特集:大規模災害と警察~震災の教訓を踏まえた危機管理体制の再構築~ 

4 警察の対処体制

(1)初動体制の確立

① 警備本部の設置

 警察庁では、地震発生に伴い、平成23年3月11日午後2時46分に警備局長を長とする警察庁災害警備本部を設置した。その後、首相官邸が緊急災害対策本部を同日午後3時14分に設置したことを受け、同時刻に長官を長とする警察庁緊急災害警備本部を設置した。また、全都道府県警察において、地震発生直後に警察本部長を長とする災害警備本部等を設置した。
 
官邸に入る中野国家公安委員会委員長(当時)(23年3月11日・時事)
官邸に入る中野国家公安委員会委員長(当時)(23年3月11日・時事)

② 関係機関との連携

 警察では、地震発生直後から関係機関に要員を派遣し、情報の収集及び共有、対応の協議等を行った。警察庁では、首相官邸に設置された官邸対策室に幹部職員を派遣したほか、地震発生当日に被災地に派遣された政府調査団、原子力安全・保安院等にも職員を派遣し、連絡調整に当たった。また、都道府県警察においては、都道府県や市町村に連絡要員を派遣することなどにより、関係機関との情報共有が進められた。

コラム⑤ 水素爆発の第一報


 23年3月12日午後3時36分、福島第一原子力発電所1号機で水素爆発が発生した。
 警察では、爆発の直後に、現場付近で活動していたパトカーからは「原発から白い煙が出ている」旨の無線報告を、ヘリからは「上空から見ると原発建屋部分が壊れ、内部が見える状態である」旨の無線報告を受け、事態を認知した。この情報は福島県警察から直ちに警察庁に報告され、オフサイトセンターに照会したところ「原発からの報告はない」との回答を得たが、首相官邸に報告した。この一報が福島第一原子力発電所1号機における水素爆発に関する官邸への第一報となった。
 
福島第一原子力発電所1号機(東京電力株式会社)
福島第一原子力発電所1号機(東京電力株式会社)

③ 警察施設の損壊、ライフラインの途絶への対応

 被災3県警察を始めとする各県警察においては、地震及びそれに続く津波による警察庁舎の損壊やライフラインの途絶等により、地震発生直後の警察活動に支障が生じた。具体的には、福島県警察で警察本部庁舎が地震により被害を受けたため、災害警備本部機能を移転させたほか、連絡手段の途絶等により地方自治体との連絡調整が困難となったり、発電用や車両用の燃料が不足したり、警察職員のための食料・飲料水、被服、仮眠場所等が不足するなどの事態が発生した。
 本震災の影響により、24年6月4日現在も福島県警察本部東分庁舎、岩手県釜石警察署、宮城県気仙沼警察署及び南三陸警察署のほか、岩手県大船渡警察署高田幹部交番等42交番・駐在所が使用不能となっている。
 
津波に襲われる岩手県釜石警察署
津波に襲われる岩手県釜石警察署
 
表-3 東日本大震災及び阪神・淡路大震災における警察施設の被害状況(24年6月4日現在)
表-3 東日本大震災及び阪神・淡路大震災における警察施設の被害状況(24年6月4日現在)

初動体制確立に関する主な検討課題

・ 本震災においては、平素から災害発生時における初動体制の確立を図るための訓練を実施していたこと、執務時間内の地震発生であったことなどから、速やかに体制を確立して対応を行うことができたものの、夜間や休日等の執務時間外に災害が発生した場合に備えて職員への連絡、警備本部要員の参集等の体制確立方法等の再確認を徹底する。
・ 警察庁舎の全壊、ライフラインの途絶等といった甚大な被害が発生した場合であっても、警察活動を迅速かつ的確に推進できるよう、災害警備本部の移転を含むバックアップ体制の確保、食料・飲料水等の備蓄の拡充の検討等を含め災害発生に備えた業務継続体制を見直す。
・ 警察庁においては、幹部による対応を必要とする要員派遣が多方面かつ長期にわたって行われたほか、都道府県警察においても、都道府県だけでなく、市町村にも連絡要員を派遣することの有効性が明らかになったことから、災害警備を所掌する警備部門だけでなく、他部門の職員も含めた派遣体制を構築する。

(2)部隊の編成及び運用

① 部隊の編成

 被災3県警察では、震災発生直後から震災対応のための臨時の勤務体制をとり、投入可能な最大限の職員をもって対応に当たった。また、それ以外の都道府県警察も、被災3県の県公安委員会からの援助の要求を受け、広域緊急援助隊を始め、機動隊、管区機動隊、地域警察特別派遣部隊、特別機動捜査派遣部隊等を派遣した。その数は、延べ約95万6,800人(平成24年6月4日現在)、1日当たり最大約4,800人に上る。
 このように警察では、全国警察が一体となって、自衛隊、地方自治体、消防等と連携しながら、被災者の避難誘導及び救出救助、行方不明者の捜索、遺体の検視・身元確認等、緊急交通路の確保、被災者支援、被災地におけるパトロール、犯罪取締り等を行った。
 
図-5 警察の体制(1日当たりの最大時)
図-5 警察の体制(1日当たりの最大時)
 
図-6 東日本大震災及び阪神・淡路大震災における警察の部隊派遣人数(積算派遣人数)(平成24年6月4日現在)
図-6 東日本大震災及び阪神・淡路大震災における警察の部隊派遣人数(積算派遣人数)(平成24年6月4日現在)

コラム⑥ 広域緊急援助隊


 広域緊急援助隊は、7年1月に発生した阪神・淡路大震災の経験を踏まえ、大規模災害発生時において迅速・的確な災害警備活動を行うため、都道府県を越えて広域的に即応できる災害対策のエキスパートチームとして、同年6月1日、全国の都道府県警察に設置された。
 現在、広域緊急援助隊は、救出救助活動等を行う警備部隊、緊急交通路の確保等を行う交通部隊及び検視、身元確認等を行う刑事部隊で構成されており、平素から練度の向上を図っている。
 
出動する広域緊急援助隊(23年3月11日)
出動する広域緊急援助隊(23年3月11日)

② 部隊の運用支援

 被災3県警察では、被災者の救出救助や行方不明者の捜索等に多くの職員を割り振る必要があったため、派遣部隊の運用に不可欠な部隊の受入れ、物資の調達等の業務に十分な人員を配置することができず、支障が生じていた。このため、警察庁では、23年3月31日に「支援対策室」を設置し、警視庁支援対策室との連携の下、派遣部隊の運用に関する課題に対応した。
 まず、派遣部隊の受入要員の不足に対しては、警視庁支援対策室から被災3県警察に要員を派遣した。
 また、派遣部隊の宿泊場所に対しては、当初想定していた公共施設の利用が困難であったことから、警察庁支援対策室が派遣部隊の要望を踏まえて直接民間宿舎を確保するなどした。
 さらに、被災3県警察では、津波による車両の流出などで多数の警察用車両が使用不可能となったほか、被災地における様々な活動の実施に際し、必要な車両が不足したことから、各都道府県警察で使用している車両の管理換等を行った。その輸送に当たっては、車両輸送部隊を編成し、短期間で対応した。
 
図-7 警察庁支援対策室の概要
図-7 警察庁支援対策室の概要

部隊の派遣に関する主な検討課題

・ 本震災において、警察では、救出救助等を行う広域緊急援助隊をまず派遣し、その後被災県のニーズが明らかになるに従って、それに対応するための一般部隊(注)を順次派遣した。一般部隊については、広域緊急援助隊とは異なり、自活能力をほとんど有していないことから、食料等の補給や移動手段及び宿泊場所の確保等といった観点から部隊運用を見直す。
・ これらの一般部隊については、派遣期間が長期化して、複数回の派遣となり、その要員の確保に困難を来すケースも見られたことから、部隊派遣の長期化・多様化に備えた体制等を構築する。
 
広域緊急援助隊の食事
広域緊急援助隊の食事

注:被災3県に派遣された広域緊急援助隊以外の部隊

③ 被災3県警察に対する警察官の増員

 本震災に伴う復旧・復興過程における治安事象の変化及び警察業務の増大に的確に対処するため、被災3県警察に対し、合計750人の警察官を増員することとした。
 被災地においては、直ちに実働力を有する警察官を配置することが求められたことから、現に地域、交通、犯罪捜査等に従事し、事案処理能力を有する者を選抜し、平成24年2月1日付けで被災3県警察に特別出向させた。
 増員された警察官は、主として、仮設住宅周辺等のパトロール活動や信号が滅灯している交差点等での交通整理、震災に乗じた犯罪の取締り等に従事しており、被災者や被災地の安全・安心の確保に全力を注いでいる。
 
表-4 被災3県警察に対する警察官の増員数
表-4 被災3県警察に対する警察官の増員数
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辞令を受け取る特別出向者
辞令を受け取る特別出向者

派遣部隊員の声③ 笑顔と安心を届ける活動を目指して


宮城県塩釜警察署地域課特別警ら係
加藤翠 巡査長(愛知県警察から出向)

 被災地の力になりたい、被災者のために活動をしたいと思い、23年7月、ボランティア活動をするために、私は初めて宮城県を訪れました。そこで見た凄惨な光景に胸が締め付けられ、言葉を失いました。「もっと被災者のために活動を続けたい」と強く思っていたところ、被災地への特別出向の募集があったことから、迷わず特別出向を希望しました。
 現在、私は仮設住宅でのふれあい活動やニーズ把握活動、行方不明者の捜索活動、被災地のパトロールを中心に活動しています。
 私は、今もなお不安を抱えて生活をしている方々に笑顔と安心を届けたい、という思いを胸に日々活動をしています。そして被災地に住む方々の笑顔が私の仕事の大きな原動力です。
 

 第1節 東日本大震災における警察活動の検証

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