第5章 公安委員会制度と警察活動の支え

第3節 国民の信頼に応える警察

1 適正な警察活動

(1)警察改革への取組

国家公安委員会・警察庁は、平成12年に策定した「警察改革要綱」及び17年に取りまとめた「警察改革の持続的断行について」と題する指針に基づき、警察改革の精神の下、治安再生に取り組んできた。

22年は「警察改革要綱」の策定から10年の節目の年であったことから、国家公安委員会・警察庁において、その推進状況について政策評価を実施し、総合評価書を取りまとめた。

図5―16 警察改革への取組

コラム〔3〕 「警察改革の推進」に係る総合評価の結果

総合評価書では、改革はおおむね所期の目的を達成したと評価される一方、透明性の確保、自浄機能の強化、説明責任の徹底といった基本的な考え方は将来においても堅持されるべきものであることや、依然として不祥事案の発生が後を絶たないこと等が指摘されており、今後、各施策の更なる定着化・深化を図るとともに、治安水準の更なる向上を目指すべきであるとの結論が示された。

「警察改革の推進」に係る総合評価の結果(図解)

(2)適正な予算執行の確保

警察では、適正な予算執行を確保するため、次のような取組を行っている。

<1> 警察が行う会計監査等

国家公安委員会が定める会計の監査に関する規則に基づき、警察庁長官、警視総監、道府県警察本部長及び方面本部長は、監査手法に改善・工夫を加えながら、より適正な会計経理を推進するため、会計監査を実施している。

図5―17 会計の監査に関する規則(平成16年国家公安委員会規則第9号)

平成22年度に警察庁が実施した監査では、捜査費、旅費及び契約に係る予算の執行状況を重点的に監査することとした。特に、契約については、一部の県警察等において、物品の購入等の契約について不適正な経理処理が判明したことを踏まえ、物品の購入等の契約について、さらに重点的に監査することとした。その結果、捜査員が捜査諸雑費を支出した際、金額を誤って計上、精算していたことが認められたことから、差額分を追加支給又は返還すること(釧路方面本部、千葉、神奈川、新潟、静岡)、物品購入等の契約について不適正な経理処理が認められたことから、改善策を講じること(九州管区警察局、岐阜、大分)、旅費の支給漏れ又は過払いが認められたことから、差額分を追加支給又は返還すること(警察庁内部部局、旭川方面本部、秋田、新潟、愛知、佐賀、長崎)などについて、改善を指示した。また、捜査費関係文書の適切さを欠く取扱い、不適切な契約手続等について、必要な改善措置を講ずるよう、関係部署を指導した。

23年度については、22年度の会計監査実施結果を踏まえつつ、引き続き厳正な監査を行うこととしている。

監査における職員からの聞き取り

監査における職員からの聞き取り

<2> 会計に関する職員教育

職員に予算執行の手続に関する正確な知識を修得させるとともに、適正経理の重要性を再認識させるため、会計に関する職員教育を徹底している。また、それに必要な捜査費等の経理に関する各種の解説資料を作成し、配布している。

(3)監察

警察では、警察内部の自浄能力を高めるため、都道府県警察で監察を掌理する首席監察官を全て国家公安委員会が任命する地方警務官とするほか、警察庁、管区警察局及び都道府県警察において監察担当官を増員するなど監察体制を強化するとともに、国家公安委員会が定める監察に関する規則に基づき、能率的な運営及び規律の保持のため、厳正な監察を実施している。これにより、警察改革要綱が策定された平成12年度と比べ、警察庁、管区警察局等による監察実施回数が大幅に増加した。

図5―18 監察に関する規則(平成12年国家公安委員会規則第2号)

22年度は、図5―19のとおり、監察実施項目を定め、業務及び服務の両面において監察を行った。同年度の警察庁及び管区警察局による都道府県警察等に対する監察の実施回数は2,116回と、警察改革要綱が策定された12年度の3.5倍に増加している。また、都道府県警察においては、年1回以上ほぼ全ての警察署に対し監察が実施されている。

なお、警察法の規定により、国家公安委員会は警察庁に対して、都道府県公安委員会は都道府県警察に対して、監察について必要があると認めるときは、具体的又は個別的な監察の指示をすることができ、これまで、神奈川県公安委員会(13年4月)及び奈良県公安委員会(同年7月)が、警察職員による不祥事案の発生に際して各県警察に対し監察の指示を行ったほか、予算執行に関する不適正事案の発生に際して、北海道公安委員会(16年3月)及び福岡県公安委員会(同年4月)が、各道県警察に対し監察の指示を行った。

図5―19 平成22年度の監察実施計画

(4)苦情の適正な処理

警察法には苦情申出制度が設けられており、都道府県警察の職員の職務執行について苦情がある者は、都道府県公安委員会に対し文書により苦情の申出をすることができる。

なお、警察本部長や警察署長宛てに申出があったものなど、都道府県警察の職員の職務執行についての苦情でこの制度によらない申出についても、これに準じた取扱いがなされている。

図5―20 苦情申出制度の概要

(5)情報管理の徹底

<1> 情報セキュリティ対策の推進

警察では、犯罪捜査、運転免許等に関する大量の個人情報のほか、多くの機密情報を取り扱っていることから、警察庁は、警察情報セキュリティポリシー(警察情報セキュリティに関する規範の体系)を策定するなどして、情報の流出等への対策を進めている。具体的には、警察庁職員及び都道府県警察に対し、捜査資料等の不必要な複写及び持ち出しの禁止や不必要な情報の廃棄・消去等、情報の組織的管理の徹底について指示するとともに、情報管理に係る職員の責務等について浸透を図っている。また、これらの取組の実効性等を検証するため、都道府県警察等を対象とした監査を継続的に実施しているほか、私有コンピュータ等の公務使用を禁止するなど、情報セキュリティの向上のための総合的な対策を推進している。特に、外部記録媒体からの情報流出を防止するため、個人所有の外部記録媒体の利用を技術的に禁止する機能や外部記録媒体に書き込む情報を自動的に暗号化する機能を導入するとともに、外部記録媒体を用いずに情報を共有することが可能となるファイルサーバ(注)の整備・拡充を引き続き推進することとしている。

図5―21 情報管理の徹底に向けた各種対策

注:自らの記録装置に保存された情報をネットワーク上のほかのコンピュータと共有することができるサーバ

<2> 国際テロ対策に係るデータのインターネット上への掲出事案

平成22年10月、国際テロ対策に係るデータ114点がインターネット上に掲出された。本件データは、ファイル共有ソフト「ウィニー(Winny)」ネットワーク上への掲出等の複数の方法によりインターネット上に掲出されており、また、掲出に当たっては、国内外の複数のサーバが使用された事実等が確認されたことから、警察では、このようなサーバに係るIP アドレス等の解明のための関係国等への協力要請を含め、所要の捜査及び調査を継続している。

また、同年12月には、国家公安委員会から、本件に対する捜査及び調査の徹底、個人情報が掲出された者に対する保護その他の警察措置、情報保全の徹底・強化の3点について指示が行われ、警察庁では、調査の概要、警察の取組状況、今後の方針等を取りまとめた中間的見解等を国家公安委員会に報告するとともに、公表した。本件データには、警察職員が取り扱った蓋然性が高い情報が含まれていると認められ、このようなデータがインターネット上に掲出されたことにより、不安や迷惑を感じる方々が現にいるという事態に立ち至ったことは極めて遺憾である。

警察では、引き続き、個人情報が掲出された者に対する保護その他の警察措置や本件に対する捜査、調査に組織の総力を挙げて取り組み、事実を究明していくこととしている。

情報保全の徹底・強化については、今回の事案を踏まえ、警察庁において全都道府県警察に実地調査を行うとともに、23年1月には、情報の持ち出しを物理的に困難にする情報システムの確立を始めとする情報保全の徹底・強化のための方策について全国警察に指示した。全国警察においては、これらの方策を推進し、情報保全に万全を期すこととしている。


第3節 国民の信頼に応える警察

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