特集II:安全・安心で責任あるサイバー市民社会の実現を目指して

2 サイバー空間に対する国民・事業者の意識

(1)サイバー空間に対する国民の意識

警察庁では、平成23年1月、都道府県警察を通じて、インターネット利用に関する意識調査(注)を行った。

インターネットを利用した犯罪やトラブルに巻き込まれた経験があるか質問したところ、15.8%の者が「自分自身のみ巻き込まれた経験が有る」、「家族や友人等が巻き込まれた経験が有る」、「自分自身や家族等が巻き込まれた経験が有る」と回答している。

図―16 サイバー犯罪やトラブルに巻き込まれた経験の有無

注:全国の運転免許試験場等において、運転免許証の更新に訪れた方5,120人を対象に、警察庁において作成した質問票を配付し回答を求める形式で実施(有効回答数4,294人のうち、インターネットを利用しないと回答した853人を除く3,441人について分析)

インターネット上のモラルやマナーは、現実社会でのモラルやマナーと比較してどう思うかについて質問したところ、82.4%の者が「かなり悪い」又は「少し悪い」と回答しており、国民においても、サイバー空間におけるインターネット利用者の規範意識の低下について認識していることがうかがわれる。

図―17 サイバー空間におけるモラルやマナーの現実社会との比較

また、日頃、インターネットを利用した犯罪の被害に遭いそうで不安に感じることはあるかについて質問したところ、60.7%の者が「よくある」又は「たまにある」と回答しており、国民がサイバー空間における安全性が十分に確保されていないと考えていることがうかがわれる。

図―18 サイバー犯罪の被害に遭う不安

今後、インターネットを利用した犯罪が増加すると思うかについて質問したところ、90.7%の者が、「かなり増加する・少し増加する」と回答している。18年3月に実施した意識調査(注)では、同様の問いに対し78.8%の者が「増加すると思う」と回答しており、今回の調査結果は、当時の調査結果を上回っており、国民が、サイバー犯罪の情勢の更なる悪化を認識していることがうかがわれる。

図―19 サイバー犯罪の今後の情勢(平成23年)

図―20 サイバー犯罪の今後の情勢(平成18年)

注:全国のインターネット利用者1,000名を対象に、調査を委託した民間事業者のウェブサイト上に警察庁において作成した質問票を掲示して回答を求める形式で実施

一方、インターネット上に違法情報・有害情報が氾濫している原因について質問したところ、「非常に大きな原因となっているもの」として、54.5%の者が「誰が書き込みしているのか分からないこと」と、40.9%の者が「インターネット利用者のモラルやマナーの問題」と回答しており、国民が、規範意識の低さの要因として匿名性の高さを認識していることがうかがわれる。

図―21 サイバー空間に違法情報・有害情報が氾濫している原因

このように、多くの国民が、インターネットを利用した犯罪の増加を懸念しているところ、その要因としては、インターネット利用者のモラルの欠如やサイバー空間における匿名性にあると考えているとうかがわれる。

(2)サイバー空間に対する事業者の意識

警察庁では、サイバー空間に対する事業者の意識について、警察庁において民間事業者に対して実施した情報セキュリティに関する意識調査(注1)、ヒアリング(注2)及び経済産業省が実施した情報処理実態調査(注3)を基に分析した。

経済産業省の情報処理実態調査によると、企業における情報セキュリティに関する諸対策は、セキュリティ監視ソフトの導入、情報セキュリティ管理者の配置、従業員に対する情報セキュリティ教育が、それぞれ約半数の企業において行われており、わずかながらではあるが、対策を講じる企業の割合は増加傾向にある。その一方で、情報漏えいを始めとする事故は依然として多く、特にコンピュータ・ウイルスによる被害は近年再び増加している。

図―22 企業における情報セキュリティに関する対策状況(平成17~20年度)

図―23 情報セキュリティに関する事故発生状況(平成17~20年度)

警察庁が実施したヒアリングでは、経営者層の情報セキュリティ対策への理解が不十分であったり、対策をどこまで実施すればその効果が得られるか不明確であることから、なかなか対策が進まない傾向があるといった意見や、資金的に余裕のない事業者においては情報セキュリティ対策にまで手が回っていないのではないかといった意見があった。

その一方で、警察庁が実施した意識調査では、情報漏えい事案の防止について、77.3%がコンピュータの廃棄に当たってデータを確実に消去している、78.1%がアクセス権を設定していると回答するなど対策が進展している企業もみられた。これは、当該事案が発生すると企業のイメージダウンにつながるため、経営者層の関心が高いことが一つの要因であると考えられ、経営者層の理解や費用負担の軽減が進んだ際には、情報セキュリティ対策を行う企業がさらに増加するものと予測される。

注1:全国の企業、教育機関、医療機関、行政機関から、特定の業種、地域に偏りのないよう無作為に抽出した3,000件に対し、警察庁において作成した質問票を送付し回答を求める方法で実施(送付した3,000件のうち、回答のあった841件について分析)。当該意識調査は平成12年から毎年実施している。

注2:平成22年10月から12月にかけて、セキュリティ関連事業者、コンテンツ事業者、電気通信事業者等の20社及び1団体を対象に実施

注3:IT 産業の競争力強化に加え、IT の戦略的活用による経済・産業・社会の再生に向けた政策を適切に進めていく上で、情報処理の実態や影響等を正確に把握・分析するために昭和44年から実施している調査


第1節 サイバー犯罪の現状

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