第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

第3節 安全で安心な暮らしを守る施策

1 子どもの安全対策

(1)子どもを犯罪から守るための取組

① 子どもが被害者となる犯罪

 刑法犯に係る13歳未満の子どもの被害件数(以下「子どもの被害件数」という。)は、平成14年以降減少傾向にあり、23年中は2万8,500件と、前年より3,332件(10.5%)減少した。
 子どもの被害件数の割合の高い罪種についてみると、23年中は略取誘拐が56.5%(83件)、強制わいせつが14.8%(1,019件)、公然わいせつが10.9%(83件)、殺人が7.3%(76件)であった。
 
図2-39 刑法犯に係る13歳未満の子どもの被害件数の推移(平成14年~23年)
図2-39 刑法犯に係る13歳未満の子どもの被害件数の推移(平成14年~23年)
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図2-40 13歳未満の子どもの罪種別被害状況の推移(平成14年~23年)
図2-40 13歳未満の子どもの罪種別被害状況の推移(平成14年~23年)
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② 犯罪から子どもを守るための施策

ア 学校周辺、通学路等の安全対策
 警察では、子どもが被害者となる事件を未然に防止し、子どもが安心して登下校することができるよう、通学路や通学時間帯に重点を置いた警察官によるパトロールを強化するとともに、退職した警察官等をスクールサポーター(第4節2(2)③参照)として委嘱し学校へ派遣するなど、学校と連携して学校や通学路における児童・生徒の安全確保等を推進している。

イ 被害防止教育の推進
 警察では、小学校等において、学年や理解度に応じ紙芝居、演劇やロールプレイ方式等により、子どもが参加・体験できる防犯教室を学校や教育委員会と連携して開催しているほか、教職員に対しては、不審者が学校に侵入した場合の対応要領の指導等を行っている。
 
防犯教室
防犯教室

ウ 情報発信活動の推進
 子どもが被害に遭った事案等の発生情報については、迅速に児童や保護者に対し情報提供が行われるよう、警察署と小学校等との間で情報共有体制を整備するとともに、都道府県警察のウェブサイト等により情報発信を行うなど、積極的な情報提供を実施している。

エ ボランティアに対する支援
 警察では、「子ども110番の家」として危険に遭遇した子どもの一時的な保護と警察への通報等を行うボランティアに対し、ステッカーや対応マニュアル等を配布するなどの支援を行っている。また、防犯ボランティア団体との合同パトロールを実施するなど、自主防犯活動を積極的に支援している。

③ 子ども女性安全対策班による活動の推進

 警察では、性犯罪等の前兆とみられる声掛け、つきまとい等の段階で行為者を特定し、検挙・指導警告等の措置を講じる活動(先制・予防的活動)に専従する「子ども女性安全対策班(JWAT(注1))」を全国の警察本部に設置し、従来の検挙活動や防犯活動に加え、先制・予防的活動を積極的に推進していくことにより、子どもや女性を被害者とする性犯罪等の未然防止に努めている。

注1:Juvenile and Woman Aegis Team

④ 子ども対象・暴力的性犯罪出所者の再犯防止措置制度の強化

 警察においては、子どもを対象とした強制わいせつ等の暴力的性犯罪で服役し出所した者について、17年から法務省より情報提供を受け、その再犯防止を図ってきたところであるが、23年4月からは、対象者を訪問して所在確認を行い、必要があれば同意を得て面談を行うなど再犯防止に向けた措置の強化を図っている。

(2)少年の福祉を害する犯罪への取組

 警察では、児童に淫行をさせる行為のように、少年の心身に有害な影響を与え少年の福祉を害する犯罪(以下「福祉犯」(注2)という。)の取締りと被害少年の発見・保護を推進している。平成23年中の福祉犯の被害少年は7,332人であった。
 また、日本国民が国外で犯した児童買春・児童ポルノ事犯等の取締りや国際捜査協力を強化するため、警察庁では東南アジア各国の捜査関係者等を招いて、児童の商業的・性的搾取対策に関する取組について意見交換を行う会議を開催するなどしている。

注2:児童買春・児童ポルノ禁止法違反、児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為等)、労働基準法違反(年少者の危険有害業務、深夜業等)等
 
図2-41 福祉犯の法令別検挙人員(平成23年)
図2-41 福祉犯の法令別検挙人員(平成23年)
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表2-13 福祉犯の被害少年の学職別状況(平成22、23年)
表2-13 福祉犯の被害少年の学職別状況(平成22、23年)
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(3)児童ポルノ対策

 平成23年中の児童ポルノ事犯の検挙件数は1,455件、検挙人員は1,016人と、それぞれ前年より113件(8.4%)、90人(9.7%)増加しており、また、検挙件数のうち、インターネットを直接利用した児童ポルノ事犯(サイバー犯罪に該当するものをいう。)は883件で前年より100件(12.8%)増加するなど、いずれも過去最多を記録しており、極めて深刻な情勢にある。
 警察では、このような情勢を踏まえ、犯罪対策閣僚会議で取りまとめられた「児童ポルノ排除総合対策」等に基づき、関係行政機関・事業者等と緊密な連携を図りながら、取締りの強化や流通・閲覧防止対策等の諸対策を強力に推進している。
 特に、最近の児童ポルノ事犯については、低年齢児童を対象とした児童ポルノ愛好者グループによる製造事犯、プロバイダによる閲覧防止措置(ブロッキング)を回避するファイル共有ソフト利用事犯、プロバイダや拠点を短期間で頻繁に変える組織的なDVD販売事犯等、悪質かつ巧妙な手口で広域にわたって敢行されている状況にあることから、全国警察が一体となった取締りを強化している。
 さらに、児童ポルノ発見時におけるサイト管理者等に対する速やかな削除依頼の実施や、23年4月から関連事業者の自主的な取組として実施されているブロッキングに対する協力等の流通・閲覧防止対策、被害児童の早期発見及び支援活動等を推進している。
 
図2-42 児童ポルノ事犯の検挙状況等の推移(平成19~23年)
図2-42 児童ポルノ事犯の検挙状況等の推移(平成19~23年)
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図2-43 児童ポルノ排除総合対策の概要(平成19~23年)
図2-43 児童ポルノ排除総合対策の概要(平成19~23年)

事例
 児童ポルノ愛好者グループのメンバーらは、小学校低学年の女児の児童ポルノ画像を同グループ内で相互に提供するなどしており、メンバーの中には女児に対するわいせつ行為を行うとともに、その様子を撮影する者もいた。23年6月までに、9人を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ提供)等で検挙し、うち2人を強制わいせつで検挙した(大阪)。

(4)少年を取り巻く有害環境対策

 児童が携帯電話を利用して、インターネット上の違法情報・有害情報を閲覧したり、コミュニティサイト等の利用に起因する犯罪被害に遭うことを防止するため、関係行政機関及び携帯電話事業者等と連携し、保護者等に対するフィルタリング(注)の利用の推奨等、フィルタリングの100%普及を目指した取組を推進している。
 また、深夜に少年のたまり場となりやすいカラオケボックスやコンビニエンスストア等に対し、少年の不良行為等を防止するための自主的な措置が行われるよう、働き掛けを行っている。

注:インターネット上のウェブサイト等を一定の基準に基づき選別し、青少年に有害な情報を閲覧できなくするプログラムやサービス

(5)児童虐待対策

 平成23年中の児童虐待事件の検挙件数は384件と、前年より32件(9.1%)増加し、11年以降で最多となった。
 警察では、各種活動を通じて児童虐待事案の早期把握に努めるとともに、児童相談所、学校、医療機関等の関係機関との緊密な連携を保ちながら、児童の生命・身体の保護のための措置を積極的に講じている。
 児童虐待の疑いのある事案では、速やかに児童相談所等に通告するほか、厳正な捜査や被害児童の支援等、警察としてできる限りの措置を講じて、児童の安全の確認及び安全の確保を最優先とした対応の徹底を図っている。また、児童の保護に向けて、個別事案についての情報を入手した早期の段階から関係者間で情報を共有し、対応の検討が行えるよう、児童相談所等の関係機関との連携の強化を図っている。
 
図2-44 児童虐待事件の態様別検挙状況(平成19~23年)
図2-44 児童虐待事件の態様別検挙状況(平成19~23年)
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事例
 児童(3)が通う保育所の職員は、当該児童の体に傷やあざがあったことから話を聞いたところ、「パパこわい」などと申し立てたため児童相談所に通報し、同児童相談所が児童を一時保護した。その後、児童相談所職員が一時保護に関する説明のため継父(29)を訪問したところ、継父が同職員に暴言を吐くなどしたため警察署に援助要請があり、警察官がこれに応じた際に児童の状況を確認するなどしたところ、身体的虐待を認知したことから捜査を開始し、23年12月、継父を傷害罪で逮捕した(千葉)。

(6)少年の犯罪被害への対応

 平成23年中の少年が被害者となった刑法犯の認知件数は22万8,025件であり、このうち凶悪犯は962件、粗暴犯は1万2,010件であった。
 警察では、被害少年に対し、少年補導職員(注)を中心に継続的にカウンセリングを行うなどの支援を行うとともに、大学の研究者、精神科医、臨床心理士等の専門家を被害少年カウンセリングアドバイザーとして委嘱し、支援を担当する職員が専門的な助言を受けることができるようにしている。

注:特に専門的な知識及び技能を必要とする活動を行わせるため、その活動に必要な知識と技能を有する警察職員(警察官を除く。)のうちから警視総監又は道府県警察本部長が命じた者で、少年の非行防止や立ち直り支援等の活動において、重要な役割を果たしている。平成24年4月1日現在、全国に約940人の少年補導職員が配置されている。
 
図2-45 被害少年の支援活動
図2-45 被害少年の支援活動

事例
 性的被害を受けた小学生女子児童は、精神状態が極めて不安定であったことから、少年サポートセンター職員が被害少年サポーターや児童福祉司と連携し、女子児童に対して、約8か月にわたり、折り紙や編み物を使用した心理療法等の支援を実施した。その結果、女子児童は表情が穏やかになるとともに精神的に落ち着くようになり、欠席していたクラブ活動にも再び参加するようになった(福岡)。

 第3節 安全で安心な暮らしを守る施策

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