特集I:東日本大震災と警察活動

第2節 主な警察の活動

1 被災者の避難誘導及び救出救助等

(1)避難誘導

被災地の各県警察では、地震発生直後から、津波による被害が発生する危険性の高い地域の住民等を高台へ避難させるなど、迅速な避難誘導を実施した。その過程では、多くの警察官が殉職した。

事例〔1〕

JR 常磐線に乗車中に被災した福島県相馬警察署の新人警察官2人は、直ちに乗客の負傷の有無を確認して乗務員に報告するとともに、津波警報(大津波)が発表されたことを認知したため、先頭と最後尾に分かれて乗客約40人を高台の町役場へと誘導し始めた。最後尾にいた警察官が、すさまじい音に気付いて後ろを振り向くと、濁流が車両や住宅等を押し流しながら数百メートル後方にまで迫ってきていたため、当該警察官は、偶然通りかかった軽トラックを停車させ、足を痛め最後尾を歩いていた女性を助手席に乗車させるとともに、自らは軽トラックの荷台に乗り込み、難を逃れた。列車は、津波に飲み込まれて脱線転覆したが、乗客らは全員無事であった。

“くの字”に折れ曲がったJR 常磐線の列車車両

“くの字”に折れ曲がったJR 常磐線の列車車両

事例〔2〕

保育所へ長男を迎えに行くために海岸沿いの道路を車両で通行していた女性は、宮城県仙台市内の交差点で警棒を回しながら「内陸に行け」と大声を張り上げる宮城県仙台南警察署荒井交番の警察官の姿を見た。この女性は、誘導に従い、内陸側に右折したところ、背後に津波が迫ってきたため、急いで車両を乗り捨てて避難し、一命を取りとめることができた。後にこの警察官が殉職したことを知った女性は、無事であった長男ら家族と共に荒井交番に弔問に訪れ、「助けていただいた命なので、悔いのない生活を送っていきたい」と涙をこぼした。

宮城県仙台市若林区荒浜地区の被災状況

宮城県仙台市若林区荒浜地区の被災状況

事例〔3〕

津波警報(大津波)の発表に伴い、沿岸部住民等の避難誘導を実施していた青森県八戸警察署の警察官は、青森県八戸市内の新井田川の河口付近で川底が見えるくらいまで水が引いている状況を確認した。この警察官は、先人からの言い伝えを思い出し、「大規模な津波が押し寄せてくる」との危機感を抱き、懸命に高台に向かうよう呼び掛け、約150人の住民等を無事避難させた。

青森県八戸市内の道路に押し寄せる津波

青森県八戸市内の道路に押し寄せる津波

(2)救出救助及び捜索

全国から派遣された広域緊急援助隊や機動隊が、被災地の県警察と一体となって被災者の救出救助や行方不明者の捜索を実施した。これらの活動に当たっては、災害救助犬やエンジンカッター等の装備資機材を活用するとともに、津波により地上から接近できない現場が多かったことから、警察用航空機(ヘリコプター)に機動隊員が同乗し、被災者を吊り上げて救出した。この結果、警察は、約3,750人の被災者を救出救助した。

広域緊急援助隊による捜索(写真1)

広域緊急援助隊による捜索(写真1)

広域緊急援助隊による捜索(写真2)

広域緊急援助隊による捜索(写真2)

事例〔1〕

平成23年3月20日午後4時5分頃、宮城県石巻警察署の警察官4人は、宮城県石巻市内において捜索活動を実施していたところ、倒壊家屋から助けを求める少年を発見した。少年が、倒壊家屋の中に祖母がまだいると申し立てたことから、警察官1人が家屋に入って探索したところ、倒れたクローゼットの上で高齢の女性を発見したため、消防と共同で救出し、2人を鹿児島県警察のヘリコプターで病院に搬送した。被災から9日ぶりの救出であった。

宮城県石巻市における救出

宮城県石巻市における救出

事例〔2〕

23年3月12日、警視庁の広域緊急援助隊は、宮城県仙台市若林区荒浜地区において捜索活動をしていたところ、津波により孤立した集落を発見した。現場は、海から離れていたものの水浸しの状態で足場も悪く、救助活動は困難を極めたが、各隊員が数珠つなぎとなって孤立集落から被災者を順次救助した。

宮城県仙台市若林区荒浜地区における救助

宮城県仙台市若林区荒浜地区における救助

事例〔3〕

23年3月11日、宮城県警察のヘリコプターに同乗した機動隊員は、宮城県名取市内にある閖上(ゆりあげ)大橋から女性1人を、付近の歩道橋から生後5か月の乳児と母親を含む5人をそれぞれ吊り上げて救出した。女性1人は、津波により負傷し、救急車で搬送されている途中に橋の上で孤立していた状況であり、隊員らは、河口から更なる津波が迫りくる中、この女性を救出した。また、歩道橋からの救出は、日没直後で薄暗い上、近隣で火災が発生しているという極めて困難な状況の下で行われた。

ヘリコプターによる救出

ヘリコプターによる救出

事例〔4〕

23年3月16日、栃木県警察の広域緊急援助隊は、宮城県多賀城市内において捜索活動を実施した。現場は、何十台もの車両等が津波に押し流されて積み重なっており、がれきの山となっていた。余震が続き、気温は摂氏零度という厳しい環境の中での捜索であったが、強い使命感の下、懸命な捜索活動を展開し、1体の遺体を発見した。

宮城県多賀城市における捜索

宮城県多賀城市における捜索

捜索の結果、発見した遺体に手を合わせる隊員

捜索の結果、発見した遺体に手を合わせる隊員

事例〔5〕

北海道警察の災害救助犬「アジール号」は、突然の派遣に落ち着かない様子であったが、現地入りしてからは持ち前の集中力を発揮し、ハンドラーの指示に的確に反応して任務を遂行した。このときの捜索では、被災者の発見、救出には至らなかったが、時には家屋の廃材の中に入り、鼻や足を傷つけながら懸命に捜索を行った。

災害救助犬による捜索

災害救助犬による捜索

(3)検視、身元確認等

<1> 検視、身元確認等の実施

犠牲者の遺体は、警察において検視等を行い、身元を確認した上で遺族に引き渡すこととしたが、大規模災害時には、被害規模を正確に把握する上でも、警察による検視、身元確認等の活動は非常に重要となる。特に多くの遺体が収容された岩手県、宮城県及び福島県には、全国の都道府県警察から1日当たり最大497人の広域緊急援助隊(刑事部隊)が派遣され、医師や歯科医師の協力を得て、遺体の検視、身元確認等を行った。

これらの活動は、断水や停電等の厳しい条件の中においても、遺体の全身に付いた泥をわずかな水で丁寧に洗い落とすなど、細心の注意を払いながら行われた。

検視等に従事する広域緊急援助隊(刑事部隊)

検視等に従事する広域緊急援助隊(刑事部隊)

表―1 検視、身元確認等の実施状況(平成23年6月20日現在)

<2> 身元確認のための様々な取組

遺体の身元を明らかにするためには、その所持品や発見場所から氏名や住所を特定することや、遺族等の対面による遺体確認等が必要となるが、今回の震災に伴い収容された遺体は、津波に飲み込まれて居住地等から相当離れた場所で発見されたり、所持品等が失われたりしているケースや、家族全員が罹(り)災し、遺体確認が困難とみられるケースも多く、身元確認が難航した。

このため警察では、

・遺体安置所に遺体の写真やその着衣、性別、身体特徴等の情報を掲示し、県警察のウェブサイトにもこれらの情報を掲載する

・事後の身元確認に備え、検視等に際して遺体の指紋、掌紋及びDNA 型鑑定資料の採取や歯牙形状の記録を徹底する

・行方不明者の家族から、DNA 型の親子鑑定的手法の活用を図るための資料を採取するほか、日本赤十字社の協力により、行方不明者の献血した血液検体の提供を受ける

など様々な取組を行い、一人でも多くの身元が確認できるよう努めている。

遺体の氏名等を掲載している県警察のウェブサイト

遺体の氏名等を掲載している県警察のウェブサイト


第2節 主な警察の活動

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