特集I サイバー空間の脅威への対処

第3節 今後の取組

平成25年4月、公職選挙法の一部を改正する法律が成立し、インターネットを利用した選挙運動が解禁されることとなるなど、インターネットを利用する場面はますます広がっており、インターネットの無い生活が想像できない時代となっている。こうした中で、重大なサイバー犯罪やサイバー攻撃が発生すれば、現実空間の社会経済活動に与える影響は計り知れないものとなる。今やサイバー空間は、国民の日常生活や経済活動において、現実空間に匹敵するほどの比重を占めており、現実空間と並んで警察が安全・安心を確保すべき新たな領域となっている。

24年6月から同年9月にかけて発生したインターネットを利用した犯行予告・ウイルス供用事件を受け、警察庁では、サイバー空間において今後起こり得る様々な事態にも対処できるよう、25年1月、「サイバー犯罪対処能力の強化等に向けた緊急プログラム」を取りまとめ、公表した。本プログラムは、対処能力の向上、民間事業者等の知見の活用、国際連携の推進及び広報啓発を柱とするものである。警察では、本プログラムを始めとした施策を着実に推進し、サイバー空間における様々な事態への対処能力を強化していくこととしている。

 
図I-16 サイバー犯罪対処能力の強化等に向けた緊急プログラム(概要)
図I-16 サイバー犯罪対処能力の強化等に向けた緊急プログラム(概要)

中でも、サイバー犯罪及びサイバー攻撃の抑止対策とサイバー空間における捜査力の強化を図る上で、産学官の連携枠組みの構築と匿名性等を悪用したサイバー犯罪等の捜査を的確に行うための環境整備が急務である。

これまでも、産学官の各主体は、それぞれの立場で各種取組を推進し、豊富な知識・経験を蓄積してきたが、産学官の有する情報を一元的に集約・分析してサイバー犯罪及びサイバー攻撃の抑止対策とサイバー空間における捜査にいかすための取組は必ずしも十分に行われてこなかった。既に、米国ではサイバー空間の脅威を効率的に特定及び軽減するため、産学官における情報共有と協力を促進することを目的として、NCFTA(National Cyber-Forensics & Training Alliance)という非営利団体が設立されている。我が国においても、こうした連携の枠組みの構築を含めた取組を推進していく必要がある。

また、我が国では、通信履歴(ログ)の保存制度が存在せず、サイバー犯罪等に対する事後追跡可能性が確保されていないことが、サイバー犯罪等に対処する上での課題の一つとなっている。政府の情報セキュリティ政策会議が同年6月に決定した「サイバーセキュリティ戦略」においても「サイバー犯罪に対する事後追跡可能性を確保するため、関係事業者における通信履歴等に関するログの保存の在り方・・(略)・・について検討する。」とされた。この点、昨今の技術の進歩等により電磁的記録媒体の容量当たりの価格が低下し、ログの保存に関する通信事業者等の負担は減少している状況にある。警察としても、セキュリティ上有益なログの種類、海外でのログの保存期間、国民の多様な意見等も勘案した上で、関係省庁と共にログの保存の在り方の検討に参画することとしている。

こうした取組を着実に推進し、世界最高水準のIT社会の実現に不可欠な安全・安心なサイバー空間の構築を推進することとしている。



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