第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

2 科学技術の活用

客観証拠による的確な立証を図り、犯罪の高度化・複雑化等に対応するため、警察では、犯罪捜査において、DNA型鑑定、三次元顔画像識別システム、プロファイリング等の科学技術の活用を推進している。

また、DNA型鑑定等のうち、特に高度な専門的知識・技術が必要となるものについては、都道府県警察からの依頼により、警察庁の科学警察研究所において実施している。

(1)DNA型鑑定

DNA型鑑定とは、DNA(デオキシリボ核酸)の個人ごとに異なる部分を比較することで個人を識別する鑑定法である(注1)。現在、警察で行っているDNA型鑑定は、主に、STR型検査法(注2)と呼ばれるもので、日本人で最も出現頻度が高いDNA型の組合せの場合でも、約4兆7,000億人に1人という確率で個人識別を行うことが可能となっている。

DNA型鑑定を実施した鑑定資料(注3)の数は年々増加し、殺人事件等の凶悪事件のほか、窃盗事件等の身近な犯罪の解決にも多大な成果を上げている。また、警察では、被疑者DNA型記録(注4)と遺留DNA型記録(注5)をデータベースに登録し、犯人の割り出し、余罪の確認等に活用している。

DNA型は、犯人の特定、犯行状況の解明等に欠くことのできない客観証拠であることから、警察では、積極的にDNA型鑑定資料を採取するとともに、DNA型鑑定のための体制・資機材の整備等を推進し、DNA型データベースの拡充を図り、犯罪捜査に一層効果的に活用することとしている。

注1:警察で行うDNA型鑑定に使用されるのは、DNAのうち身体的特徴や病気に関する情報が含まれていない部分であり、また、鑑定結果であるDNA型情報からも身体的特徴や病気が判明することはない。
注2:STRと呼ばれる4塩基(A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)及びC(シトシン))を基本単位とする繰り返し配列について、その繰り返し回数に個人差があることを利用し、個人を識別する検査方法
注3:犯罪現場等に遺留された血液・血痕、精液・精液斑、精液及び膣液等の混合液・混合斑、唾液・唾液斑、毛根鞘の付いた毛髪、皮膚、筋、骨、歯、爪、臓器等の組織片のほか、被疑者又は被害者等から提出を受けた口腔内細胞及び被疑者の身体から採取した血液
注4:被疑者から採取した資料のDNA型の記録
注5:犯人が犯罪現場等に遺留したと認められる資料のDNA型の記録
 
図2-27 DNA型鑑定を実施した鑑定資料数の推移(平成20~24年)
図2-27 DNA型鑑定を実施した鑑定資料数の推移(平成20~24年)
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図2-28 犯罪捜査におけるDNA型鑑定、DNA型データベースの活用
図2-28 犯罪捜査におけるDNA型鑑定、DNA型データベースの活用

コラム⑥ DNA型鑑定技術を用いた未解決重要事件捜査

平成14年3月、千葉県八街市内において発生した殺人事件について、犯人の特定に至らず、未解決となっていた。24年6月、犯人に関する有力情報が寄せられ、容疑者が浮上したことから、事件発生時に押収し、保管していた犯人の遺留品から採取した資料について、DNA型鑑定を実施したところ、特定されたDNA型と容疑者のDNA型とが一致した。これが有力な証拠となり、同年7月、同人を殺人罪で逮捕した(千葉)。

科学技術の進展等によりDNA型鑑定技術が高度化しており、警察では、未解決重要事件の捜査において、犯人が犯罪現場等に遺留したと認められる資料について、劣化、混合等を防ぐため、保管状況等に十分留意しつつ、その再精査を徹底し、随時DNA型鑑定を行うことにより、犯人の割り出しを図っている。

コラム⑦ DNA型鑑定を活用した東日本大震災における身元確認

東日本大震災に伴い収容された遺体は、津波に飲み込まれて居住地等から相当離れた場所で発見されたり、所持品等が失われたりしているケースが多く、その身元確認が難航した。こうした中、警察では、行方不明者の家族等から行方不明者本人に直接関係する毛髪等の資料やDNA型の親子鑑定的手法(注)の活用を図るための資料の収集を行い、また、日本赤十字社、対がん協会等の協力により、行方不明者の献血した血液検体やがん検診等において採取された組織細胞の提供を受けるなどして、DNA型鑑定を活用しての身元確認を推進した。

注:身元不明遺体のDNA型と行方不明者の家族等血縁者のDNA型を照合し、親子等の血縁関係に矛盾がないかを判別する方法

(2)三次元顔画像識別システム

三次元顔画像識別システムとは、防犯カメラ等で撮影された人物の顔画像と、別に取得した被疑者の三次元顔画像とを照合し、個人を識別するものである。

一般に、防犯カメラ等で被疑者の顔が撮影される角度は様々であるため、防犯カメラ等の画像と被疑者写真等を比較するだけでは個人の識別が困難な場合が多いが、このシステムでは、被疑者の三次元顔画像を防犯カメラ等の画像と同じ角度及び大きさに調整し、両画像を重ね合わせることにより、個人識別を行うことが可能であり、防犯カメラの普及とあいまって被疑者の犯行を裏付ける有効な捜査手法となっている。

 
図2-29 三次元顔画像識別システムによる顔画像照合
図2-29 三次元顔画像識別システムによる顔画像照合

(3)指掌紋自動識別システム

指紋及び掌紋(以下「指掌紋」という。)は、「万人不同」及び「終生不変」の特性を有し、個人を識別するための資料として極めて有用であることから、犯罪捜査で重要な役割を果たしている。警察では、被疑者から採取した指掌紋と犯人が犯罪現場等に遺留したと認められる指掌紋をデータベースに登録して自動照合を行う指掌紋自動識別システムを運用し、犯人の割り出し、余罪の確認等に活用している。

(4)プロファイリング

プロファイリングとは、犯行現場の状況、犯行の手段、被害者等に関する情報や資料を、統計データや心理学的手法等を用いて分析・評価することにより、犯行の連続性の推定、犯人の年齢層、生活様式、職業、前歴、居住地等の推定や次回の犯行の予測を行うものである。

従来、事件捜査では、犯人特定のために犯行現場の状況や犯人の遺留品、さらには聞き込み捜査等で得られた様々な情報等をつなぎ合わせるとともに、捜査員の経験則に基づく職人的な「勘」をも駆使して犯人を推定・浮上させ、特定してきたものであるが、より効率的で合理的な捜査を推進するため、科学的見地に基づくプロファイリングでの推定結果を併せ見て、犯人を推定・浮上させる捜査手法を活用している。また、プロファイリング技術の高度・専門化(注1)及び一般化(注2)にも取り組んでいるところである。

注1:専従者の育成及び体制の整備
注2:捜査員に対する指導の徹底及び有効活用の推進
 
図2-30 都道府県警察が実施したプロファイリングの件数の推移(平成20~24年)
図2-30 都道府県警察が実施したプロファイリングの件数の推移(平成20~24年)
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(5)自動車ナンバー自動読取システム

自動車盗や自動車を利用した犯罪の検挙には自動車の検問が有効であるが、事件を認知してから検問を開始するまでに時間を要するほか、徹底した検問は交通渋滞の原因になるおそれがあるなどの問題がある。このため、警察庁では昭和61年度から、通過する自動車のナンバーを自動的に読み取り、手配車両のナンバーと照合する自動車ナンバー自動読取システムの整備を進めている。

(6)情報分析支援システム

「人からの捜査」、「物からの捜査」が困難となる中、被疑者の迅速な検挙のためには、捜査現場の体制・執行力の更なる強化に加え、犯罪関連情報の総合的な分析を推進し、捜査の方向性や捜査項目の優先順位の判断を支援することが重要である。このため、警察では、複数のシステムで行っていた業務を1台の端末装置によって行い、犯罪手口、犯罪統計等の犯罪関連情報を地図上に表示し、様々な情報を組み合わせるなどして、犯罪の発生場所、時間帯、被疑者の特徴等を総合的に分析することを可能とする情報分析支援システム(CIS-CATS(注))を平成21年1月から運用し、事件解決に役立てている。

注:Criminal Investigation Support-Crime Analysis Tool & Systemの略
 
図2-31 情報分析支援システム
図2-31 情報分析支援システム

(7)デジタルフォレンジック(注1)の強化

犯罪に利用された電子機器等に保存されている情報は、犯罪捜査において重要な証拠となる場合があることから、警察では、犯罪に利用された電子機器等から証拠となる情報を取り出すための体制を整備している(注2)

電子機器等に保存されている犯罪捜査に必要な情報を証拠化するためには、電子機器等から電磁的記録(電子データ)を抽出した上で、文字・画像等の人が認識できる形に変換するという「電磁的記録の解析」が必要不可欠である。しかしながら、電磁的記録は、消去・改変等が容易であるため、適正な手続により解析・証拠化等を実施することが極めて重要である。また、情報通信技術の急速な進展により、新たな電子機器や情報通信サービスが次々と登場しているため、常に最新の技術や情報を収集することも重要となっている。

このため、警察では、電磁的記録の解析に必要な技術情報を得るため、電子機器等の製造業者を始めとする企業との技術協力を推進するとともに、国内捜査機関、外国治安機関等と解析に係る知識・事例等の共有を図るなど、電磁的記録の解析に係るノウハウや技術を蓄積することで、デジタルフォレンジックの強化を図っている。

注1:犯罪の立証のための電磁的記録の解析技術及びその手続
注2:15頁参照
 
図2-32 デジタルフォレンジックの概要
図2-32 デジタルフォレンジックの概要


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