第5章 公安の維持と災害対策

2 国際テロ対策

(1)テロの未然防止に向けた取組の推進

① 情報収集と捜査の徹底等

テロを未然に防止するためには、幅広い情報を収集して的確に分析することが不可欠である。また、テロは極めて秘匿性の高い行為であり、収集される関連情報のほとんどは断片的なものであることから、情報の蓄積と総合的な分析が求められる。警察では、警察庁警備局外事情報部を中心に外国治安情報機関等との連携を一層緊密化するなど、情報の収集・分析を強化しているほか、その総合的な分析結果を、重要施設の警戒警備等の対策に活用している。

② 爆発物の原料となり得る化学物質の適正管理の推進

爆発物の原料となり得る化学物質については、薬局、ホームセンター等の店舗における購入やインターネットを利用した購入が可能な状況にあり、近年、我が国においても、市販の化学物質から爆発物を製造する事案が発生している。

このため、警察は、これらの化学物質の販売事業者に対して個別訪問を行い、販売時における本人確認の徹底、盗難防止等の保管管理の強化、不審な購入者に関する通報を要請するなどして、爆弾テロの未然防止を図っている。

 
警察がドラッグストア従業員に販売時の対応要領を説明する状況
警察がドラッグストア従業員に販売時の対応要領を説明する状況
③ 核物質、特定病原体等の防護措置等

NBCテロ(注)の発生を未然に防止するため、警察では、核物質や特定病原体等を取り扱う事業所等に警察庁職員が定期的に立入検査を行うとともに、関係機関に意見を陳述するなどして、事業者の講じる防護措置や盗難防止措置が適正なものとなるよう指導している。

注:N(Nuclear:核)B(Biological:生物)C(Chemical:化学)物質を使用したテロの総称
④ 重要施設の警戒警備

警察では、近年の厳しい国際テロ情勢等を踏まえ、首相官邸、空港、原子力関連施設、米国関係施設等の重要施設や鉄道等の公共交通機関の警戒警備を強化している。

 
国会議事堂における警戒
国会議事堂における警戒
 
鉄道における警戒
鉄道における警戒
⑤ 水際対策の強化

周囲を海に囲まれた我が国で、テロリスト等の入国を防ぐためには、国際空港・港湾において出入国審査、輸出入貨物の検査等の水際対策を的確に推進することが重要である。政府は、平成16年1月、内閣官房に空港・港湾水際危機管理チームを設置して、関係機関が行う水際対策の強化の調整を図っている。また、国際空港・港湾には、空港・港湾危機管理(担当)官が置かれ、関係機関の連携の下で、具体的な事案を想定した訓練の実施や施設警備に係る改善等に成果を上げている。

 
図5-3 空港・港湾における水際対策・危機管理体制
図5-3 空港・港湾における水際対策・危機管理体制

(2)テロへの対処体制の強化

① テロ対処部隊の充実強化

警察では、テロが万一発生した場合に備え、特殊部隊(SAT)、銃器対策部隊、NBCテロ対応専門部隊等の各種部隊を設置し、その充実強化を図っている。また、有事の際に迅速的確な対処を可能とするため、関係機関と連携して、日々訓練を実施している。

 
図5-4 テロ対処部隊の概要
図5-4 テロ対処部隊の概要
② スカイ・マーシャルの運用

航空機がハイジャックされて自爆テロに用いられないようにするため、警察では、国土交通省等の関係機関や航空会社と緊密に連携して、平成16年12月から警察官が航空機に警乗するスカイ・マーシャルを運用している。

③ 国際テロリズム緊急展開班(TRT-2(注))の派遣

警察では、国外で邦人や我が国の権益に関係する重大テロ事件が発生した際に、TRT-2を派遣し、情報収集や現地治安機関に対する捜査支援を行っている。

注:Terrorism Response Team-Tactical Wing for Overseasの略
 
図5-5 TRT-2の概要
図5-5 TRT-2の概要

コラム② アルジェリア・イナメナスにおける襲撃テロ事件を受けた警察の対応

警察においては、平成25年1月に発生したアルジェリア・イナメナスにおける襲撃テロ事件を受け、TRT-2を現地に派遣した。TRT-2は、平素から警察庁が構築してきた外国治安情報機関等との協力関係を活用し、アルジェリア当局や現地に派遣された外国治安情報機関等の関係者と緊密に連携しつつ、事件の発生状況や邦人の安否等に関する情報を収集した。また、在アルジェリア日本国大使館と共に、英国やノルウェーから派遣された専門家と協力して、犠牲者の身元確認に従事した。

 
アルジェリア・イナメナスにおける襲撃テロ事件(時事)
アルジェリア・イナメナスにおける襲撃テロ事件(時事)
④ 自衛隊との共同訓練の推進

警察では、平素から防衛省・自衛隊と連携し緊密な情報交換を行うとともに、重大テロ等が発生した場合に備えた対処体制の強化を図っている。12年以降、武装工作員等による不法行為に対処できるよう、防衛庁(当時)・自衛隊との間で協定等を締結し、都道府県警察が、それぞれ対応する陸上自衛隊の師団等との間で、共同図上訓練及び共同実動訓練を実施している。

このほか、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(国民保護法)に基づいて行われる訓練への参加を通じて、関係機関との連携強化に努めるとともに、武力攻撃事態等(注1)及び緊急対処事態(注2)における被災情報等の収集、住民の避難要領等について習熟するよう努めている。

注1:武力攻撃事態(武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態)及び武力攻撃予測事態(武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態)
注2:武力攻撃に準ずる手段により多数の人を殺傷する行為が発生した場合又は発生する危険性が明白であると認められるに至った事態で国家として緊急に対処することが必要なもの
 
自衛隊との共同実動訓練
自衛隊との共同実動訓練

コラム③ 原子力関連施設に対するテロ対策の強化

(1)福島第一原子力発電所事故の教訓

東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故においては、冷却機能の喪失等により原子炉が管理不能の状態に陥り、放射性物質等が外部に放出されるなど、原子力関連施設のぜい弱性を露呈した。こうした事態は、自然災害のみならずテロリスト等による妨害破壊活動によっても発生し得ることが懸念される。

 
福島第一原子力発電所1号機(東京電力株式会社)
福島第一原子力発電所1号機(東京電力株式会社)

(2)テロ対策の推進

① テロ関連情報の収集・分析

警察では、原子力関連施設に対するテロを未然に防止するため、外国治安情報機関等との緊密な情報交換、関係省庁との連携による水際対策、不審人物や組織に関する情報の収集・分析等を実施している。

② 原子力関連施設における警戒警備

平成13年9月の米国同時多発テロ事件発生以降、サブマシンガン、ライフル銃、耐爆・耐弾仕様の車両等を装備した銃器対策部隊が、24時間体制で原子力関連施設の警戒警備に当たっているが、東日本大震災を受けて警戒警備に従事する地方警察官を216人増員するとともに、警戒要領を見直し、放射線防護車等の装備資機材を整備・拡充して、原子力関連施設の警戒警備を一層強化している。

さらに、警察力だけでは対処することができないと認められる事案が発生した場合には、警察と自衛隊が共同で事案に対処することとなるため、自衛隊等との間で、事案に対処するための共同訓練を実施している。

23年11月、政府は、原子力発電所等に対するテロを現実の脅威として再認識し、その未然防止に取り組むことを決定した。その中で、警察庁、海上保安庁、防衛省等の関係省庁による継続的な連携強化が示された。これを受けて、24年6月、愛媛県警察は全国で初めて、原子力発電所敷地内における自衛隊との共同実動訓練を実施したほか、25年5月、福島県警察等は、福島第一原子力発電所に対するテロを想定し、福島第二原子力発電所において海上保安庁との原発テロ対処合同訓練を実施した。

 
自衛隊との共同実動訓練(愛媛)
自衛隊との共同実動訓練(愛媛)
 
海上保安庁との合同訓練(福島)
海上保安庁との合同訓練(福島)

③ 警察庁職員による立入検査

原子力事業者との間では、警察庁職員が事業所等に定期的に立入検査を行うとともに、原子力規制委員会等に対して治安当局の立場から意見を陳述することなどにより、事業者が定める核物質防護規定が実効あるものとなるよう努めている。

 
図5-6 警戒警備体制の概要
図5-6 警戒警備体制の概要


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