特集:大規模災害と警察~震災の教訓を踏まえた危機管理体制の再構築~ 

2 行方不明者、死者への対応

(1)行方不明者の捜索

 行方不明者の捜索に際しては、多数のがれき、土砂の山積、津波による浸水等が活動の妨げとなったほか、夏冬の厳しい気候、空気中に漂うがれき等の粉じんにより、過酷な環境下での捜索活動を余儀なくされた。
 被災3県警察には、平成24年6月4日までに、延べ約26万1,000人が派遣され、沿岸部を中心に捜索を行い、約1万5,800体の遺体を発見・収容した。
 
過酷な環境下での捜索活動(左上)
 
過酷な環境下での捜索活動(右上)
 
過酷な環境下での捜索活動(左下)
 
過酷な環境下での捜索活動(右下)
過酷な環境下での捜索活動

 特に、福島第一原子力発電所周辺地域では、放射線被ばくの危険性から、発災直後は大規模な捜索活動を行うことができなかった。しかし、原子力安全委員会や原子力安全に関する専門家の見解等を踏まえ、放射性粉じん用防護服等を着用すれば捜索活動を安全に行うことができると判断し、23年4月7日、福島県警察と警視庁の派遣部隊は、他に先駆けて、福島第一原子力発電所の半径20キロメートル圏内において大規模な捜索を開始した。さらに、4月14日には、半径10キロメートル圏内においても、他に先駆けて大規模な捜索を開始した。
 警察では、24年6月4日までに、福島第一原子力発電所の半径20キロメートル圏内で356体の遺体を発見・収容している。
 
福島第一原子力発電所周辺における捜索活動
福島第一原子力発電所周辺における捜索活動

行方不明者の捜索に関する主な検討課題

・ 放射線の影響が懸念される地域、津波により浸水した地域や大量のがれきが山積する地域で行うこととなった捜索活動では、とび口等の持ち運びが容易で扱いやすい資機材、釘の踏み抜き等による受傷事故を防止するためのインソール、放射線量が高い環境下での活動を行うための資機材、重機等が活用されたことから、これらの装備資機材の整備を進める。
・ 大規模災害発生時には、自衛隊、消防、海上保安庁等の関係機関と合同で捜索活動を行うことが想定されることから、連絡窓口の設定、役割分担の確認、合同訓練の実施等、効率的に活動するための対策を講じる。
 
捜索時に活用した資機材
捜索時に活用した資機材

(2)検視、身元確認等

① 検視等

 犠牲者の遺体は、警察において検視等を行い、身元を確認した上で遺族に引き渡すこととしたが、大規模災害時には、被害規模を正確に把握する上でも、また、犠牲者の遺体を少しでも早く、確実に遺族のもとに返すためにも、こうした活動は非常に重要となる。特に多くの遺体が収容された被災3県警察には、全国の都道府県警察から1日当たり最大497人の広域緊急援助隊(刑事部隊)が派遣され、医師や歯科医師の協力を得て、遺体の検視、身元確認等を行った。
 これらの活動は、断水や停電等の厳しい条件の中、遺体の全身に付いた泥を川やプールからくみ上げたわずかな水で丁寧に洗い落とし、少ない照明の下で身元特定に資する手術痕や痣(あざ)等を確認するなど、細心の注意を払いながら行われた。
 
検視等の実施状況
検視等の実施状況
 
遺体の安置状況
遺体の安置状況
 
表-2 検視、身元確認等の実施状況(平成24年6月4日現在)
表-2 検視、身元確認等の実施状況(平成24年6月4日現在)
Excel形式のファイルはこちら

② 身元確認

 遺体の身元を明らかにするためには、その所持品や発見場所から氏名や住所を特定することや、遺族等の対面による遺体確認等が必要となるが、今回の震災に伴い収容された遺体は、津波に飲み込まれて居住地等から相当離れた場所で発見されたり、所持品等が失われたりしているケースや、家族全員が罹(り)災し、遺体確認が困難とみられるケースも多く、身元確認が難航した。
 このため、警察では、事後の身元確認に備え、検視等に際して遺体の指紋、掌紋及びDNA型鑑定資料の採取や歯牙形状の記録を徹底して行うとともに、遺体安置所に遺体の写真やその着衣、性別、身体特徴等の情報を掲示し、被災3県警察のウェブサイトにもこれらの情報を掲載するなど様々な取組を行った。
 
県警察ウェブサイトにおける身元不明遺体に関する情報提供
県警察ウェブサイトにおける身元不明遺体に関する情報提供

 また、津波により家屋等が流失、倒壊し、DNA型鑑定等のための行方不明者本人に直接関係する資料の入手が困難であったことから、これら資料の多角的な収集や行方不明者の家族からDNA型の親子鑑定的手法(注)の活用を図るための資料の収集等を行う身元確認作業支援部隊を派遣したほか、日本赤十字社の協力により、行方不明者の献血した血液検体の提供を受けるなどした。

注:身元不明遺体のDNA型と行方不明者の家族等血縁者のDNA型を照合し、親子等の血縁関係に矛盾がないかを判別する方法

コラム③ 阪神・淡路大震災における犠牲者の死因等との違い


 東日本大震災における犠牲者の死因は、津波に巻き込まれたことによる溺死がほとんどであり、多くの遺体が居住地等から相当離れた場所で発見されている。これに対し、阪神・淡路大震災における犠牲者の死因は、倒壊家屋の下敷きによる窒息死・圧死がほとんどであった。このことから、阪神・淡路大震災では、発生直後から収容遺体の身元確認率が9割を超えていたのに対し、東日本大震災では、同等の身元確認率に至るまで約4か月を要するなど、身元確認の進捗に大きな違いがみられた。
 
図-3 東日本大震災と阪神・淡路大震災との比較
図-3 東日本大震災と阪神・淡路大震災との比較
Excel形式のファイルはこちら
 
図-4 東日本大震災における死因(平成24年3月11日現在)
図-4 東日本大震災における死因(平成24年3月11日現在)
Excel形式のファイルはこちら
検視、身元確認等に関する主な検討課題

・ 本震災においては、津波により多くの建物が損壊したことに加え、多数の遺体が長期にわたり発見・収容された。このため、あらかじめ指定していた検視・遺体安置所の多くが使用できなくなり、確保できた施設についても許容量を超える遺体の収容により移転を余儀なくされるなどしたことから、被害想定を踏まえ、災害発生時の利用可能性を十分考慮した上で、検視・遺体安置所の確保を図る。
・ 医師・歯科医師による積極的な協力もあり、検視等はおおむね円滑に遂行されたが、長期間の対応が必要となったため、検視用資機材の不足や広域緊急援助隊(刑事部隊)の人員の確保等に困難を来したことから、検視用資機材の備蓄や広域緊急援助隊(刑事部隊)の運用方針を見直す。
・ 身元確認については、手掛かりとなる所持品が少なかったことなどにより難航したため、DNA型の親子鑑定的手法等の新たな身元確認方法の導入や身元確認作業支援部隊の運用を図ったが、これらの取組があらかじめ体系的に確立され、発災直後から運用されていれば、より多くの遺体を早期に遺族のもとに返すことができた可能性もあることから、より効果的な身元確認方法等について検討する。

(3)行方不明者相談への対応

① 行方不明者相談ダイヤルの開設等

 被災3県警察は、全国から寄せられる被災者の親族等からの行方不明者に係る相談に対応するため、「行方不明者相談ダイヤル」を開設し、その電話番号をウェブサイト、新聞等に掲載するなどして周知を図るとともに、衛星電話を活用するなどして相談受理体制を強化した。
 これと並行して、相談ダイヤルに寄せられた行方不明者に係る相談情報と被災者の情報とを照合したり、警察に寄せられた相談に係る行方不明者の一覧を被災3県警察のウェブサイトに掲載して行方不明者本人からの連絡を呼び掛けたりするなどして、安否確認を推進した。
 
行方不明者相談ダイヤルの受理(左)
 
行方不明者相談ダイヤルの受理(右)
行方不明者相談ダイヤルの受理

② 外国人に係る相談への対応

 行方不明者相談ダイヤルでは、外国人からの相談に対応するため、通訳を確保した。
 また、在日大使館等から寄せられた外国人の行方不明に係る相談については、外務省がその情報を集約した上で、警察庁を通じて関係都道府県警察に提供するなど、外務省と警察が連携を図りつつ対応した。

③ 行方不明者の死亡届に添付する書面の発行等

 行方不明者の親族等からの求めに応じ、東日本大震災により行方不明となっている旨の届出がなされており、これまでの警察活動において発見に至っていない旨の書面を発行するとともに、遺族年金等の審査事務を行う機関等からの、警察への届出の有無についての照会に対応するなどした。

行方不明者相談への対応に関する主な検討課題

・ 同一の行方不明者について複数の県警察に相談がなされた場合に相談情報の重複を長期間解消できないなど、行方不明者に係る相談情報の整理が円滑に行われなかったことから、行方不明者の相談情報を受理する際の様式について、全国統一を図る。
・ 検視で用いられる身元不明遺体に関する情報登録と、行方不明者に関する情報登録について、様式の統一がなされていなかったため相互のデータ照合が円滑に行われなかったことから、行方不明者の相談情報を受理する際の様式について整備する。

 第1節 東日本大震災における警察活動の検証

前の項目に戻る     次の項目に進む