特集:大規模災害と警察~震災の教訓を踏まえた危機管理体制の再構築~ 

第1節 東日本大震災における警察活動の検証

1 初期段階の警察活動

(1)津波災害からの避難誘導

 東北・関東地方を中心に、太平洋沿岸を管轄する警察本部では、地震発生直後から沿岸部の警察署に住民の避難誘導を指示した。また、海岸等に警察官を派遣して津波情報に関する広報を行い、被害が発生する危険性の高い地域において避難誘導を実施した。
 しかし、防災行政無線等による避難指示が十分に届かず、警察の広報によって初めて避難する住民が少なくないなど、津波への危機意識の低さが露呈した。また、津波情報を認知していない車両や家族等の安否確認のため海岸方向に進行する車両が多数認められたため、警察官が海岸付近で避難誘導に当たった例もあった。そして、避難誘導に当たる警察官自身も、無線通話の錯綜(さくそう)等により警察本部や警察署の指示が浸透していなかった上、救命胴衣を着用していなかった。
 その結果、津波により多くの犠牲者が発生したほか、避難誘導中に津波に飲み込まれるなどして25人の警察官の死亡が確認され、今もなお5人が行方不明となっている。
 
岩手県陸前高田市を襲う津波
岩手県陸前高田市を襲う津波
 
津波に流されたパトカー
津波に流されたパトカー

事例
 福島県相馬警察署の新人警察官2人は、列車に乗車していたところ地震に遭遇した。2人は津波警報(大津波)の発表を携帯電話で認知したことから、先頭と最後尾に分かれて乗客約40人を高台へ誘導し始めた。
 背後から津波が迫り来る中、最後尾で誘導を実施していた警察官は、偶然通りかかった軽トラックを停車させ、足を痛め最後尾を歩いていた女性を助手席に乗車させるとともに、自らは軽トラックの荷台に乗り込み、難を逃れた。
 列車は津波に飲み込まれて脱線転覆したが、乗客らは全員無事に避難することができた。
 
避難誘導に当たった警察官
避難誘導に当たった警察官
 
脱線転覆した列車
脱線転覆した列車

津波災害からの避難誘導に関する主な検討課題
・ 避難誘導活動の主体は警察署の職員が中心となることを踏まえ、地勢的特性、人口分布、交通網等に照らした地域ごとに最適な避難所や避難経路の設定、津波の到達時間に応じた職員や装備資機材の運用等、警察署単位の活動要領をより効果的なものとする取組を進める。
・ 沿岸の警察署を中心として、自治体や地域住民と合同で実践的な避難訓練を行うとともに、警察署内部においても道路や通信機器が被災した場合を想定した情報伝達訓練、装備資機材の着用訓練等を反復継続して実施する。
・ 本震災において津波の到達予想時刻は比較的正確であったことから、到達予想時刻を避難誘導活動に従事する全ての警察官に迅速かつ確実に伝達するため、情報伝達訓練、職員の意識付け等の対策を検討する。

(2)津波災害からの救出救助

 全国の広域緊急援助隊等が地震発生直後から派遣され、岩手県警察、宮城県警察及び福島県警察(以下「被災3県警察」という。)と一体となって被災者の捜索、救出救助活動を実施し、約3,750人の被災者を救出救助した。
 阪神・淡路大震災では、倒壊家屋等からの救出救助が中心であったが、本震災では、津波による家屋の損壊、がれきや土砂の山積、浸水等の被害が広範囲に発生し、避難した多くの住民等が孤立する中での救出救助が中心となった。
 活動に当たっては、災害救助犬やエンジンカッター、ボート、ロープ、スコップ、のこぎり等の装備資機材を活用するとともに、警察用航空機(ヘリコプター)に機動隊レンジャー隊員が同乗し被災者を吊り上げるホイスト救助を行ったり、足場の悪い中、警察官が数珠つなぎとなって孤立集落から被災者を救助したりするなどの方法が執られた。
 
浸水地域での救出活動(上)
 
浸水地域での救出活動(下)
浸水地域での救出活動

事例
 平成23年3月20日午後4時5分頃、宮城県石巻警察署の警察官4人は、石巻市内での捜索活動中、倒壊家屋から助けを求める少年を発見した。少年から、「家の中にまだ祖母がいる」との訴えを受け、警察官が家屋に入って探索したところ、倒れたクローゼットの上で高齢の女性を発見したため、消防と共同で救出し、2人を病院に搬送した。
 
宮城県石巻市における救出活動
宮城県石巻市における救出活動

津波災害からの救出救助に関する主な検討課題
・ 浸水地域における救出救助活動においてホイスト救助が効果的であったことから、救助の練度を高めるための訓練を継続的に実施する。また、ボートを利用した救出救助方法等、広域な浸水を想定した救出救助方法についても検討し、訓練を継続的に実施する。
・ 本震災で有効性が認められた装備資機材の整備及びこれらの資機材を活用した訓練を継続的に実施する。

(3)原子力災害からの避難誘導

 福島第一及び第二原子力発電所の周辺住民等に対し避難指示等が発令されたことに伴い、警察では、同原子力発電所周辺において、住民等の避難誘導、交通整理、検問等を実施した。
 また、避難指示区域内の一部の病院や老人介護施設には、自力での避難が困難な要援護者がいたが、本来、避難誘導活動の主体となる自治体の機能が麻痺(まひ)していたことから、要援護者の早期避難のため、福島県双葉警察署、同県警察機動隊等が自衛隊と連携して独自に避難誘導活動を行った。
 要援護者を避難させる際には、警察のバス等を活用するとともに、民間の観光バスを警察官が運転するなどして車両不足を補い、平成23年3月13日から15日未明にかけ、要援護者を県内の避難所や病院に搬送した。
 なお、この度の避難誘導では、医療行為の必要な被災者や自力歩行が困難な被災者を長距離かつ一斉に搬送することが必要であったが、地震発生直後には電気通信事業者の回線が不通になるなどしたことから、避難指示の伝達や要援護者の実態把握に時間を要した。
 
要援護者の避難誘導(上)
 
要援護者の避難誘導(下)
要援護者の避難誘導

コラム① アストゥリアス皇太子賞


 23年9月、スペインのアストゥリアス皇太子財団は、科学、文化、社会の各分野において国際的に活躍し、人類に貢献しているとみなされた個人等に贈られる「アストゥリアス皇太子賞」を、危険を顧みず福島第一原子力発電所の事故対応に当たった「フクシマの英雄たち」に授与すると発表した。
 授与式には、「フクシマの英雄たち」を象徴する人物として、警察、消防、自衛隊からの代表5名が出席し、警察からは、福島第一原子力発電所3号機の使用済み核燃料貯蔵プールに対する放水活動の指揮を執った警視庁職員と、事故の発生直後から、福島第一原子力発電所の所在する双葉町等を管轄する警察署長として、自力では避難が困難なお年寄りや病院の入院患者に寄り添い、最後まで現場で住民の避難誘導を指揮した福島県警察職員が出席した。
 
アストゥリアス皇太子賞の授賞式(アストゥリアス皇太子財団)
アストゥリアス皇太子賞の授賞式(アストゥリアス皇太子財団)

原子力災害からの避難誘導に関する主な検討課題

 福島第一原子力発電所の事故では、発電所から半径20キロメートル圏内が警戒区域に指定され、更にその周辺地域に計画的避難区域等が設定されたことを踏まえ、今後各原子力関連施設において防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲が、大幅に拡大される予定である。これに伴い、原子力災害が発生した際に避難誘導等の措置を講じる必要が生じる住民等の数も飛躍的に増加し、同時に、措置に必要となる警察の人員・装備資機材も大幅に増加することから、これらの地域を管轄する都道府県警察において、関係機関と連携しつつ、要援護者等の居住実態を把握した上、関係機関との情報共有、地域住民への情報伝達方法や要援護者等の搬送体制、搬送手段、搬送先等を盛り込んだ原子力災害警備計画の作成・見直し、人員・装備資機材の拡充等の対策を検討する。

(4)交通対策

① 緊急交通路の確保

 警察では、地震発生直後から、道路の損壊状況等を確認するとともに、国土交通省や高速道路株式会社等から情報収集を行った。その結果、被災地域内の道路及び被災地につながる東北自動車道等が、多数の損壊箇所はあったものの、道路管理者による応急措置により、一定の交通量であれば通行が可能な状態であることが判明した。
 そこで、地震発生の翌日(平成23年3月12日)には、人命救助や緊急物資輸送に必要な車両等の通行を確保するため、災害対策基本法に基づき、東北自動車道等の一部区間等を緊急交通路に指定した。
 その後、交通規制による市民生活への影響を最小限にとどめるため、高速道路の補修状況等を踏まえ、交通規制の実施区間を順次縮小し、残る規制区間においても大型車等を規制の対象から除外するなどした。そして、同月24日には、主要高速道路の交通規制を全面解除した。
 
図-1 緊急交通路の指定及び解除経過
図-1 緊急交通路の指定及び解除経過
 
東北自動車道矢坂ICでの流入規制
東北自動車道矢坂ICでの流入規制
 
図-2 緊急交通路の指定及び解除の経過(高速道路部分)
図-2 緊急交通路の指定及び解除の経過(高速道路部分)

② 緊急通行車両確認標章の交付

 緊急交通路の指定に伴い、警察では、通行に必要な緊急通行車両確認標章(注)の交付を行った。指定当初は公的機関の災害応急対策、政府の緊急物資輸送への協力、食料、医薬品、燃料等の輸送を行う車両への交付を最優先としたが、道路の補修工事の進捗や被災地の状況の変化等を踏まえ、交付対象を柔軟に拡大した。また、手続の簡素化による迅速な交付にも努め、特にタンクローリーに対しては、警察署に加えて、高速道路のインターチェンジでも交付を行った。
 交通規制が全面解除された3月24日までの12日間で、合計16万3,208枚の標章を交付した。

注:災害対策基本法施行令第33条第2項に規定する標章をいう。

③ 信号機の滅灯対策

 地震や津波により、信号機等の交通安全施設等にも柱の損壊、機器の水没等の被害が発生し、特に被害の大きかった被災3県(注1)では692基の信号機が損壊し、そのうち440基が滅灯(注2)した。また、3月14日から東京電力株式会社の管内において計画停電が実施された際にも、最も多い日で約2万200か所の信号機が滅灯した。
 警察では、主要な交差点に警察官を配置し手信号等による交通整理を行うなどして対応した。また、被災地における信号機の復旧工事を進め、24年3月には、まちづくり・復興に合わせて後日復旧することとしているものを除き、全ての信号機の滅灯を解消した。

注1:福島県の警戒区域内を除く。
注2:信号が表示されない状態をいう。
 
倒壊した信号機
倒壊した信号機
 
信号機が滅灯した交差点における交通整理
信号機が滅灯した交差点における交通整理

派遣部隊員の声① 「安心」を与えた交通整理


山口県警察本部交通部高速道路交通警察隊 野村英之 巡査部長

 被災地に派遣され、宮城県塩竈市の四差路交差点での交通整理に従事中、体の不自由な男性が私の目の前で道路を横断し始めました。この交差点はがれき運搬車両等の交通量が多く、安全を確保するためには誘導した方が良いと判断し、車両の通行を止めるなどの措置を執りました。近くの店舗での用事を済ませた男性は、「ありがとう」と言って会釈をし、帰っていきました。その後、この男性はこの付近を通行する際にはいつも、私たちが交通整理をしている交差点で横断するようになり、私たちの交通整理が住民の方々に安心を与えているのだということを実感しました。

交通対策に関する主な検討課題

・ 緊急交通路の指定・解除の過程において、道路の損壊状況の把握や高速道路の出入口等で検問に当たる各都県警察の体制の調整にやや時間を要したことなどから、大規模災害の種別ごとに被害想定を設定の上、広域的な交通規制計画を策定する。
・ 本震災の対応を踏まえ、緊急通行車両の事前届出制度の見直しや交通規制の在り方の整理を行う。
・ 滅灯した信号機のある全ての交差点に警察官を配置することは困難であることなどから、災害時の停電に伴う信号機の機能停止を防止するため、予備電源として信号機電源付加装置の整備を推進する。

(5)通信指令

 被災3県警察では、地震発生直後から、救助要請や情報提供、安否確認、照会、ツイッター等を閲覧してその内容を連絡したものなど様々な110番通報が殺到した。その結果、110番通報については、平成22年中の1日当たりの平均通報件数と比較して、最大5倍以上の件数を受理したほか、現場活動中の警察官からの無線による報告も急増したため、全ての通信指令課員に加え、他課からの応援要員により体制を強化し、救助要請、安否確認、被災状況の問合せ等に対応した。
 現場活動中の警察官等が一斉に情報発信等のための通話を行うため、無線通話に著しい障害が生じるなど、受理した110番通報等に関する情報の伝達や情報収集の際に支障を来した事例があった。
 
通信指令室
通信指令室
 
表-1 110番通報受理状況(平成23年3月11日~16日)
表-1 110番通報受理状況(平成23年3月11日~16日)
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 地震発生当時、「松の木にしがみついている」、「トラックの屋根の上にいる」など、現場一帯が津波で水没していることをうかがわせる通報が相当数あり、通報場所の特定が困難であったほか、救助要請も多数に上った。

通信指令に関する主な検討課題

・ 災害発生直後から110番通報等や無線通話が増加することから、大規模災害の発生時には通信指令業務を担当する要員を増強する。
・ 停電や施設の倒壊等により、通信指令施設等が使用できなくなる可能性を踏まえ、耐震強度の確認、非常用電源の点検等の対策を講じる。
・ 現場で住民の避難誘導等に従事する警察官に対し、津波の到達予想時刻等具体的な情報を反復して伝達する。

(6)警察用航空機の運用

 被災3県警察では、地震発生直後から警察用航空機を運用し、被害状況や津波に関する状況の把握や住民への避難広報に努めるとともに、ヘリコプターテレビシステムにより被災地の状況を警察庁、首相官邸、被災県警察の災害警備本部、警察署等にリアルタイムで伝送した。
 本震災では、被災3県警察に対して、地震発生直後から平成23年5月11日までの間に、35都道府県から延べ834機が派遣・運用され、機動隊レンジャー隊員と連携した孤立被災者の救出救助や捜索活動、病院等への搬送や、避難所や病院で必要となる食料、医薬品、毛布等の生活必需品等の搬送、全国からの派遣部隊員や無線機の搬送等に従事した。
 
警察用航空機から撮影した津波
警察用航空機から撮影した津波
 
宮城県で活動する三重県警察及び静岡県警察の警察用航空機
宮城県で活動する三重県警察及び静岡県警察の警察用航空機
 
警察用航空機による救出活動
警察用航空機による救出活動

事例
 平成23年3月12日、警視庁の警察用航空機は、被害状況の把握のため岩手県大槌町上空を飛行中、小学校の校庭に描かれた「SOS」の文字を発見し、けが人等3名を救助し、病院に搬送した。

警察用航空機の運用に関する主な検討課題

・ 応援派遣機受入れのための調整や情報の集約・整理、駐機場の確保等の業務のための支援要員をあらかじめ指定するとともに、燃料・駐機場等を確保しておく。
・ いかなる状況下でも救助や物資搬送を円滑に行うため、継続的な訓練を実施する。
・ 被災地には、警察以外にも自衛隊、消防、海上保安庁等の航空機が多数派遣されることから、衝突防止等、航空機の活動の安全を確保するための関係機関との連携を行う。
・ 停電や格納庫の被災によって、航空隊施設が使用できなくなる可能性を踏まえ、耐震強度の確認、非常用電源の点検等の対策を講じる。

(7)警察の情報通信

 本震災では、電気通信事業者の回線が不通になったり、携帯電話が通話困難になったりする中、警察が独自に整備・維持管理している各種の警察無線等が、被災状況の把握、被災者の避難誘導、救出救助、行方不明者の捜索等を行う上で、重要かつ不可欠な情報の収集・伝達手段となった。警察では、地震発生当初から通信対策を行い、必要な情報通信を維持・確保した。

① 警察通信施設の機能の維持

ア 被災した警察通信施設への対応
 震災によりデータ通信に利用していた電気通信事業者の専用回線が途絶し、多くの警察通信施設が被災したことから、警察活動に必要な情報通信が途絶しかねない事態が発生した。
 警察では、無線中継所に代替用のアンテナを臨時に設置したり、無線多重回線のデータ通信容量を増加させたりすることにより、必要な情報通信を維持した。
 
無線中継所に設置した代替用アンテナ
無線中継所に設置した代替用アンテナ

イ 警察通信施設への給電対策
 地震発生直後、東北・関東地方で、多くの警察通信施設が停電となった。その後も被災地を中心に電力の供給が不安定となる中、警察では、非常用発電機の活用により無線中継所の電力を確保するとともに、山頂付近の無線中継所まで、徒歩で非常用発電機の燃料を搬送し給油を続けるなどして、警察通信施設の機能を維持した。
 
無線中継所への燃料の搬送
無線中継所への燃料の搬送

コラム② 避難指示の伝達


 福島第一原子力発電所の事故では、原子力緊急事態宣言に基づく周辺住民に対する避難指示に関し、防災行政無線による自治体への避難指示等の到達が未確認であったことから、確実を期すために、警察無線を活用して警察官が自治体に伝達し、住民の早期避難に貢献した。

② 機動警察通信隊の活動

 警察では、ヘリコプターテレビシステムや衛星通信システム等を運用し、被災状況の把握、被災者の避難誘導等に必要な映像を、警察庁、首相官邸、災害警備本部、警察署等にリアルタイムで伝送した。
 また、被災した警察署の代替施設等における通信手段を確保するため、臨時の無線中継所の構築、各種通信機器の設置・設定等を行った。さらに、各都道府県の情報通信部から通信資機材、非常用発電機を被災地に集めるとともに、派遣された機動警察通信隊がそれらの資機材を運用して、広域緊急援助隊等の活動を行う上で必要な通信を確保した。
 
被災現場の映像を伝送する機動警察通信隊員
被災現場の映像を伝送する機動警察通信隊員

派遣部隊員の声② 全国警察をつなぐ通信を実感


和歌山県情報通信部機動通信課 鈴木哲也 技官

 地震発生日翌日の3月12日深夜、現地に到着した私の目に入ってきたのは、停電のため街灯や信号機の光一つ無く辺りが真っ暗な光景でした。その中で、被災状況や各部隊の活動状況を刻々と告げる警察無線が鳴り響いており、20人余りの部隊員のうち警察通信職員として帯同したのは私一人という中で、改めて身が引き締まる思いでした。
 私の仕事は、広域緊急援助隊の帯同職員として、津波で流された野田村での救助活動や行方不明者の捜索活動等の部隊活動を警察通信の確保によって支えることでした。部隊活動中は活動現場と災害対策本部で緊密な連絡を取り合う必要がある中、携帯電話が使用できない場所であっても、各種通信機器を活用し通信を確保することができました。
 また、活動中には、余震発生による津波警報の避難指示が警察無線によって度々出され、この指示は警察官を通じて地域住民にも告げられました。警察の「命綱」のみならず被災者の「命綱」ともなっていた警察無線を心強く感じ、警察通信に携わっていることへの誇りを感じました。 この度の部隊活動に携わることができた経験を大きな糧に、今後も警察通信の確保・維持に力を尽くしていきたいと思います。
 
臨時に通信機器を設置する機動警察通信隊員
臨時に通信機器を設置する機動警察通信隊員

③ 救出救助、捜索活動等における情報通信技術の活用

 警察では、様々な情報通信技術を活用して、迅速かつ的確な救出救助、捜索活動等に取り組んだ。
 入手した被災前後の衛星画像について、鮮明化したり道路位置情報を付加するなどの画像処理を施し、被災状況の把握、被災者の救出救助計画の検討等に活用した。また、大量の行方不明者に関する情報を警察情報管理システムに迅速・簡易に登録するプログラムを導入するとともに、身元不明遺体が所持していた携帯電話の解析等によりその身元を特定するなど、情報通信技術を活用して行方不明者の捜索及び身元不明遺体の身元確認の効率化を推進した。

警察情報通信の維持に関する主な検討課題

・ 相当数の無線中継所が補修又は建て替えを必要とするほどの被害を受けたことから、無線中継所の耐震性の向上等に取り組む。
・ 被災地周辺では、電気通信事業者の専用回線が途絶し、燃料不足となる中、一部の無線中継所において長期間の商用電源の停電が発生した。これを踏まえ、どのような事態が生じても災害現場の警察活動に必要な情報通信を維持できるよう、警察基幹通信網の高度化、機動警察通信活動の機動力の向上等、情報通信基盤のより一層の耐災害性・機動性の向上に取り組む。

(8)その他の活動

① 帰宅困難者対策

 地震の発生に伴い交通機関が不通となり、首都圏の主要な駅や施設で、多くの帰宅困難者が発生した。警察では、主要駅等において、管轄する警察署の警察官及び機動隊員を派遣し、管理者との連携の下、公共交通機関の運行状況や一時避難先の公的施設等に関する情報提供、交通整理・誘導、警戒・警ら等の活動に従事した。

帰宅困難者対策に関する主な検討課題

 公共交通機関や大規模集客施設において大量の帰宅困難者が発生した場合を想定し、帰宅困難者に対する情報伝達や物資の供給、収容施設の確保等について、自治体及び事業者との間で情報共有や役割分担を定め、訓練を実施する。
 
帰宅困難者の滞留及び交通渋滞の状況
帰宅困難者の滞留及び交通渋滞の状況
 
機動隊による駅改札での交通整理
機動隊による駅改札での交通整理

② 震災後の留置管理業務

 警察署の留置施設(43施設)に収容され、又は地方検察庁の同行室(7施設)に在所するなどしていた12道県の被留置者356人について、高台の公園等へ一時避難の措置を執り、被留置者の生命、身体の安全の確保に努めた。
 その後、岩手県及び宮城県内の沿岸部の警察署の留置施設(6施設)に収容されていた被留置者28人を内陸部の警察署の留置施設へ移送したほか、福島第一原子力発電所の事故に伴い、福島県内の警察署の留置施設(2施設)に収容されていた被留置者4人について、他の警察署の留置施設へ移送した。
 なお、今回の震災により被留置者が死亡又は負傷した事例はなかった。

留置管理業務に関する主な検討課題

・ 被留置者の避難や移送を的確に行うため、大規模な津波の襲来等広範囲な災害を想定して、避難場所、護送体制等、従来の計画を見直す。
・ 災害時においても、被留置者の処遇が適切に行われるために十分な装備資機材、食料・飲料水等の備蓄を見直す。
・ 災害時における移送等を的確に行うために、検察庁等関係機関と事前に十分な協議をしておく。

 第1節 東日本大震災における警察活動の検証

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