第4章 公安の維持と災害対策

第4節 災害等への対処と警備実施

1 自然災害等への対処

(1)自然災害等の発生状況と警察活動

平成22年中は、大雨、台風、地震、津波、強風及び高潮により、死者・行方不明者30人、負傷者273人等の被害が発生した。18年から22年にかけての自然災害による主な被害状況は、表4―7のとおりである。

表4―7 自然災害による主な被害状況の推移(平成18~22年)

<1> 風水害

22年中は、梅雨前線による大雨や鹿児島県奄美地方における大雨が発生したほか、14個の台風が発生し、うち2個が日本に上陸し、7個が接近した。これらの大雨、台風等の風水害により、死者25人、行方不明者5人等の被害が発生した。

ア 梅雨前線による大雨

22年6月11日から7月19日にかけて、梅雨前線が九州から本州付近に停滞し、広い範囲で大雨となった。特に九州南部では、この間の総雨量が平年の2倍を超えるものとなり、全国各地で土砂災害等が発生し、死者15人、行方不明者5人、負傷者19人等の被害が生じた。

岐阜県警察、島根県警察、広島県警察を始めとする関係都府県警察では、警察本部長を長とする災害警備本部等を設置し、被害情報の収集、被災者の救出救助、行方不明者の捜索等の活動を実施した。

また、広島県内で大規模な土砂災害が発生したことから、広島県公安委員会からの援助の要求を受け、島根、岡山、山口の各県警察は、広域緊急援助隊(約70人)を、鳥取、島根、岡山の各県警察は、合計3機のヘリコプターをそれぞれ派遣した。

梅雨前線による大雨に伴い捜索活動に当たる広域緊急援助隊

梅雨前線による大雨に伴い捜索活動に当たる広域緊急援助隊

イ 鹿児島県奄美地方における大雨

鹿児島県奄美地方では、22年10月20日、前線の影響により、局地的に1時間に120ミリを超える猛烈な雨が降り、記録的な大雨となった。この大雨により、各地で土砂災害等が発生し、死者3人、負傷者2人等の被害が生じた。

鹿児島県警察では、警察本部長を長とする災害警備本部を設置するとともに、機動隊等を奄美大島に出動させ、被害情報の収集、被災者の救出救助、行方不明者の捜索、被災者支援等の活動を実施した。

また、鹿児島県公安委員会から援助の要求を受け、沖縄県警察は、ヘリコプター1機を派遣した。

<2> 津波

22年2月27日午後3時34分(現地時間午前3時34分)、チリ中部沿岸を震源とするモーメントマグニチュード8.8の地震が発生した。気象庁は、翌28日、青森県太平洋沿岸、岩手県及び宮城県に津波警報(大津波)を発表したところ、岩手県久慈港及び高知県須崎港で最高1.2メートルの津波を観測した。この津波による人的被害の発生はなかったものの、宮城・静岡両県で床上浸水6戸、床下浸水51戸の被害が発生したほか、船舶・水産物等に被害が生じた。

青森県警察、岩手県警察、宮城県警察を始めとする関係県警察は、警察本部長を長とする災害警備本部等を設置し、沿岸部での広報及び避難誘導活動に当たったほか、津波による交通の危険が予想される道路において、道路管理者と連携した通行禁止規制を実施した。

沿岸部で広報及び避難誘導活動に当たる警察官

沿岸部で広報及び避難誘導活動に当たる警察官

(2)広域緊急援助隊特別救助班の活動

警察では、平成17年4月に、12都道府県警察(注1)の広域緊急援助隊に、極めて高度な救出救助能力を持つ特別救助班(P-REX(注2))を設置した。

特別救助班は、「平成21年7月中国・九州北部豪雨」の被災地に出動したほか、これまでに、17年のJR 西日本福知山線列車事故や、19年の新潟県中越沖地震、20年の岩手・宮城内陸地震等の災害現場において、被災者の救出救助に当たっている。

特別救助班は、廃屋等を利用した訓練や関係機関との合同訓練等を行い、救出救助能力の向上に努めている。また、救出救助活動を安全かつ迅速に実施するためには、部隊指揮官の指揮能力が重要であることから、部隊指揮要領の実戦的訓練や、各種災害現場についての事例研究等を実施するなど、指揮官の指揮能力の向上を図っている。

救出救助訓練を行う特別救助班

救出救助訓練を行う特別救助班

注1:北海道、宮城、埼玉、警視庁、神奈川、静岡、愛知、大阪、兵庫、広島、香川及び福岡

注2:Police Team of Rescue Experts

コラム〔1〕 口蹄疫への対応

22年4月、宮崎県において口蹄疫の疑似患畜が確認され、その後、感染は5市6町に拡大した。宮崎県警察では、口蹄疫発生当初から宮崎県知事部局と連携し、消毒ポイントにおける交通誘導や警戒等、防疫作業に対する支援活動を実施した。また、同年5月から7月までの間、延べ約2万3,000人の管区機動隊等の特別派遣を受け、支援活動を強化した。警察は、このような事態が発生した際、危機管理上の問題として迅速な対応ができるよう、引き続き、態勢の構築に努めることとしている。

消毒ポイントにおける交通誘導(時事)

消毒ポイントにおける交通誘導(時事)

コラム〔2〕 2010年APEC 警備

2010年APEC(アジア太平洋経済協力)は、首脳会議が22年11月13、14日に、閣僚会議が同月10、11日に、それぞれ神奈川県横浜市で開催されたほか、7つの関連閣僚会合が6月から11月にかけて全国各地で開催された。

今回のAPEC 警備は、<1>国際テロのほか、反グローバリズムを掲げる過激な勢力等による大規模なデモ等に伴う違法行為や極左暴力集団、右翼等によるテロ等重大事件の発生が懸念されるなどの厳しい警備状況にあったこと、<2>全国各地で閣僚会合が開催されたこと、<3>21の国と地域から多数の要人が参加したこと、<4>首脳会議・閣僚会議が首都圏で開催されたこと、<5>都市部における大規模な国際会議の開催となったことの5つの課題があり、大変困難なものとなった。

警察では、国民の理解と協力を得て、国内外要人の身辺の安全と行事の円滑な遂行の確保、テロ等違法行為の未然防止を図ることを基本方針として、全国警察の全ての部門が一体となって、テロ関連情報の収集・分析、関係機関と連携した水際対策その他の警備諸対策を推進した。

こうした中、反グローバリズムを掲げる勢力等や極左暴力集団による集会・デモ、右翼による街頭宣伝活動等が行われたが、警察では、テロや暴動等の発生を未然に防止し、開催国としての治安責任を果たした。

2010年APEC 首脳会議

2010年APEC 首脳会議

デモ警備状況

デモ警備状況

(1)警察の総力を挙げた取組

警察庁では、21年11月、次長を長とする「2010年APEC 警備対策委員会」を設置するとともに、全ての都道府県警察において警察本部長等を長とする警備対策委員会を設置して体制を確立し、全国警察が一体となって警備諸対策を強力に推進した。

APEC 警備では、全国から神奈川県警察への特別派遣部隊約1万4,000人を含む最大約2万1,000人が動員されたほか、その他の関連閣僚会合についても、部隊の特別派遣を受けるなどして所要の警備体制を構築した。

また、全国警察において、特別派遣部隊の中核となる機動隊等を対象に、反グローバリズムを掲げる過激な勢力等による暴動等への対処を的確に行えるよう、ブラインド方式(注)による大規模な実戦的訓練を繰り返し実施するなど、精強な部隊の錬成に努めた。

(2)官民一体の「日本型テロ対策」

我が国においてテロを未然に防止するためには、警察のみならず、民間事業者、地域住民等の協力を得て行う官民一体の「日本型テロ対策」を、広く全国で推進することが必要不可欠である。

このため、警察においては、爆発物の原料となり得る化学物質の販売事業者、旅館業者、不動産業者等、テロリストが犯行の準備段階で利用する可能性のある施設管理者等と連携した各種対策、鉄道事業者等と緊密に連携した公共交通機関対策、重要インフラ事業者等と連携したサイバーテロ対策等を強力に推進した。

また、広く関係機関、民間事業者や地域住民の理解と協力を得るため、神奈川県警察では、ライフライン、鉄道、物流事業者等の参加を得たAPEC 首脳会議対策協力会や、地域住民等が参加する警察署地域安全安心協力会を立ち上げ、警視庁でも都下全署に地域版テロ対策東京パートナーシップを構築した。その他の道府県警察においても、APEC 警備対策協議会や既存の警察署協議会等を活用して、積極的な情報発信や地域住民、事業者等を交えた合同のテロ対処訓練を実施するなどした。

APEC 首脳会議対策協力会総会

APEC 首脳会議対策協力会総会

(3)市民生活や社会経済活動への配慮

首脳会議と閣僚会議が横浜で開催されたほか、多数の関連閣僚会合が都市部で開催されたため、警備に伴う市民生活や社会経済活動への影響が予想された。

このため、神奈川県警察では、会議場周辺の住民を対象に横浜市が発行した住民確認カードや車両確認カードを活用し、検問等に伴う住民の負担軽減を図るとともに、車両下部を迅速・正確に確認する新型装備資機材を導入するなどして、市民生活等への影響に配慮した警備を行った。

また、会議場周辺の商業施設や公共交通機関については、警備に伴う影響を最小限に抑えるとともに、必要に応じ、防犯カメラの増設その他の自主警備の強化に係る助言を行うなど、これらの通常営業や運行への影響にも配慮した取組を推進した。

このほか、警備に対する国民の理解と協力を確保するため、検問や交通規制、交通総量抑制対策の実施等について、地域住民等に対する説明会の実施やポスター、チラシの配布等あらゆる機会を利用して、効果的な広報に努めた。

住民確認カード及び車両確認カード

住民確認カード及び車両確認カード

新型装備資機材「車両下部カメラ」を活用した車両検問

新型装備資機材「車両下部カメラ」を活用した車両検問


第4節 災害等への対処と警備実施

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