特集:大規模災害と警察~震災の教訓を踏まえた危機管理体制の再構築~ 

3 津波災害対策の強化

(1)津波災害対策強化のための取組

 本震災を踏まえ、都道府県警察等においては、災害警備訓練の実施、地方自治体等関係機関の取組への積極的な参画、地域住民等の防災意識の啓発活動、災害対策に関する協定の締結等を実施している。

① 災害警備訓練の実施

 警察では、初動対応訓練、救出救助訓練等災害対応に係る各種訓練を実施して練度を高めるとともに、判明した課題の検討等を通じて、災害対応能力の更なる向上に努めている。

事例①
 栃木県警察は、23年11月、自衛隊とともに災害共同対処実動訓練を行った。訓練では、大規模地震の発生とそれに伴う一部地区の孤立を想定し、情報の共有、共同対処時の任務分担や連携要領の確認を行い、災害発生時における救出救助の体制を確認した。
 
自衛隊との共同訓練(左)
 
自衛隊との共同訓練(中央)
 
自衛隊との共同訓練(右)
自衛隊との共同訓練

② 地方自治体等との合同訓練の実施

 警察では、地域住民や地方自治体等関係機関との合同訓練の実施を通じて、避難場所や避難経路を周知するほか、災害時要援護者の避難方法の検討等を行い、警察による初動措置や関係機関との連携要領を検証するとともに、地域住民の防災意識の啓発を図り、地域ぐるみで災害対策の強化を推進している。

事例②
 北海道警察は、23年11月、浦河沖を震源とする大規模な地震の発生を想定した避難訓練を実施した。19機関約360人が参加したこの訓練では、老人養護施設の入所者と職員をバスに乗車させ、パトカーの先導により高台に避難させる訓練を行うことなどにより、関係機関における情報伝達や災害時要援護者の搬送手段等に関する検証を行うなどした。
 
老人養護施設入所者の避難誘導訓練
老人養護施設入所者の避難誘導訓練

事例③
 北海道警察は、23年6月、市の生涯学習の場を活用し、気象庁、自治体、地域住民等と連携して、大規模地震による大津波発生を想定した災害図上訓練を実施した。同訓練では、函館市内の観光地において買い物中に大規模地震に遭遇したとの想定の下、地域住民約50人が災害発生時の行動を地図に書き込み、警察官と共に適切な避難の在り方を検討した。
 
避難の在り方を検討する災害図上訓練
避難の在り方を検討する災害図上訓練

③ 津波が発生した際の対応等の周知徹底

 警察では、津波が発生した場合の対応等を地域住民に周知徹底するため、沿岸地域の世帯を個別に訪問したり、分かりやすい啓発映像を作成するなどの各種活動を行っている。

事例④
 香川県警察は、23年10月から24年3月までの間、津波による浸水が予想される沿岸地域を中心に、防災意識の啓発と発災時の被害軽減を目的とした「沿岸地域防災減災対策訪問事業」を実施した。同事業は、香川県緊急雇用創出基金を活用したもので、警察から委託を受けた警備業者「防災減災アドバイザー」が、沿岸地域の世帯や福祉施設を個別に訪問し、地震や津波が発生した際の対応要領等の啓発活動を行った。
 
沿岸地域の世帯訪問
沿岸地域の世帯訪問

事例⑤
 静岡県警察は、津波からの迅速な避難に関する啓発映像を制作し、地域の会合や防災訓練等の機会に活用している。
 この啓発映像は、一般家庭の嫁姑2人を主役に、地震発生から津波避難ビルに避難するまでの過程をドラマ仕立てで説明するものであり、複数の避難場所や避難経路を把握しておくこと、照明具や携帯ラジオを常備しておくこと、徒歩で直ちに避難することなど、自主避難に関するポイントを分かりやすく解説している。
 
静岡県警察作成の啓発映像
静岡県警察作成の啓発映像

④ 地方自治体等との連携強化

 警察では、地方自治体等関係機関が開催する協議会の構成員として、津波浸水域の想定、住民に対する情報伝達の効率化、地域防災計画の改定等に関する検討に積極的に参画するとともに、津波災害対策に係る情報の共有を進め、緊密な連携を確保している。また、地方自治体や事業者等との間で、災害発生時における物資調達、施設利用、住民への情報伝達等に関する協定を締結することにより、相互の役割分担や連携要領を明確に定め、対策の強化を図っている。

事例⑥
 神奈川県警察は、神奈川県の津波対策推進会議に参画し、避難ビルの指定、津波警報の伝達方法の統一化等に関する検討を進めている。また、沿岸・河岸を管轄する26の警察署では、23年8月、市町と連携して同会議において見直しを行っている津波浸水想定図の策定までの間の暫定的な措置として、独自の津波ハザードマップを市町と連携して作成し、津波対策の強化に努めている。
 
神奈川県鎌倉警察署策定のハザードマップ
神奈川県鎌倉警察署策定のハザードマップ

事例⑦
 岡山県倉敷警察署は、23年12月、緊急告知FMラジオの普及促進に取り組んでいる地元FM局との間で災害発生時の広報に関する協定を締結した。倉敷市周辺で大規模災害が発生した際には、警察は被害の実態や交通規制・避難誘導の状況に関する情報をFM局に連絡する一方、地元FM局は放送予定を変更してその情報を緊急に告知し、市民に対する迅速な情報提供を図ることとしている。
 
地元FM局との協定の締結
地元FM局との協定の締結

コラム⑦ 首都直下地震対策


 警視庁では、本震災の対応を踏まえ、テロ対策を主眼として地方自治体や事業者等との間で構築してきた「地域版パートナーシップ」に災害対策の観点を新たに盛り込み、地域全体で首都直下地震対策の強化を図っている。
 現在、帰宅困難者対策(高輪警察署)、自主防災組織の育成活性化対策(蔵前警察署)、木造住宅密集地域対策(向島警察署)、災害時要援護者対策(田無警察署)のように、モデル警察署を指定して地域の特性を踏まえた課題解決に向けた取組を推進しているところであり、このうち月島警察署では、高層マンション・ウォーターフロント対策として、津波発生時の一時避難場所(高層マンション等)の確保について、区の対策を支援するとともに、管理者等と連携し、高層マンション居住者等の地域住民が参加する避難誘導訓練を実施するなどしている。
 
図-15 「地域版パートナーシップ」を活用した災害対策
図-15 「地域版パートナーシップ」を活用した災害対策

(2)検視、身元確認等に備えた取組

① 自治体との連携による検視等の場所の確保

 本震災においては、特に津波により多くの建物が損壊したため、あらかじめ指定していた検視・遺体安置所のうち使用ができなくなったものが生じた。また、使用可能であった施設についても被災者の避難所として利用する必要が生じるなどしたため、発災後に、改めて検視・遺体安置所を確保する必要が生じた。こうしたことを踏まえ、警察では、自治体と連携して市区町村ごとに複数の施設を災害発生時の検視・遺体安置所として指定することでその確保を図り、発災直後から迅速に検視、身元確認等を実施できるようにすることとしている。

② 医師会等との連携の強化

 収容される遺体の取扱いに当たっては、医師から死因等について専門的知見に基づく意見を、歯科医師から身元確認の有効な手掛かりとなる歯牙形状の記録を求める必要がある。そのため、警察では、各都道府県の医師会や歯科医師会等と、必要な情報交換等を行うための連絡会議や被害想定を踏まえた合同訓練を実施するなどして、相互の連携強化に努めている。

事例
 熊本県警察は、平成23年9月、多数の死者を伴う大規模災害等の発生に際し、関係機関等との緊密な連携により迅速・的確な活動を行うことができるよう、熊本県警察医会、熊本県歯科医師会を始めとする43機関・団体との合同により、遺体の搬送から検視、身元確認等に至るまでの実践的な訓練を実施した。
 
医師・歯科医師との合同訓練状況(遺体は模擬)
医師・歯科医師との合同訓練状況(遺体は模擬)

③ 身元確認のための資料の収集・確保

 本震災においては、津波による建物の倒壊、浸水等により、行方不明者本人に直接関係する指紋、掌紋及びDNA型に係る資料や歯科診療記録等の資料が多数流失し、身元確認のための資料の収集が困難となった。そこで警察では、災害時に遺体の身元確認に資するこれらの資料を的確に収集するため、身元確認のための資料として何が必要になるのかといったことや資料収集の日時・場所について、避難を余儀なくされている行方不明者の家族等にも効果的に伝達することができるよう、収集すべき資料をあらかじめリスト化することや、資料収集の日時・場所等の周知方法の検討等を進めることとしている。

 第2節 災害に係る危機管理体制の再構築

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