第2章 生活安全の確保 

2 子供の安全を守るための取組

平成 25年中の少年(注)が被害者となった刑法犯の認知件数は20万921件であり、このうち凶悪犯は969件、粗暴犯は1万2,277件であった。

注:20歳未満の者

(1)子供を犯罪から守るための取組

① 子供が被害者となる犯罪

13歳未満の子供が被害者となった刑法犯の認知件数(以下「子供の被害件数」という。)は図表2-5のとおりであり、16年以降減少傾向にあったが、25年中は2万6,939件と、前年より1,327件(5.2%)増加した。全被害件数に占める子供の被害件数の割合の高い罪種についてみると、25年件)であった。

 
図表2-5 子供(13歳未満の者)の被害件数及び罪種別被害件数の推移(平成16~25年)
図表2-5 子供(13歳未満の者)の被害件数及び罪種別被害件数の推移(平成16~25年)
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② 子供の生活空間における安全対策
ア 学校や通学路の安全対策

警察では、子供が被害者となる犯罪を未然に防止し、子供が安心して登下校することができるよう、通学路や通学時間帯に重点を置いた警察官によるパトロールを強化するとともに、退職した警察官等をスクールサポーターとして委嘱し学校へ派遣するなど、学校と連携して学校や通学路における子供の安全確保を推進している。

イ 被害防止教育の推進

警察では、子供に犯罪被害を回避する能力等を身に付けさせるため、小学校、学習塾等において、学年や理解度に応じ、紙芝居、演劇やロールプレイ方式等により子供が参加・体験できる防犯教室や、地域安全マップ作成会を関係機関・団体と連携して開催している。また、教職員に対しては、不審者が学校に侵入した場合の対応要領の指導等を行っている。

 
写真 防犯教室

防犯教室

ウ 情報発信活動の推進

警察では、子供が被害に遭った事案等の発生に関する情報を子供や保護者に対して迅速に提供できるよう、警察署と教育委員会、小学校等との間で情報共有体制を整備するとともに、都道府県警察のウェブサイトや電子メール等を活用した情報発信を行うなど、地域住民に対する情報提供を実施している。

エ ボランティアに対する支援

警察では、「子供110番の家」として危険に遭遇した子供の一時的な保護と警察への通報等を行うボランティアに対し、ステッカーや対応マニュアル等を配布するなどの支援を行っているほか、防犯ボランティア団体との合同パトロールを実施するなど、自主防犯活動を支援している。

③ 子供女性安全対策班による活動の推進

警察では、21年4月、子供や女性を対象とする性犯罪等の前兆とみられる声掛け、つきまとい等の事案に関する情報収集、分析等により行為者を特定し、検挙又は指導・警告等の措置を講ずることによって先制・予防的活動を行う子供女性安全対策班(JWAT)(注)を警視庁及び道府県警察本部に設置し、従来の検挙活動等に加え、この先制・予防的活動を積極的に推進していくことにより、子供や女性を被害者とする性犯罪等の未然防止に努めている。

注:Juvenile and Woman Aegis Teamの略

事例

25年2月、下校中の女児(10)が、友人と歩道上で立ち話をしていた際に、車の中から容姿を撮影されたとの事案の届出を受け、子供女性安全対策班において捜査を行った。捜査の結果、行為者の男(51)を特定し、事情聴取において、男が性的好奇心から女児の容姿を撮影したと認めたことから、厳重に警告した(岡山)。

④ 再犯防止措置制度の強化

警察では、17年6月から13歳未満の子供を被害者とした強制わいせつ等の暴力的性犯罪で服役して出所した者について法務省から情報提供を受け、各都道府県警察において、その出所者の所在確認を実施している。23年4月からは、必要に応じて当該出所者の同意を得て面談を行うなど、再犯防止に向けた措置の強化を図っている。

(2)児童虐待対策

① 検挙・通告の状況

児童虐待の検挙件数は近年増加傾向にあり、平成25年中の検挙件数は467件、検挙人員は482人と、統計をとり始めた11年以降、24年に次いで多く、児童虐待は極めて深刻な情勢にある。一方、死亡児童数は、25年中は25人と過去最少となった。近年の態様別検挙件数をみると、身体的虐待が全体の7割以上を占めているが、25年中は心理的虐待が前年より大幅に増加している。

また、児童虐待又はその疑いがあるとして警察から児童相談所に通告した児童数は年々増加し、25年中は過去最多となった。態様別では、特に心理的虐待の増加が著しく、25年中は1万2,344人と全体の約6割を占めている。

 
図表2-6 児童虐待事件の態様別検挙件数の推移(平成21~25年)
図表2-6 児童虐待事件の態様別検挙件数の推移(平成21~25年)
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図表2-7 警察から児童相談所に通告した児童数の推移(平成21~25年)
図表2-7 警察から児童相談所に通告した児童数の推移(平成21~25年)
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② 関係機関と連携した取組

児童虐待は、児童の人権を著しく侵害し、その心身の成長及び人格の形成に重大な影響を与えるものであることから、警察では、各種活動を通じて児童虐待の早期発見に努めるとともに、児童相談所、学校、医療機関等の関係機関との緊密な連携を保ちながら児童の生命・身体の保護のための措置を積極的に講じている。

児童虐待の疑いのある事案では、速やかに児童相談所等に通告するほか、厳正な捜査や被害児童の支援等、警察としてできる限りの措置を講じて、児童の安全の確認及び安全の確保を最優先とした対応の徹底を図っている。また、児童の保護に向けて、個別事案についての情報を入手した早期の段階から関係者間で情報を共有し、対応の検討が行えるよう、児童相談所等の関係機関との連携の強化を図っている。

事例

25年6月、パトロール中の警察官が駐車中の車内に置き去りにされた女児(1)を発見した。付近に設置された防犯カメラ画像等を確認した結果、実母(18)と交際相手の男(36)が車を止めて近くのぱちんこ店に向かい女児を置き去りにして遊技をしていたことが判明したことから、実母らを保護責任者遺棄罪で逮捕した(福岡)。

(3)いじめ事案への対応

近年のいじめ(注)に起因する事件数は、平成23年まで減少傾向にあったが、24年中は260件と急増し、さらに25年中は昭和61年以降で最多となる410件に増加した。検挙・補導人員も、24年中は511人、25年中は724人となり、ここ2年で大きく増加した。また、25年中の検挙・補導人員の約7割を中学生が占めている。

警察では、少年相談活動やスクールサポーターの学校への訪問活動等により、いじめ事案の早期把握に努めるとともに、把握したいじめ事案の重大性及び緊急性、被害少年及びその保護者等の意向、学校等の対応状況等を踏まえ、学校等と緊密に連携しながら、的確な対応を推進している。

注:平成25年中の数値は、「いじめ」の定義を、同年6月に制定されたいじめ防止対策推進法第2条に定める「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍しているなど当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」としている。また、24年以前の数値は、「いじめ」の定義を「単独又は複数で、単数又は複数の特定人に対し、身体に対する物理的攻撃又は言動による脅し、いやがらせ、無視等の心理的圧迫を一方的に反復継続して加えることにより苦痛を与えることをいい、暴走族等非行集団間における対立抗争に起因する事件を含まないもの」としている。

 
図表2-8  いじめに起因する事件の検挙・補導状況と罪種別事件数の推移(平成21~25年)
図表2-8  いじめに起因する事件の検挙・補導状況と罪種別事件数の推移(平成21~25年)
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図表2-9 警察によるいじめ事案への対応
図表2-9 警察によるいじめ事案への対応

事例

男子中学生(14)ら4人は、同じ中学校に通う男子に対し、集団で、蹴る、掃除用のモップの柄で突くなどの暴行を加えていた。25年6月、同校教諭から事案についての相談を受け、同月、4人を暴力行為等処罰ニ関スル法律違反(集団的暴行)で逮捕した(兵庫)。

コラム④ いじめ防止対策推進法・いじめ防止基本方針

いじめは、いじめを受けた児童生徒の教育を受ける権利を著しく侵害し、その心身の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を与えるのみならず、その生命又は身体に重大な危険を生じさせるおそれがある。

こうした考えの下、いじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進するため、平成25年6月、いじめ防止対策推進法が成立し、同年9月から施行された。同年10月には、同法に基づき、いじめの防止等のための具体的な内容や運用を定めた「いじめ防止基本方針」を文部科学大臣が策定し、その中で、いじめの問題への対策を社会総がかりで進め、いじめの防止、地域・家庭・関係機関間の連携等をより実効的なものとすることとされた。

同法では、いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものであると学校が認めるときは、警察署と連携して対処することとされた。また、国や地方公共団体は、いじめの防止等のための対策が専門的知識に基づき適切に行われるよう必要な人材の確保等の措置を講ずることとされ、同基本方針では、確保すべき人材の具体例として「スクールサポーター等の警察官経験者」が明示された。

(4)少年の福祉を害する犯罪への対策と有害環境対策

① 少年の福祉を害する犯罪への対策

インターネットの普及等により、福祉犯(注)の中でも、特にインターネットの利用に起因する被害が深刻な問題となっていることを踏まえ、警察ではその取締り、被害拡大防止及び被害少年の発見・保護を推進している。

福祉犯の検挙件数は図表2-10のとおりであり、近年緩やかな増減があるも、ほぼ横ばいで推移している。

注:少年の心身に有害な影響を与え、少年の福祉を害する犯罪をいう。例えば、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童買春・児童ポルノ禁止法」という。)違反、児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為等)、労働基準法違反(年少者の危険有害業務等)等が挙げられる。

 
図表2-10 福祉犯の検挙件数等の推移(平成21~25年)
図表2-10 福祉犯の検挙件数等の推移(平成21~25年)
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ア 悪質性の高い福祉犯

近年、出会い系サイト等を利用して組織的に児童買春の周旋を行う事犯や、飲食店、マッサージ店等の合法的な営業を装いながら児童に卑わいな言動等で接客させる事犯等、児童を組織的に支配し、性的な有害業務に従事させ、児童の心身に有害な影響を与える事犯が出現している。

このような悪質性の高い福祉犯は、暴力団の資金獲得活動としても行われることから、警察では、実態把握の推進と情報の分析、積極的な取締りや、有害業務に従事する児童の補導と被害児童の立ち直り支援を推進している。

事例①

暴力団幹部の男(40)らは、家出中の女子中学生(14)を自宅に住まわせた上で、インターネット上で児童との性交等のあっせんを行い、売春をさせていた。25年6月、男ら3人を児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為)で逮捕した(神奈川)。

事例②

自営業の男(43)らは、女子高校生(16)らを雇い入れ、学生服等を着用させた上で、狭い個室内で男性客に身体を密着させて添い寝等を行う業務に就かせていた。25年1月、17店舗に対する捜索差押えを実施するとともに、被害児童計76人を保護した。同年2月、男ら4人を労働基準法違反(危険有害業務の就業制限)で逮捕した(警視庁)。

コラム⑤ サイバー補導の実施

近年、インターネットの利用に起因する福祉犯被害が増加しており、特に、中学生や高校生が携帯電話、スマートフォン等を使用して、インターネット上のウェブサイト等を介して行う援助交際に対しては、従来からの街頭補導により福祉犯被害の防止を図ることは困難な状況にある。

このため、警察では、平成25年10月から、インターネットの利用に起因する福祉犯から児童を保護するため、インターネット上に援助交際を求めるなどの不適切な書き込みを行った児童をサイバーパトロールによって発見し、書き込みを行った児童と接触して直接注意・指導する「サイバー補導」を推進しており、25年中(注)は援助交際を求めるなどの書き込みを行った児童158人を補導した。

注:平成25年中の補導人員は、同年4月15日から10月20日までの間に実施された試行期間中の補導人員を含む。

 
図表2-11 サイバー補導
図表2-11 サイバー補導
イ 児童ポルノ

児童ポルノ事犯の検挙件数は近年増加傾向にあり、25年中の検挙件数は1,644件、被害児童数は646人と、いずれも過去最多を記録した。また、事件検挙を通じて同年に新たに特定された小学生以下の児童のうち、約7割が強姦・強制わいせつの手段により児童ポルノを製造されているほか、スマートフォンの使用を通じて被害に遭った児童数が増加しているなど、児童ポルノをめぐる情勢は引き続き深刻な状態にある。

 
図表2-12 児童ポルノ事犯の検挙状況等の推移(平成21~25年)
図表2-12 児童ポルノ事犯の検挙状況等の推移(平成21~25年)
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警察では、このような情勢を踏まえ、同年5月の犯罪対策閣僚会議で取りまとめられた「第二次児童ポルノ排除総合対策」等に基づき、関係機関・団体等と緊密な連携を図りながら、取締りの強化、広報啓発活動、流通・閲覧防止対策等を推進している。

また、警察庁では、国際会議への参加や、東南アジア各国の捜査官等を招いた児童の商業的・性的搾取犯罪対策に関する会議の開催等により、国際捜査協力や情報交換の強化に努めている。

さらに、プロバイダによる児童ポルノの閲覧防止措置(ブロッキング)について、アドレスリスト作成管理団体に情報提供や助言を行うなどの取組を推進している。

26年6月には、盗撮による児童ポルノの製造や自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノの所持の禁止等を内容とする児童買春・児童ポルノ禁止法の一部を改正する法律が成立し、同年7月から施行された。

事例

会社員の男(40)ら児童ポルノ愛好者グループは、インターネット上の動画投稿サイト等を通じて、互いに児童ポルノ画像を交換するなどしていた。この中には、児童になりすまして、インターネット上で知り合った女児に、女児自身の裸体の写真を送らせた者もいた。25年8月までに、男ら62人を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ提供等)等で検挙した(神奈川、岡山)。

② 少年を取り巻く有害環境の浄化対策

スマートフォンやインターネット接続機能を備えた携帯ゲーム機等の普及により、インターネットの利用に起因する少年の犯罪被害が全国的に発生しているほか、繁華街等において少年の性を売り物とする新たな形態の営業が次々と出現しているなど、近年の少年を取り巻く社会環境は深刻な状況にある。

少年は心身ともに未熟であり、環境からの影響を受けやすいことから、警察では、インターネットの利用に起因する犯罪被害の発生状況を踏まえ、関係機関・団体等と連携の上、保護者に対する啓発活動、児童に対する情報モラル教育、携帯電話事業者等に対するフィルタリング(注)等の普及促進のための要請等の取組を推進している。

また、少年に有害な商品等を取り扱う店に対して、少年の健全育成のための自主的措置が促進されるよう指導・要請を行うなど、有害環境の浄化に努めている。

注:インターネット上のウェブサイト等を一定の基準に基づき選別し、青少年に有害な情報を閲覧できなくするプログラムやサービス

(5)少年の犯罪被害への対応

警察では、犯罪の被害に遭った少年に対し、少年補導職員(注)を中心に継続的にカウンセリングを行うなどの支援を行うとともに、大学の研究者、精神科医、臨床心理士等の専門家を被害少年カウンセリングアドバイザーとして委嘱し、支援を担当する職員が専門的な助言を受けることができるようにしている。

注:特に専門的な知識及び技能を必要とする活動を行わせるため、その活動に必要な知識と技能を有する警察職員(警察官を除く。)のうちから警視総監又は道府県警察本部長が命じた者で、少年の非行防止や立ち直り支援等の活動において、重要な役割を果たしている。平成26年4月1日現在、全国に約900人の少年補導職員が配置されている。

 
図表2-13 被害少年の支援
図表2-13 被害少年の支援

事例

中学生の時に性的被害を受けた女児は、自分の相談を端緒に関係者が逮捕されたことについて、自分を責め、不登校になるなど強い精神的打撃を受けていた。そのため、学校や児童相談所等と連携し、継続した支援を実施したところ、女児は、居場所づくり活動への参加を通じて次第に将来の目標を見出し、高校への進学を果たした。高校進学後は、アルバイトを通じて就職への意欲も持つようになった(佐賀)。


 第1節 女性・子供を犯罪から守るための取組

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