第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

6 悪質商法、ヤミ金融事犯等

(1)悪質商法

① 利殖勧誘事犯

 平成23年中の利殖勧誘事犯(注1)の検挙状況は表2-4のとおりであり、ファンドに関連した事犯及び未公開株に関連した事犯の検挙が多くを占めた。全国の消費生活センターに寄せられた利殖勧誘事犯に係る相談(注2)については、未公開株、商品先物、公社債等の取引を装う事犯に係るものが減少する一方、ファンドの取引や過去の投資被害の救済を装う事犯に係るものが目立った。
 警察では、利殖勧誘事犯の被害拡大防止・被害回復を図るため、利殖勧誘事犯を集中的に取り締まるとともに、口座凍結のための金融機関への情報提供を推進しており、23年中の情報提供件数は2,746件であった。

注1:出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)、金融商品取引法、無限連鎖講の防止に関する法律等の違反に係る事犯
注2:契約を締結した時期及び既に金銭を支払ってしまったことが判明した相談
 
広報ポスター
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表2-3 利殖勧誘事犯の検挙状況の推移(平成19~23年)
表2-3 利殖勧誘事犯の検挙状況の推移(平成19~23年)
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表2-4 利殖勧誘事犯の類型別検挙状況(平成23年)
表2-4 利殖勧誘事犯の類型別検挙状況(平成23年)
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事例①
 海外商品先物取引業者役員(44)らは、18年4月から21年7月にかけて、「原油や金等のオプション取引に投資すれば確実に多額の利益が得られる」などと告げて、327人から約23億3,000万円をだまし取るなどした。23年2月までに12人を詐欺罪で逮捕した(岩手)。

事例②
 無登録ファンド業者役員(65)らは、16年4月から20年12月にかけて、「一口100万円の投資をすれば、元本を保証し、年利4.8%から5.8%の配当を支払う。分散投資でリスクを回避し、収益の安定化を図る」などと告げて、950人から約91億円をだまし取るなどした。23年3月までに13人を詐欺罪及び組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という。)違反(組織的な詐欺)で検挙した(警視庁)。

コラム② 金融機関に対する法人名義口座開設時審査の厳格化要請


 警察が23年中に利殖勧誘事犯に利用された疑いがあるとして凍結を求めた口座のうち約8割が法人名義口座で、これらの口座名義人である法人のうち約2割が金融機関に届けていた事務所の所在地は、いわゆる郵便物受取サービス等を提供するバーチャルオフィスのものと同一であり、その多くは都心の一等地に所在していた。これは、利殖勧誘事犯を敢行しようとする者が都心の一等地に会社が実在するよう装うため、バーチャルオフィスを利用しているものと考えられる。
 このような現状に鑑み、警察では、株式会社ゆうちょ銀行及び全国銀行協会に対し、口座開設に当たっての審査期間の確保、本人確認書類の複写・保管等を内容とする法人名義口座開設時審査の厳格化を求めた。これを受けて、金融機関において審査が厳格化された。

コラム③ 消費生活侵害事犯の被害が疑われる相談情報の警察への提供について


 利殖勧誘事犯、特定商取引等事犯(注1)等の被害を防止し、被害回復を支援するため、23年6月、消費生活侵害事犯対策ワーキングチーム(注2)において、関係機関の窓口に寄せられた相談について、相談者が警察への情報提供に同意することが確認できた場合には、具体的な相談内容等を警察に提供する旨を申し合わせ、犯罪対策閣僚会議に報告した。

注1:訪問販売等の特定商取引を規制する特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)違反及び特定商取引に関連する詐欺、恐喝等に係る事犯
注2:「犯罪に強い社会の実現のための行動計画2008」中の「消費者の目線に立った生活経済事犯への対策の強化」に掲げられた施策を推進するため、平成20年12月、犯罪対策閣僚会議の下に設置された関係機関によって構成されるワーキングチーム

② 特定商取引等事犯

 平成23年中の特定商取引等事犯の検挙状況は表2-5のとおりであり、高齢者を狙い、家屋の屋根等の点検を口実に不要な住宅リフォーム工事等を高額で行う点検商法の検挙が目立った。
 
表2-5 特定商取引等事犯の検挙状況の推移(平成19~23年)
表2-5 特定商取引等事犯の検挙状況の推移(平成19~23年)
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事例①
 住宅リフォーム業者従業員(30)らは、21年1月から22年7月にかけて、家屋の無料点検を装って主に高齢者方を訪問し、「至る所にカビが生えている。湿気が多くて、床下の地面に水が溜まっている。土台の木が腐って家が傾いている」などと告げて、床下工事名目で1,391人から約1億5,000万円をだまし取るなどした。23年6月までに5人を詐欺罪及び特定商取引法違反(不実の告知)で逮捕した(福岡)。

事例②
 訪問販売業者(57)らは、23年4月から11月にかけて、主に高齢者方を訪問するなどし、商品の売買契約の締結について勧誘する目的であることを告げずに、「会場に来るだけで日用品が無料で貰える」などと伝え、あらかじめ借り上げていた民家の一室に誘い込んだ上、高額な温熱治療機器の購入を勧誘し、518人と総額約1億3,000万円の売買契約を締結した。同年11月、8人を特定商取引法違反(目的隠匿勧誘)で逮捕した(京都)。

(2)ヤミ金融事犯等

 平成23年中のヤミ金融事犯(注)の検挙状況は表2-6のとおりであり、このうち暴力団が関与する事件は約22.7%であった。
 22年の貸金業の規制等に関する法律等の一部を改正する法律の完全施行により、ヤミ金融被害の拡大が懸念されたが、警察への相談件数やヤミ金融事犯の検挙事件数及び検挙人員は減少傾向にある。警察では、各都道府県警察に設置しているヤミ金融事犯集中取締本部による継続した取締りのほか、口座凍結のため金融機関へ情報提供を行うこと、無登録貸金業の広告が掲載されているウェブサイトの削除をプロバイダに対して要請すること、ヤミ金融に利用され凍結された口座の名義人情報の金融機関への提供を拡大することなどの総合的な対策を行っている。23年中、ヤミ金融に利用された疑いのある口座として金融機関に情報提供し凍結を求めた件数は21,006件、プロバイダに対するウェブサイトの削除要請は228件であった。

注:出資法違反(高金利等)及び貸金業法違反並びに貸金業に関連した詐欺、恐喝、暴行等に係る事犯
 
表2-6 ヤミ金融事犯の検挙状況の推移(平成19~23年)
表2-6 ヤミ金融事犯の検挙状況の推移(平成19~23年)
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事例
 無登録貸金業者(37)は、19年12月から23年1月にかけて、338人に対し、法定利息の約43倍から約61倍で金銭を貸し付け、約1億4,600万円の元利金を他人名義の口座に振込送金させて受領した。23年3月までに、出資法違反(超高金利)、貸金業法違反(無登録営業)及び組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益の隠匿)で逮捕した。また、犯罪収益等と認められた現金及び預金債権について組織的犯罪処罰法に基づく起訴前の没収保全請求を行い、違法収益の剥奪を図った(北海道)。

コラム④ クレジットカードショッピング枠現金化への対応


 23年8月、クレジットカード決済による商品売買を装って商品代金の一部をキャッシュバック金として払い戻す方法で実質的に金銭の貸付けを行い、商品代金と払戻金との差額約8,000万円を利息相当分の利益として受領した元貸金業者の男(41)を出資法違反(脱法行為)で逮捕した(警視庁)。
 これらのヤミ金融事犯の脱法的形態である「クレジットカードショッピング枠現金化」について、警察では、被疑者の検挙に努めるほか、プロバイダに対して広告が掲載されているウェブサイトの削除を要請するとともに、関係団体に対して対策を講じるよう要請している。23年中は、112件のウェブサイトの削除を要請した。

 第1節 犯罪情勢とその対策

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