第3章 組織犯罪対策 

第2節 薬物銃器対策

1 薬物情勢

 平成23年中の薬物事犯の検挙人員は1万3,768人と、前年より761人(5.2%)減少し、覚醒剤事犯の検挙人員もやや減少している。しかし、覚醒剤の密輸入事件の検挙件数は前年より増加し、平成に入り最も多い検挙件数となっており、我が国の薬物情勢は依然として厳しい状況にある。
 
図3-9 薬物事犯の検挙人員(平成23年)
図3-9 薬物事犯の検挙人員(平成23年)
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(1)各種薬物事犯の情勢

① 覚醒剤事犯

 平成23年中の覚醒剤事犯の検挙人員(注1)は、前年よりやや減少したが、全薬物事犯の検挙人員の86.1%を占めている。また、粉末押収量は、前年より増加している。23年中の覚醒剤事犯の特徴としては、検挙人員の55.3%を暴力団構成員等が占めているほか、他の薬物事犯と比較して再犯者が占める割合が高いことや30歳代以上の検挙人員が多いことが挙げられる。

注1:国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(以下「麻薬特例法」という。)違反の検挙人員のうち、覚醒剤事犯に係るものを含む。

② 大麻事犯

 大麻事犯の検挙人員は、前年より減少したが、全薬物事犯の検挙人員の12.0%を占めており、依然として高水準である。23年中の大麻事犯の特徴としては、覚醒剤事犯とは異なり、全検挙人員のうち初犯者や20歳代以下の若年層の占める割合が高いことが挙げられる。また、最近では再犯者や30歳代以上の年齢層の検挙人員が増加傾向にあることから、乱用者の層の拡大も懸念される。

③ その他の薬物事犯

 最近5年間のMDMA(注2)等合成麻薬事犯、あへん事犯等の各種薬物事犯の検挙人員及び押収量は、表3-6のとおりである。

注2:化学名「3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン(3,4-Methylenedioxymethamphetamine)」の略名。本来は白色粉末であるが、様々な着色がなされ、文字や絵柄の刻印が入った錠剤の形で密売されることが多い。
 
表3-6 各種薬物事犯の検挙状況の推移(平成19~23年)
表3-6 各種薬物事犯の検挙状況の推移(平成19~23年)
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(2)薬物密輸入事犯の現状

 平成23年中の薬物密輸入事犯の検挙件数は238件、検挙人員は267人と前年より50件(26.6%)、52人(24.2%)それぞれ増加した。
 覚醒剤密輸入事件についてみると、検挙件数は185件、検挙人員は216人と、検挙件数は平成に入ってから最多、検挙人員では21年に次いで多くなっている。
 この背景には、我が国での根強い薬物需要と、暴力団や来日外国人犯罪組織と国際的な薬物犯罪組織等とのグローバルなネットワークの構築があるものと推認される。
 
表3-7 覚醒剤密輸入事件の検挙状況の推移(平成14~23年)
表3-7 覚醒剤密輸入事件の検挙状況の推移(平成14~23年)
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事例
 日本人の女(69)は、22年10月、マレーシアから成田空港に到着した際の税関検査において、スーツケース内の二重底に覚醒剤約1.5キログラムを隠匿していたことが発見された。同日、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)で逮捕するとともに、23年2月までに同人ら密輸グループ8人を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)で逮捕した。同グループは、高齢者を運び屋として利用する覚醒剤密輸組織であったことが判明した(千葉)。

(3)薬物犯罪組織の動向

① 薬物事犯への暴力団の関与

 平成23年中の暴力団構成員等による覚醒剤事犯の検挙人員は6,553人と、前年より231人(3.7%)増加し、覚醒剤事犯の全検挙人員の55.3%を占めていることから、依然として覚醒剤事犯に暴力団が深く関与していることがうかがわれる。また、MDMA等合成麻薬事犯、コカイン事犯については、暴力団構成員等の検挙人員はそれぞれ28人、24人と、前年よりそれぞれ18人(180.0%)、4人(20.0%)増加しており、暴力団構成員等が薬物事犯に幅広く関与していることがうかがわれる。

② 来日外国人による薬物事犯

 23年中の来日外国人による薬物事犯の検挙人員は497人と、前年より41人(7.6%)減少した。このうち、覚醒剤事犯の検挙人員が全薬物事犯の77.7%を占めている。国籍・地域別でみると、イラン、フィリピン及びブラジルの比率が高く、3か国で全体の35.8%を占めている。イラン人の覚醒剤事犯の検挙人員は38人と前年より12人減少したが、このうち営利犯(注)は81.6%を占め、他の国籍・地域の者と比べると著しく高率であり、依然としてイラン人が覚醒剤の密売に深く関わっている状況がうかがわれる。また、最近では、ナイジェリア人等の覚醒剤密輸入への関与がうかがわれる事案が多くみられる。

注:営利目的所持、営利目的譲渡及び営利目的譲受け

事例
 ナイジェリア人を中心とする密売グループは、覚醒剤を密売している暴力団構成員(40)らに対し、組織的に覚醒剤を密売していた。22年7月までに、同グループ及び同グループから覚醒剤を購入した暴力団構成員ら21人を覚せい剤取締法違反(営利目的譲渡)等で逮捕(中心人物であるナイジェリア人の男(41)については、23年3月、より罰則の重い麻薬特例法違反(業として行う譲渡)に訴因変更)した(兵庫)。

 第2節 薬物銃器対策

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