第3章 組織犯罪対策

4 暴力団排除活動の推進

(1)国及び地方公共団体における暴力団排除活動

国及び地方公共団体は、平成21年12月、犯罪対策閣僚会議の下に設置された暴力団取締り等総合対策ワーキングチーム(以下「ワーキングチーム」という。)における申合せ等に基づき、警察と連携して、受注業者の指名基準や契約書に暴力団排除条項(注)(下請契約、再委託契約等に係るものを含む。)を盛り込むほか、受注業者に対して、暴力団員等に不当に介入された場合の警察への通報等を義務付けるなどの取組を推進している。また、民間工事等に関係する業界及び独立行政法人に対しても同様の取組が推進されるよう所要の指導・要請を行っている。

さらに、警察庁では、公共事業等あらゆる契約から暴力団関係企業を排除するため、24年9月までに全省庁との間において、公共事業等からの排除対象の明確化及び警察との連携強化に関する合意書を締結している。

なお、24年に暴力団対策法が改正され、行政全体が一体となって公共事業からの暴力団排除に取り組むため、国及び地方公共団体は指定暴力団員等を入札に参加させないようにするための措置を講ずることなどが規定された。

注:法令、規約及び契約書等に設けられている条項であって、許可等を取得する者、事務の委託の相手方、契約等の取引の相手方等から暴力団員等の暴力団関係者又は暴力団関係企業を排除する旨を規定する条項をいう。

事例

建設会社の代表者(64)を自然公園法違反で検挙したところ、同人と山口組傘下組織幹部とが社会的に非難されるべき関係を有していたことが判明した。そこで、警察から和歌山県、三重県等へ通報し、24年2月までに、和歌山県及び三重県が入札参加資格の停止の措置を講ずるなどした(和歌山、三重)。

(2)各種事業・取引等からの暴力団排除

① 各種事業における暴力団排除

警察では、暴力団の資金源を遮断するため、関係機関・団体と連携して、貸金業、建設業等の各種事業からの暴力団排除を推進している。また、近年各種事業から暴力団関係企業等を排除するため、法令等において暴力団排除条項の整備が進んでいる。

② 各種取引における暴力団排除

近年、暴力団の資金獲得活動が巧妙化・不透明化していることから、企業が、取引先が暴力団関係企業等であると気付かずに経済取引を行ってしまうことを防ぐため、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成19年6月、犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)(注)及び22年12月のワーキングチームにおける申合せに基づき、警察では関係機関・団体と連携を強化し、各種取引における暴力団排除を推進している。

警察庁では、証券取引からの暴力団排除を徹底するため、25年1月に警察庁の暴力団情報データベースと日本証券業協会の反社会的勢力データベースを接続し、日本証券業協会員証券会社の顧客の暴力団員等の該当性について、各社からの照会に応じるシステムの運用を開始した。

注:企業が反社会的勢力による被害を防止するための基本的な理念や具体的な対応について取りまとめたもの。
 
図3-5 日本証券業協会とのデータベースの接続
図3-5 日本証券業協会とのデータベースの接続

(3)地域住民等による暴力団排除活動

警察では、地域住民等による暴力団事務所に対する撤去運動等を支援し、事務所を撤去させるなど地域住民等に対する的確な支援を実施している。また、暴追センター及び弁護士会と緊密に連携し、暴力団犯罪に係る損害賠償請求訴訟や事務所撤去訴訟等の民事訴訟に対する支援を実施するなどして、暴力団の不当要求による被害の防止、暴力団からの被害の救済等に努めている。さらに、飲食店業者等は、警察、暴追センター及び弁護士会と連携の上、暴力団に対するみかじめ料拒否運動を行うなどしている。

また、平成24年に改正された暴力団対策法においては、適格暴追センターが、暴力団事務所の付近住民から委託を受けて、原告として事務所使用差止請求訴訟を行うことができることとなった。25年4月までに、7都県の暴追センターが適格暴追センターの認定を受けた。

 
事務所撤去運動
事務所撤去運動
 
暴力団追放パレード
暴力団追放パレード

事例①

24年2月、住吉会傘下組織組長(50)らを、埼玉県暴力団排除条例違反(暴力団事務所の開設又は運営の禁止)で検挙した。暴力団事務所が開設されていた建物の所有者が事務所の明渡しを求める通知書を同組長らに発出するに当たり、警察では、弁護士会と連携して所有者に対する支援を行った。同年4月、この求めに応じて事務所が撤去された(埼玉)。

コラム③ 暴力団排除に関する条例の施行状況

地方公共団体、住民、事業者等が連携・協力して暴力団排除に取り組む旨を定め、暴力団排除に関する基本的な施策、青少年に対する暴力団からの悪影響排除のための措置、暴力団の利益になるような行為の禁止等を主な内容とする暴力団排除に関する条例の制定が全国的に進み、平成23年10月までに全都道府県で施行された。

各都道府県では、条例に基づいた勧告等を実施しており、24年中における実施件数は、勧告が68件、指導が3件、中止命令が6件、検挙が5件となっている。

事例②

水道工事会社の経営者は、工事代金の回収やトラブル等を解決してもらうため、山口組傘下組織幹部(43)に用心棒料を供与していた。24年6月、県公安委員会は、同経営者と同幹部に対し、神奈川県暴力団排除条例の規定(利益供与等の禁止)に反したことにより勧告を実施した(神奈川)。

コラム④ 東日本大震災の復旧・復興事業からの暴力団排除等の取組

東日本大震災の復旧・復興事業には、官民問わず、長期にわたり多額の資金が投入されることから、暴力団等が各種事業に介入して、違法行為を敢行したり、活動資金を獲得したりするおそれがある。

平成24年中には、東日本大震災の復旧・復興事業に関連した暴力団犯罪を19件(前年比2件増)検挙した。暴力団が、被災者を対象とした貸付制度を悪用して貸付金を詐取したり、被災地の復旧・復興工事に労働者を違法に派遣したりするなど、震災の復旧・復興事業に介入している実態がうかがわれる。

警察では、関係県警察等が参加する暴力団排除対策推進会議の開催等により、情報の共有や連携を図りながら、暴力団等の動向把握や取締りを徹底している。また、関係省庁・団体に対し、復旧・復興事業に係る契約書等への暴力団排除条項の導入、暴力団排除連絡協議会の設置を通じた警察との情報共有等を要請するなど、関係機関・団体との連携を強化し、各種事業等への暴力団の介入を阻止するための取組を推進している。25年4月には、ワーキングチームにおいて、元請事業者等に対する指導・要請、事業者に対する検査・調査の強化など、関係機関等が連携して、暴力団による労働者の違法派遣等への対策を強化していくことなどが確認された。

 
福島第一原子力発電所・暴排協議会現地連絡会の状況
福島第一原子力発電所・暴排協議会現地連絡会の状況

事例③

住吉会傘下組織幹部(33)は、労働者を福島第一原子力発電所における災害復興工事現場に派遣し、禁止業務である分電盤設置等の建設業務について労働者派遣事業を行った。24年5月、同幹部を改正前の労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律違反で逮捕した(福島)。

コラム⑤ 匿名通報ダイヤルの運用

平成24年4月から、警察庁の委託を受けた民間団体が、一定の犯罪に関する通報を国民から電話又はインターネットにより匿名で受け付け、事件検挙への貢献度に応じて情報料を支払う匿名通報ダイヤルの対象として、暴力団が関与する犯罪等を追加することで、組織犯罪全般に関する情報提供の促進に努めている。24年中の通報件数は3,307件であり、このうち事件検挙への貢献が認められたことにより、情報料を支払った件数は2件である。

コラム⑥ 準暴力団に関する実態解明及び取締りの強化等

近年、繁華街・歓楽街等において、暴走族の元構成員等を中心とする集団に属する者が、集団的又は常習的に暴行、傷害等の暴力的不法行為等を行っている。こうした集団は、暴力団と同程度の明確な組織性は有しないが、暴力団等の犯罪組織との密接な関係がうかがわれるものも存在する。警察では、こうした集団を準暴力団と定義し、実態解明の徹底及び違法行為の取締りの強化等に努めている。



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