年)
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青色回転灯装備車を活用した自主防犯活動

青色回転灯装備車を活用した自主防犯活動


ウ 犯罪情報や地域安全情報の提供

警察では、地域住民が身近に感じる犯罪の発生を抑止し、犯罪被害に遭わない安全で安心なまちづくりを推進するため、地域住民に向けて、警察の保有する犯罪発生情報や防犯情報等を様々な手段・媒体を用いて適時適切に提供し、自主防犯活動の促進に努めている。

事例

福岡県警察は、25年4月、福岡市及び福岡商工会議所と共に「福岡市防犯ボランティア支援事業実行委員会」を設置した。同委員会は、同年8月から、福岡市内で活動している防犯ボランティア団体が行う活動に対し、賛同を得た関係団体等からの協賛金を基に、活動費の支援を行っている。この支援を受け、16団体が防犯教室や動画配信サービスを用いて実況中継を行いながらの防犯パトロール活動、落書き消し活動等を行っている(福岡)。

コラム⑩ 地域社会が一体となった安全・安心なまちづくり

東京都武蔵野市は、平成25年2月に同市の吉祥寺駅周辺の路上で少年2人による女性を被害者とした強盗殺人事件が発生したことを受けて、警視庁武蔵野警察署や商店会等から成る「吉祥寺緊急安全対策会議」を設置した。同会議における検討を踏まえ、同市は、警備業者を活用した深夜帯の防犯パトロール活動を開始し、商店会は、同駅周辺の商店街に街頭防犯カメラを緊急に整備するなど、地域社会が一体となった安全・安心なまちづくりが推進されることとなった(警視庁)。

 
警備業者による防犯パトロール活動

警備業者による防犯パトロール活動

(2)犯罪防止に配慮した環境設計

犯罪を抑止するためには、都市の構造の在り方を見直し、都市のハード面から物理的に犯罪が行われにくい環境を創出することが重要であり、これにより犯罪が発生するリスクを長期にわたり抑制することができる。

① 公共施設や住宅の安全基準の策定等

警察庁では、犯罪防止に配慮した環境設計による安全・安心なまちづくりを推進するため、住宅の防犯性能の向上や防犯に配慮した公共施設等の整備等に関する安全基準を策定し、その普及に努めている。

② 共同住宅や駐車場の防犯性能の認定・登録制度

警察では、関係団体と協力して、防犯に配慮した構造や設備を有するマンションや駐車場を防犯優良マンション、防犯モデル駐車場として登録又は認定する制度の普及を図っており、平成26年3月末現在、防犯優良マンション制度は24都道府県(注1)で、防犯モデル駐車場制度は12都府県(注2)で整備されている。

注1:北海道、埼玉、東京、千葉、神奈川、山梨、長野、静岡、福井、岐阜、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、鳥取、広島、山口、徳島、愛媛、大分及び沖縄。平成26年3月末で、1,989件の登録又は認定がされている。

注2:東京、千葉、福井、滋賀、京都、大阪、兵庫、鳥取、広島、愛媛、大分及び沖縄。26年3月末現在で、286件の登録又は認定がされている。

③ 街頭防犯カメラの設置

街頭防犯カメラは、被害の未然防止や犯罪発生時の的確な対応に有効である。警察では、26年3月末現在、21都道府県で1,165台の街頭防犯カメラを設置しているほか、民間事業者等による街頭防犯カメラの設置を促進している。また、民間事業者等による設置・運用について支援を行っている。

④ 都市再構築の機会等を捉えた犯罪の起きにくいまちづくり

警察では、平素から自治体が主催する各種会議等に参画し、関係部門との意見調整等を継続的に行って、自治体の都市整備に向けた主体的行動を促すとともに、復興、防災等の観点から行われる都市再構築の機会を捉えた犯罪の起きにくいまちづくりを推進している。

(3)地域の犯罪情勢に即した犯罪抑止対策

犯罪情勢や社会構造の変化に伴って、警察活動を取り巻く環境が非常に複雑になってきていることなどを背景に、国民の警察に対する要請が多様化している。これに応えるため、警察では、地域の犯罪情勢に即して警察活動を戦略的に展開し、地域住民に不安感を生じさせる身近な事案や事件に迅速かつ的確に対応することを目指して、犯罪抑止対策を推進している。

① 犯罪抑止計画の策定

地域の犯罪情勢に即した効果的な犯罪抑止対策とするため、警察署ごとに、相談、警ら、捜査その他の警察活動により収集した情報等を分析し、その管轄区域において重点的に抑止すべき種類の犯罪を定め、犯罪抑止計画を策定している。また、警察本部においても、全国的な犯罪情勢を勘案し、関係する警察本部及び警察署が連携して広域的な抑止活動を行う必要がある種類の犯罪を定めて、犯罪抑止計画を策定している。

② 計画に基づく戦略的な犯罪抑止対策の定着化

治安上の脅威に対して十分な耐性のある地域社会を構築するためには、地域住民、事業者、関係団体、自治体等と連携協働した取組が必要不可欠である。したがって、犯罪抑止計画には、犯罪抑止における地域住民等の役割や、警察が行う地域住民等に対する地域の犯罪情勢等の情報提供等の支援を、できる限り盛り込み、計画に盛り込まれた取組の効果を検証しながら犯罪抑止対策の定着化を図っている。また、犯罪抑止に向けた取組を推進するに当たっては、既に警察と協力関係にある者・団体にのみ依存することなく、より広範な連携協働関係の構築を目指すこととしている。

事例

大阪府警察、京都府警察及び兵庫県警察は、経済及び生活の面でつながりが深いことから「三都広域防犯対策プロジェクト」を立ち上げ、警察、商工会議所連合会及び自治体が連携・協働することによって、犯罪抑止に向けた取組を推進し、広域的・連続的な犯罪抑止と地域住民の安全・安心の確保を図っている。

具体的には、

○ 路線バス事業者に対する車両等への車上ねらい防止のためのポスターの掲示依頼

○ 宅配事業者に対する配達業務を通じた特殊詐欺等防止のためのチラシの配布依頼

等を行い、犯罪抑止に向けた広報啓発活動について、広域的に事業を展開する事業者の協力を得ている。また、事業者の理解の促進を図るため、広域的な犯罪情勢の分析結果に基づく事業者向けの防犯研修会等を実施している。

さらに、3府県警察は、府県境周辺で発生する犯罪に的確に対応するため、隣接する警察署間で会議を開催し、情報交換や連携した防犯対策を実施している。

 
プロジェクト調印式

プロジェクト調印式

 
車上ねらい等被害防止うちわ

車上ねらい等被害防止うちわ


 第4節 将来にわたる犯罪抑止のための基盤の構築に向けた取組

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