特集I サイバー空間の脅威への対処

5 国際的なサイバー犯罪捜査協力の推進

国境を越えて行われるサイバー犯罪に関し、国内における捜査で犯人を特定できないときは、外国捜査機関の協力を求める必要がある。

警察庁では、サイバー犯罪に関する条約(注1)、刑事共助条約(協定)(注2)、ICPO、サイバー犯罪に関する24時間コンタクトポイント(注3)等の国際捜査共助の枠組みを活用し、国境を越えて行われるサイバー犯罪に対処している。

また、G8ローマ/リヨン・グループ(注4)に置かれたハイテク犯罪サブグループ等の国際会議や外国捜査機関との協議を通じ、外国捜査機関職員との情報交換、協力関係の確立等に積極的に取り組んでいる。

さらに、アジア大洋州地域サイバー犯罪捜査技術会議を平成12年度から毎年度開催し、解析技術やサイバー犯罪捜査に係る知識・経験等の共有を図っている。また、アジア大洋州地域の14の国・地域の治安機関を結ぶサイバー犯罪技術情報ネットワークシステム(CTINS(注5))の運用、外国治安機関の情報技術解析部門との協議等を通じ、国際連携を推進している。

注1:サイバー犯罪から社会を保護することを目的として、コンピュータ・システムに対する違法なアクセス等一定の行為の犯罪化、コンピュータ・データの迅速な保全等に係る刑事手続の整備、犯罪人引渡し等に関する国際協力等につき規定している。平成24年11月1日に我が国について発効した。
注2:捜査共助の実施を条約上の義務とすることで捜査共助の一層確実な実施を期するとともに、捜査共助の実施のための連絡を外交当局間ではなく、条約が指定する中央当局間で直接行うことにより、手続の効率化・迅速化を図るもの
注3:9年12月のG8司法内務閣僚会合で策定された「ハイテク犯罪と闘うための原則と行動計画」に基づき設置されたもので、25年5月現在、61の国・地域に設置されている。
注4:昭和53年にボン・サミットを契機に発足したG8テロ専門家会合(G8ローマ・グループ)と平成7年にハリファックス・サミットで設置されたG8国際組織犯罪対策上級専門家会合(G8リヨン・グループ)が13年の米国同時多発テロ事件以降合同で開催されているもので、国際組織犯罪対策やテロ対策等について検討している。
注5:Cybercrime Technology Information Network Systemの略。電子掲示板やデータ共有等の機能を備え、暗号化されたネットワークにより、各国の担当官が安全に情報をやり取りできる手段を提供している。

コラム③ 不正プログラム対策

(1)不正指令電磁的記録に関する罪の新設

近年におけるサイバー犯罪その他の情報処理の高度化に伴う犯罪の実情に鑑み、情報処理の高度化に伴う犯罪に適切に対処するとともにサイバー犯罪に関する条約を締結するため、第177回国会において、情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律が成立した。法改正により新たに設けられた不正指令電磁的記録に関する罪は図I-14の5種類で、平成23年7月14日から施行された。

 
図I-14 不正指令電磁的記録に関する罪の種類
図I-14 不正指令電磁的記録に関する罪の種類

(2)不正指令電磁的記録に関する罪に関する検挙事例

① ストーカー行為に係る不正指令電磁的記録供用等事件

会社員の男(31)は、元交際相手のコンピュータに仕掛けたキーロガー(注)及びクラウドサービスプログラムにより、元交際相手が入力した情報を収集するとともに、当該情報をウェブサーバに送信させて情報を盗み見た。平成24年6月、不正指令電磁的記録供用罪等で検挙した(神奈川)。

注:コンピュータのキーボードでどの文字が入力されたかを記録するプログラム

② 少年による不正指令電磁的記録供用事件

男子中学生(15)は、コンピュータの背景画像を別の画像に置き換える不正プログラムをアップロードサイトに保存した上で、自己のブログに同サイトのURLを書き込み、オンラインゲームのツールと偽って第三者にダウンロードさせた。24年9月、不正指令電磁的記録供用罪で検挙した(長野)。

(3)不正プログラムの解析体制の強化

不正指令電磁的記録に関する罪の新設や不正プログラムを使用したサイバーインテリジェンスである標的型メール攻撃の頻発、スマートフォンを対象とした不正プログラムの出現に代表されるように、近年、不正プログラムの解析の需要が増大している。さらに、不正プログラムの内容が巧妙化し、その解析には極めて高い技術力が求められている。

警察庁では、平成24年11月、情報通信局情報技術解析課内に不正プログラム解析センターを設置し、高度な不正プログラム解析に迅速に対応できる体制を構築した。同センターでは、全国の特に優れた解析能力を有する職員を指揮下に加えるとともに、効率的な解析に資するため、全国の不正プログラムに係る事案の情報を集約し、不正プログラムの解析に組織の総合力を発揮して取り組んでいる。

 
図I-15 不正プログラムの解析体制
図I-15 不正プログラムの解析体制


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