第2章 生活安全の確保 

第2章 生活安全の確保

第1節 女性・子供を犯罪から守るための取組

1 恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への対応

(1)現状

恋愛感情等のもつれに起因する各種のトラブルや事件であって、被害者やその親族等(以下「被害者等」という。)に危害が及ぶおそれのある事案(以下「恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案」という。)のうち、ストーカー事案及び配偶者からの暴力事案の認知件数の推移は図表2-1のとおりであり、平成25年中の認知件数は、いずれも、ストーカー規制法(注1)及び配偶者暴力防止法(注2)の施行以降、最多となった。

注1:ストーカー行為等の規制等に関する法律

注2:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律

 
図表2-1 ストーカー事案及び配偶者からの暴力事案の認知件数の推移(平成16~25年)
図表2-1 ストーカー事案及び配偶者からの暴力事案の認知件数の推移(平成16~25年)
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(2)対策

恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案は、加害者の被害者に対する執着心や支配意識が非常に強いものが多く、また、加害者が、被害者等に対して強い危害意思を有している場合には、検挙されることを顧みず大胆な犯行に及ぶこともあるなど、事態が急展開して重大事件に発展するおそれが大きいものである。

このため、警察では、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案を始めとする人身の安全を早急に確保する必要の認められる事案(以下「人身安全関連事案」という。)に一元的に対処するための体制を確立し、被害者等の安全の確保を最優先に、ストーカー規制法や配偶者暴力防止法その他の法令の積極的な適用による加害者の検挙のほか、被害者等の安全な場所への避難や身辺の警戒、110番緊急通報登録システム(注)への登録、ビデオカメラの設置等による被害者等の保護措置等、組織による迅速・的確な対応を推進している。さらに、平成25年から順次、被害者等からの相談に適切に対応できるよう「被害者の意思決定支援手続」及び「危険性判断チェック票」を導入している。

注:あらかじめ電話番号を登録した被害者等から通報があった場合、被害者等からの通報であることが自動表示されるもの

 
図表2-2 ストーカー事案への対応状況の推移(平成21~25年)
図表2-2 ストーカー事案への対応状況の推移(平成21~25年)
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図表2-3 配偶者からの暴力事案への対応状況の推移(平成21~25年)
図表2-3 配偶者からの暴力事案への対応状況の推移(平成21~25年)
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コラム① 東京都三鷹市における殺人事件を踏まえた取組について

(1)事件の概要

平成25年10月、東京都三鷹市において、男(21)が女子高校生の自宅に侵入し、帰宅した同高校生を殺害する事件が発生した。

事件発生当日の午前中、警視庁三鷹警察署は、被害女性等から、男からのつきまとい等に関する相談を受理していた。

(2)事件を踏まえた対策

警視庁では、相談を受理した段階では、男が被害女性の生命を脅かすほどの攻撃行動を起こす危険が切迫しているとの判断に至らず、被害の発生を防止するための組織的対応が十分になされなかったことを踏まえ、

○ 生活安全部、刑事部及び総務部が合同で事案への対処に当たる「ストーカー・DV総合対策本部」の設置

○ 相談者等の安全に一層配慮した相談の受理及び対処

○ 警察署における相談受理体制の強化

○ 他機関等との連携の強化

に取り組むこととした。

① 一元的に対処するための体制の確立

人身安全関連事案に的確に対処するため、25年12月から順次、警視庁及び道府県警察本部において、認知の段階から対処に至るまで、警察署への指導・助言・支援を一元的に行う生活安全部門と刑事部門を総合した体制を構築した。また、警察署においても、人身安全関連事案への対処を統括する責任者及び事案対処時の要員をあらかじめ指定することにより生活安全部門と刑事部門を総合した体制を構築した。

これに加えて、事案認知時において危険性等を見極めるために、被害者等からの相談対応に当たっては、生活安全部門の担当者と刑事部門の捜査員が共同で聴取するなど、組織による的確な対応を徹底している。

 
図表2-4 体制の確立
図表2-4 体制の確立

事例

神奈川県警察は、25年7月に生活安全部及び刑事部で構成する「人身安全事態対処プロジェクト」(26年4月に、人身安全事態対処室に組織改正)を設置し、前兆の段階で関係部門が情報共有と連携を図りつつ、検挙を始めとした必要な措置について、警察署に対する迅速な支援を行っている。

25年7月、元交際相手の男(48)からストーカー行為を受けているとの相談を被害女性(40歳代)から受け、上記プロジェクト要員を被害女性の住居を管轄する警察署に派遣し、同年8月、男に対してストーカー規制法に基づく警告を行った。その際、男が警告に納得しない様子を見せていたことから、被害女性の勤務先を管轄する警察署とも協力して警戒を継続していた。その約10日後、被害女性の勤務先周辺で男を発見し、職務質問を実施したところ、男が刃体の長さ約 30センチメートルの牛刀等を所持していたことから銃刀法(注)違反で逮捕した(神奈川)。

注:銃砲刀剣類所持等取締法

② 被害者の意思決定支援手続

被害者の意思決定支援手続は、事案の危険性やストーカー規制法等に基づき警察が執り得る措置等を被害者等に図示しながら分かりやすく説明し、被害者等が求める対応についての意思決定を支援するためのものである。警察では、この手続により被害者等の意思を明確にすることで、被害者等と共通認識を持って、より迅速・的確な事案対応を図っている。

③ 危険性判断チェック票

危険性判断チェック票は、外部の司法精神医学に関する有識者の科学的・専門的知見を得て作成されたものであり、被害者から、被害者本人や加害者の性格等に関する項目についてチェック票に従って聴取し、その回答結果から事案の危険性等の判定を行うものである。警察は、この判定結果を事案の危険性等を判断するための資料として活用するとともに、判定結果を被害者に教示することにより、事案の危険性等について被害者に認識されるよう努めている。

コラム② ストーカー行為等の規制等に関する法律の一部を改正する法律について

平成25年6月、第183回国会において、ストーカー規制法の一部を改正する法律が成立し、同年10月から施行された(電子メールの連続送信行為の規制についての改正は、同年7月から施行)。主な改正内容は次のとおりである。

(1)電子メールの連続送信行為の規制

改正前は、拒まれたにもかかわらず、電子メールを連続して送信する行為が、規制対象である「つきまとい等」に含まれていなかったことから、当該行為を「つきまとい等」に追加した。

(2)禁止命令等をすることができる公安委員会等の拡大

改正前は、禁止命令等、警告等をすることができる都道府県公安委員会や警察本部長等が、被害者の住所地を管轄するものに限られていたことから、その居所の所在地、加害者の住所・居所の所在地又は行為地を管轄するものにも拡大した。

(3)被害者の関与の強化

警告を求める旨の申出をした者の申出によっても、禁止命令等をすることができるようにするとともに、禁止命令等や警告の実施について、速やかに、それらの申出をした者に通知しなければならないこととした。

(4)被害者に対する婦人相談所等による支援

国及び地方公共団体が被害者に対して講ずる支援の例として、婦人相談所等によるものを明記した。

(5)被害者に対する支援等のための体制整備に必要な財政上の措置等

国及び地方公共団体は、被害者に対する婦人相談所による支援等を図るため、必要な体制の整備等に必要な財政上の措置等を講ずるよう努めなければならないこととした。

事例

25年7月、音楽活動をする被害男性(50歳代)は、一方的に好意を寄せてくる女(37)から、何度も拒否の返信をしているにもかかわらず1年間に約3万通の電子メールが送信されたことについて警察に相談した。女からの電子メールの連続送信行為については、ストーカー規制法の改正前は、ストーカー規制法の規制の対象となっていなかったことから、警察では、女に対して被害男性への電子メールの送信をやめるよう指導していた。しかし、女は当該行為をやめず、ストーカー規制法の一部を改正する法律の施行後も2週間の間に約400回にわたって電子メールを送信したことから、同年9月、女をストーカー規制法違反で逮捕した(群馬)。

コラム③ ストーカー行為等の規制等の在り方に関する有識者検討会

ストーカー規制法の一部を改正する法律附則第5条により、政府は、ストーカー行為等の規制等の在り方について検討するための協議会の設置、当該行為の防止に関する活動等を行っている民間の団体等の意見の聴取等の措置を講ずることとされた。これを踏まえ、警察庁では、平成25年11月から、有識者や被害者関係者から成る「ストーカー行為等の規制等の在り方に関する有識者検討会」を開催している。同検討会においては、ストーカー行為等の規制等の在り方全般や被害者等の保護等の在り方について、幅広い検討が行われている。

 
有識者検討会における検討の状況

有識者検討会における検討の状況


 第1節 女性・子供を犯罪から守るための取組

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