第6章 警察活動の支え 

3 警察における犯罪被害者支援

(1)基本施策

 犯罪被害者及びその遺族又は家族は、犯罪によって直接、身体的、精神的又は経済的な被害を受けるだけでなく、様々な二次的被害を受ける場合がある。そこで、警察では次のとおり、様々な側面から犯罪被害者支援の充実を図っている。また、各都道府県警察において、捜査員以外の職員が犯罪被害者への付添い、刑事手続の説明等、事件発生直後に犯罪被害者支援を行う指定被害者支援要員制度(注)が導入されている。

注:平成23年末現在の要員総数32,403人
 
図6-25 犯罪被害者支援に係る基本施策
図6-25 犯罪被害者支援に係る基本施策

コラム③ 犯罪被害者支援要綱


 犯罪被害者等基本法に基づき、総合的かつ長期的に講ずべき犯罪被害者等のための施策の大綱等を盛り込んだ犯罪被害者等基本計画が平成17年に閣議決定され、22年度末に計画期間が満了したため、23年4月1日から27年度末までの5か年を計画期間とした第2次犯罪被害者等基本計画(以下「第2次基本計画」という。)が閣議決定された。
 第2次基本計画には警察関係施策として56施策(再掲を含み64施策)が盛り込まれたことから、警察庁では第2次基本計画の策定を機に27年度末までの5年間に推進すべき施策の具体的推進要領を示すため、8年に制定した被害者対策要綱を見直し、第2次基本計画に盛り込まれた警察関係施策の推進要領を中心として、警察独自の施策の推進要領を加え、23年7月、新たに「犯罪被害者支援要綱」を制定した。各都道府県警察においても、この要綱に従い、犯罪被害者支援の充実に向けて取り組んでいる。

(2)被害者支援連絡協議会の活動

 犯罪被害者が支援を必要とする事柄は、生活、医療、公判等多岐にわたるため、警察のほか、検察庁、弁護士会、医師会、臨床心理士会、地方公共団体の担当部局や相談機関等から成る「被害者支援連絡協議会」が全都道府県で設立されている。このほか、警察署の管轄区域等を単位とした犯罪被害者支援のための連携の枠組みが各地に構築され、よりきめ細かな犯罪被害者支援が行われている。

(3)民間の被害者支援団体との連携

 全国被害者支援ネットワークに加盟する民間の被害者支援団体は、平成24年4月1日現在全都道府県に設立されている。これらの団体は、電話又は面接による相談、裁判所へ赴く際の付添い等の直接支援、相談員の養成及び研修、自助グループ(遺族の会等)への支援、広報啓発等を行っており、警察では、団体の設立・運営を支援している。また、都道府県公安委員会は、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律に基づき、犯罪被害等の早期の軽減に資する事業を適正かつ確実に実施できる団体を犯罪被害者等早期援助団体として指定しており、同日現在、全国で40団体が指定されている。

(4)犯罪被害給付制度

 犯罪被害給付制度は、通り魔殺人等の故意の犯罪行為により不慮の死亡、重傷病又は障害という重大な被害を受けたにもかかわらず、公的救済や損害賠償を得られない犯罪被害者等に対し、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律に基づき、国が一定の給付金を支給するものである。この制度は、昭和56年1月に開始して以来、犯罪被害等の早期の軽減に重要な役割を果たしている。
 
図6-26 犯罪被害者等給付金
図6-26 犯罪被害者等給付金
 
表6-7 犯罪被害給付制度の運用状況
表6-7 犯罪被害給付制度の運用状況(昭和55年度~平成23年度)
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図6-27 犯罪被害給付制度の歩み
図6-27 犯罪被害給付制度の歩み

(5)被害者の特性に応じた施策

 犯罪類型等によって犯罪被害者には異なった特性があることから、警察では、性犯罪被害者、交通事故事件の被害者、配偶者からの暴力事案の被害者(第2章第3節2(2)参照)、ストーカー事案の被害者(第2章第3節2(1)参照)、少年の被害者(第2章第3節1(6)参照)、暴力団犯罪被害者(第3章参照)等について、犯罪被害者の特性に応じた施策を推進している。
 
図6-28 被害者の特性に応じた施策の例
図6-28 被害者の特性に応じた施策の例

コラム④ 性犯罪被害者対応拠点モデル事業の検証結果


 平成22年度のモデル事業として、警察庁及び愛知県警察は性犯罪被害者の精神的負担の軽減及び性犯罪の潜在化防止を図るため、性犯罪被害者に対する治療、カウンセリング等の各種支援や迅速な事情聴取、証拠資料の採取等の捜査を一つの場所で一度に行うワンストップ支援センターとして性犯罪被害者対応拠点「ハートフルステーション・あいち」を設置したが、同事業について有識者を含めた検証部会を設置して、検証を実施した。
 利用者からは「知り合いに勧められて来たが、診察やカウンセリングを受けることができて安心した」との声が寄せられるなど、性犯罪被害者の負担軽減に一定の効果があった。また、22年7月の開所から23年3月までのモデル事業実施期間中に、来所・電話合計100件の相談を受け付けたが、この相談が端緒となり警察が事件を認知したケースが8件あるほか、誰にも相談できずに悩んでいた被害者がカウンセリングや治療を受けるなど、性犯罪被害者の潜在化防止という観点からも一定の効果があった。一方、施設・設備、医師・民間支援員等の体制の確保のための財政的基盤の確立、医師等に対する研修・啓発活動の必要性といった拠点運営上の課題も明らかになった。
 「ハートフルステーション・あいち」は継続して運営され、徐々に活動が定着しつつあり、警察は、その活動状況等も踏まえつつ、関係機関・団体と連携を図りながら、性犯罪被害者のニーズを十分考慮した支援に取り組むこととしている。

 第2節 国民の信頼に応える警察

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