第3章 安全かつ快適な交通の確保

第3節 運転者対策

1 運転者教育

(1)運転者教育の体系

運転者教育の機会は、運転免許を受ける過程及び運転免許を受けた後における各段階に体系的に設けられており、その流れは次のとおりである。

図3―12 運転者教育の体系

(2)運転免許を受けようとする者に対する教育の充実

運転免許を受けようとする者は、都道府県公安委員会の行う運転免許試験を受けなければならないが、指定自動車教習所(注1)の卒業者は、そのうち技能試験が免除される。

指定自動車教習所は、初心運転者教育の中心的役割を担うことから、警察では、教習指導員の資質の向上を図るなどして、指定自動車教習所における教習の充実に努めている。

・指定自動車教習所

全国で1,377か所(平成22年末現在)

・その卒業者で22年中に運転免許試験に合格した者の数

156万644人(合格者全体の96.3%)

また、運転免許を受けようとする者は、その種類に応じ、安全運転に関する知識や技能等を習得するための講習(取得時講習)を受講することが義務付けられている。ただし、指定自動車教習所又は特定届出自動車教習所(注2)を卒業した者は、これと同内容の教育を受けているため、受講する必要がない。

表3―3 取得時講習の実施状況(平成22年)

注1:職員、施設及び運営方法が一定の基準に適合するものとして都道府県公安委員会が指定した自動車教習所

注2:届出自動車教習所のうち、職員、施設、教習方法等が一定の基準に適合するものとして都道府県公安委員会が指定した教習課程を行う自動車教習所

(3)運転免許取得後の教育の充実

<1> きめ細かな更新時講習の実施

運転免許証の更新を受けようとする者が受けなければならない更新時講習は、運転免許証の更新の機会に定期的に講習を行うことにより、安全な運転に必要な知識を補い、運転者の安全意識を高めることを目的としている。

この講習は、受講対象者を法令遵守の状況等により優良運転者、一般運転者、違反運転者及び初回更新者に区分して実施している。

表3―4 更新時講習の実施状況(平成22年)

<2> 危険運転者の改善のための教育

道路交通法等に違反する行為をし、累積点数が一定の基準に該当する者や行政処分を受けた者に対しては、その危険性の改善を図るための教育として、初心運転者講習、取消処分者講習、停止処分者講習及び違反者講習を実施している。

特に、常習飲酒運転者対策として、停止処分者講習等において、飲酒運転違反者を集めて行う飲酒学級を設置し、飲酒ゴーグル、飲酒シミュレーター等を活用した酒酔い等の疑似体験、飲酒運転事故の被害者遺族等による講義を実施するなど、教育内容の充実に努めている。平成22年度には、飲酒運転者に対するより効果的な取消処分者講習の導入のため、飲酒行動の改善等のためのカリキュラムとして新たに、AUDIT(注1)、ブリーフ・インターベンション(注2)等を盛り込んだモデル事業を行った。今後、モデル事業の検証を行った上で、新しい取消処分者講習の実施に向けて取り組んでいく。

飲酒学級

飲酒学級

表3―5 危険運転者の改善のための教育の実施状況(平成22年)

注1:世界保健機構がスポンサーになり、数か国の研究者によって作成された「アルコール使用障害に関するスクリーニングテスト」。面接又は質問紙により、その者が危険・有害な飲酒習慣を有するかどうかなどを判別する。

注2:飲酒行動等の人の特定行動に変化をもたらすことを目的とした短時間のカウンセリング

<3> 自動車教習所における交通安全教育

自動車教習所は、いわゆるペーパードライバー教育を始めとする運転免許取得者に対する交通安全教育も行っており、地域における交通安全教育センターの役割も果たしている。こうした教育の水準の向上と普及のため、一定の水準に適合する場合は都道府県公安委員会の認定を受けることができることとされている。

(4)高齢運転者対策の充実

<1> 高齢運転者に対する教育

高齢者講習は、更新期間が満了する日における年齢が70歳以上の高齢者の運転免許証の更新時に義務付けられており、安全運転に必要な知識等に関する講義のほか、自動車等の運転、運転適性検査器材(注1)による指導等を通じ、受講者に自らの身体機能の変化を自覚してもらった上で、その結果に基づく助言・指導を行うことを内容としている。平成22年中は204万428人が受講した。

運転適性検査器材を用いた高齢者講習

運転適性検査器材を用いた高齢者講習

注1:視覚を通じた刺激に対する反応の速度及び正確性を検査する器材、動体視力検査器、夜間視力検査器及び視野検査器

<2> 講習予備検査(認知機能検査)の実施

更新期間が満了する日における年齢が75歳以上の高齢者は、運転免許証の更新期間が満了する日前6月以内に、講習予備検査(認知機能検査)を受けることが義務付けられている。この検査は、時間の見当識(注2)、手がかり再生(注3)及び時計描画(注4)という3つの検査項目について実施され、検査結果を通じて高齢運転者に自己の記憶力・判断力の状況を自覚してもらった上で、検査の結果に応じた高齢者講習を実施している。22年中の講習予備検査(認知機能検査)の受検者数は118万5,886人であった。

なお、検査の結果、記憶力・判断力が低くなっていると認められ、かつ、運転免許証の更新期間満了日の1年前の日以後に信号無視等の記憶力・判断力が低下した場合に行われやすい特定の違反行為をしていた場合には、臨時適性検査として認知症の専門医の診断を受けなければならず、認知症と診断されると、運転免許の取消し又は停止処分がなされる。

図3―13 高齢者講習の流れ

注2:検査を受けている時の年月日、曜日及び時刻を回答するもの

注3:一定のイラストを記憶し、採点には関係しない課題を行った後、記憶しているイラストの名称を最初はヒントを与えられることなく回答し、次にヒントを与えられた上で回答するもの

注4:時計の文字盤を描き、さらに、その文字盤上に指定された時刻を表す針を描くもの

<3> 申請による運転免許の取消し(運転免許証の自主返納)

身体機能の低下等を理由に自動車等の運転をやめる際には、運転免許の取消しを申請することができ、運転免許証を返納することができる。また、返納した場合には、申請により運転経歴証明書の交付を受けることができる。22年中の申請による運転免許の取消し件数は6万5,605件(うち70歳以上は5万5,524件)で、運転経歴証明書の交付件数は2万5,771件(うち70歳以上は2万2,163件)であった。


第3節 運転者対策

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