第3章 組織犯罪対策 

4 暴力団排除活動の推進


(1)国及び地方公共団体における暴力団排除活動

 国及び地方公共団体は、平成21年12月、犯罪対策閣僚会議の下に設置された暴力団取締り等総合対策ワーキングチーム(以下「ワーキングチーム」という。)における申合せ等に基づき、警察と連携して、受注業者の指名基準や契約書に暴力団排除条項(注1) (下請契約、再委託契約等に係るものを含む。)を盛り込むほか、受注業者に対して、暴力団員等に不当に介入された場合の警察への通報等を義務付けるなどの取組を推進している。また、民間工事等に関係する業界及び独立行政法人に対しても同様の取組が推進されるよう所要の指導・要請を行っている。

注1:法令、規約及び契約書等に設けられている条項であって、許可等を取得する者、事務の委託の相手方、契約等の取引の相手方等から暴力団員等の暴力団関係者又は暴力団関係企業を排除する旨を規定する条項をいう。

事例
 建設会社の実質的な経営者(64)は、23年4月、再開発事業に伴う解体工事を受注するため、山口組傘下組織組長にその仲介を依頼し、暴力団の威力を利用して解体工事を受注した。23年6月、警察から府及び市に通報し、同社を公共工事から排除した(大阪)。

(2)各種事業・取引等からの暴力団排除

① 各種事業における暴力団排除

 警察では、暴力団の資金源を遮断するため、関係機関と連携して、貸金業、建設業等の各種業からの暴力団排除活動を推進している。また、近年各種事業等から暴力団関係企業等を排除するため、法令等において暴力団排除条項の整備が進んでいる。

② 各種取引における暴力団排除

 近年、暴力団の資金獲得活動が巧妙化・不透明化していることから、企業が、取引先が暴力団関係企業等であると気付かずに経済取引を行ってしまうことを防ぐため、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成19年6月、犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)(注2)及び平成22年12月のワーキングチームにおける申合せに基づき、警察では関係機関と連携を強化し、各種取引における暴力団排除を推進している。
 銀行業界においては、23年6月、全国銀行協会が会員銀行に対し、当座勘定取引及び融資取引について、暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者等を排除対象にすることを明確化した暴力団排除条項の導入を要請するなど、銀行取引からの暴力団等反社会的勢力の排除を推進している。
 また、不動産業界においては、23年9月までに、不動産関係5団体(注3)が同団体の会員に対し、契約の当事者が暴力団員等反社会的勢力でないことを確約する条項や買受不動産を暴力団事務所等に使用することを禁止する条項等を盛り込んだ契約書のモデルの導入を要請するなど、不動産取引からの暴力団等反社会的勢力の排除を推進している。

注2:企業が反社会的勢力による被害を防止するための基本的な理念や具体的な対応について取りまとめたもの
注3:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会、(社)全日本不動産協会、一般社団法人不動産協会、一般社団法人不動産流通経営協会及び一般社団法人日本住宅建設産業協会
 
図3-6 各種取引等からの暴力団排除
図3-6 各種取引等からの暴力団排除

(3)地域住民等による暴力団排除活動

 警察では、地域住民等による暴力団事務所に対する撤去運動等を支援し、事務所を撤去させるなど地域住民等に対する的確な支援を実施している。また、暴追センター及び弁護士会と緊密に連携し、暴力団犯罪に係る損害賠償請求訴訟や事務所撤去訴訟等の民事訴訟に対する支援を実施するなどして、暴力団の不当要求による被害の防止、暴力団からの被害の救済等に努めている。さらに、飲食店業者等は、警察、暴追センター及び弁護士会と連携の上、暴力団に対するみかじめ料拒否運動を行うなどしている。
 
図3-7 暴力団関係事案に係る訴訟支援
図3-7 暴力団関係事案に係る訴訟支援

事例①
 山口組傘下組織組長(32)は配下にある構成員の雇用を断られたことなどに腹を立て、平成21年3月、会社経営者を脅迫して、同年4月逮捕された。さらに、同構成員(46)らは同経営者を逆恨みし、同月、会社事務所等にダンプカーを突入させるなどして、同年6月までに3人が逮捕された。警察では暴追センター及び弁護士と連携し、同経営者が提起した暴力団対策法第31条の2(注)の規定に基づく山口組組長に対する損害賠償請求訴訟等を支援するなどし、23年6月、和解が成立して1,300万円の和解金が支払われた(兵庫)。

注:本条により、指定暴力団の代表者等は、当該指定暴力団の指定暴力団員が威力利用資金獲得行為を行うについて他人に損害を与えた場合は、一定の場合を除き、これによって生じた損害について賠償責任を負う。

コラム③ 保護対策等の強化


 近年、社会からの暴力団排除気運がかつてなく高まっているところ、警察では、社会全体での取組を適切に支援し、暴力団排除を一層推進するため、その活動のための基盤の整備に取り組んでいる。
 23年12月には、事業者等からの情報提供の要請に的確に対応し、暴力団情報を積極的かつ適切に提供していくため、暴力団情報の部外への提供の在り方を見直すとともに、暴力団等による犯罪の被害者、暴力団排除活動関係者、暴力団との取引、交際その他の関係の遮断を図る企業の関係者等の安全を確保するため、新たに「保護対策実施要綱」を制定した。
 このように、警察では、暴力団との関係遮断を図ろうとする者に対し、必要な情報の提供を行うというのみならず、そうした者の安全を確保するため、同要綱に基づいて身辺警戒員(略称「PO」(Protection Officer))をあらかじめ指定して警戒態勢を強化するなど、組織の総合力を発揮した保護対策に取り組んでいる。

コラム④ 匿名通報ダイヤルの対象事案の拡大


 警察庁では、24年4月から、警察庁の委託を受けた民間団体が、一定の犯罪に関する通報を国民から電話又はインターネットにより匿名で受け付け、事件検挙への貢献度に応じて情報料を支払う匿名通報ダイヤルの対象として、暴力団が関与する犯罪等を追加することで、組織犯罪全般に関する情報提供の促進に努めている。

コラム⑤ 暴力団排除に関する条例の施行


1 条例の概要
 地方公共団体、住民、事業者等が連携・協力して暴力団排除に取り組む旨を定め、暴力団排除に関する基本的な施策、青少年に対する暴力団からの悪影響排除のための措置、暴力団の利益になるような行為の禁止等を主な内容とする暴力団排除に関する条例の制定が全国的に進み、23年10月までに全都道府県で施行された。
 条例には、各都道府県の暴力団情勢等に応じて、
  ○ 事業者による暴力団員等に対する利益供与の禁止
  ○ 暴力団事務所に使用しないことの確認や契約書への暴力団排除条項の導入等不動産の譲渡等をしようとする者の講ずべき措置
  ○ 学校等の周辺200メートル区域における暴力団事務所の新規開設・運営の禁止
等の規定等の規定が盛り込まれている。
 
図3-8 暴力団排除条例の基本理念
図3-8 暴力団排除条例の基本理念

2 施行状況
 各都道府県では、条例に基づく勧告等が実施されている。23年中における実施件数は、勧告が62件(公表2件を含む)、指導が5件、中止命令が2件、検挙が3件となっている。

事例②
 事業者団体の会員らは、23年4月、松葉会傘下組織組長らに対し、飲食店内で開催された親睦会において、暴力団の活動又は運営に協力する目的で現金を供与した。同月、県公安委員会は、当該会員、同組長、親睦会の場所を提供した飲食店店長らに対し、群馬県暴力団排除条例の規定(金品等の供与の禁止)に反したことにより勧告を実施した(群馬)。

事例③
 建設会社の代表取締役は、23年4月、山口組傘下組織組長に仲介を依頼し、暴力団の威力を利用して市の土地区画整理事業に伴う解体工事を受注し、同年6月、謝礼として同組長に現金を供与した。同年8月、府公安委員会は、同代表取締役及び同組長に対し、大阪府暴力団排除条例の規定(利益の供与の禁止)に反したことにより勧告を実施した(大阪)。

 第1節 暴力団対策

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