第5章 公安委員会制度と警察活動の支え 

4 警察における被害者支援

(1)基本施策
 被害者及びその遺族又は家族は、犯罪によって直接、身体的、精神的又は経済的な被害を受けるだけでなく、様々な二次的被害を受ける場合がある。そこで、警察では、次のとおり、様々な側面から被害者支援の充実を図っている。また、各都道府県警察において、捜査員以外の職員が、被害者への付添い、刑事手続の説明等、事件発生直後に被害者支援を行う指定被害者支援要員制度(注)が導入されている。

注:平成21年末現在の要員総数3万1,089人

 
図5-26 被害者支援に係る基本施策
図5-26 被害者支援に係る基本施策

(2)被害者支援連絡協議会
 被害者が支援を必要とする事柄は、生活、医療、公判等多岐にわたるため、警察のほか、検察庁、弁護士会、医師会、臨床心理士会、地方公共団体の担当部局や相談機関等から成る「被害者支援連絡協議会」が、全都道府県で設立されている。このほか、警察署の管轄区域等を単位とした被害者支援のための連携の枠組みが各地に構築され、よりきめ細かな被害者支援が行われている。

コラム4 社会全体で被害者を支え、被害者も加害者も出さない街づくりの機運の醸成

 現在の社会においては、犯罪被害者等の実情に対する国民の理解や社会全体で犯罪被害者等を支える機運が、いまだ十分ではない。そのため、犯罪被害者等を直接対象とした支援だけではなく、犯罪被害者等を支える機運を社会全体において醸成するための広報啓発活動が求められている。そこで、関係機関・団体が連携の上、全国で、
・ 中高生を対象にした「命の大切さを学ぶ教室」
・ 大学生を対象にした被害者支援に関する講義
・ 被害者支援フォーラム
等の広報啓発活動を実施し、こうした活動の中で犯罪被害者等による講演等も取り入れるなどすることにより、犯罪被害者等の実態、命の大切さ等についての理解を深めることで、社会全体で犯罪被害者等を支え、被害者も加害者も出さない街づくりを進めている。

(3)民間の被害者支援団体との連携
 全国被害者支援ネットワークに加盟する民間の被害者支援団体は、平成22年4月1日現在、全都道府県に存在している。これらの団体は、電話又は面接による相談、裁判所へ赴く際の付添い等の直接支援、相談員の養成及び研修、自助グループ(遺族の会等)への支援、広報啓発等を行っており、警察では、団体の設立・運営を支援している。また、都道府県公安委員会は、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律に基づき、犯罪被害等の早期の軽減に資する事業を適切かつ確実に実施できる団体を犯罪被害者等早期援助団体として指定しており、同日現在、全国で30団体が指定されている。

(4)犯罪被害給付制度
 犯罪被害給付制度は、通り魔殺人等の故意の犯罪行為により不慮の死亡、重傷病又は障害という重大な被害を受けたにもかかわらず、公的救済や損害賠償を得られない被害者等に対し、国が一定の給付金を支給するものである。この制度は、昭和56年1月の施行以来、犯罪被害等の早期の軽減に重要な役割を果たしている。
 
図5-27 犯罪被害者等給付金
図5-27 犯罪被害者等給付金
 
表5-9 犯罪被害給付制度の運用状況の推移
表5-9 犯罪被害給付制度の運用状況の推移
Excel形式のファイルはこちら

コラム5 オウム真理教犯罪被害者救済法の施行状況

 オウム真理教犯罪被害者等を救済するための給付金の支給に関する法律は、平成20年12月から施行され、地下鉄サリン事件等のオウム真理教による犯罪行為により死亡した者の遺族、障害が残った者等に給付金が支給されている。施行後約1年が経過した21年12月14日現在、警察において把握している被害者等約6,600人のうち、96.3%に対しこの制度について教示し、79.7%から申請を受け付け、申請済みの被害者等の87.9%に対して総額約22億円の給付金を支給している。

(5)被害者の特性に応じた施策
 犯罪類型等によって犯罪被害者には異なった特性があることから、警察では、性犯罪の被害者、交通事故事件の被害者、配偶者からの暴力事案の被害者(第1章第3節2参照)、ストーカー事案の被害者(第1章第3節2参照)、いじめ等の少年の被害者(第1章第3節1参照)、暴力団犯罪被害者(第2章第1節4参照)等について、被害者の特性に応じた施策を推進している。
 
図5-28 被害者の特性に応じた施策の例
図5-28 被害者の特性に応じた施策の例

コラム6 性犯罪被害者対応拠点モデル事業

 被害を受けた直後の性犯罪被害者から警察へ被害の届出がなされた場合、警察での簡単な事情聴取、病院への搬送・証拠採取、再び警察署へ戻っての詳細な事情聴取等と何度も移動が必要となることが多く、また、被害者がカウンセリング等の支援を必要とするときは、民間の被害者支援団体や地方公共団体の関係機関等にも行く必要がある。その際、被害者は、被害時の説明を繰り返さなければならない、性犯罪被害者への対応に習熟していない医療従事者等の言動により傷つくことがあるなど、精神的な負担が非常に大きい。さらに、これらの負担を懸念して被害申告をためらう性犯罪被害者も多く存在するとみられる。
 そこで、性犯罪被害者の二次被害防止及び捜査の的確な推進のため、病院内の一部のスペースを借り上げ、民間の被害者支援団体等の支援員が常駐し、必要に応じて警察職員や性犯罪被害者への対応要領を習得した医療・臨床心理・法律の専門家等が参集し、性犯罪被害者に対する治療、カウンセリング、付添い、法律相談等の各種支援を行うとともに、被害届の受理、迅速な事情聴取、証拠資料の採取等の捜査を一つの場所で一度に行う「性犯罪被害者対応拠点」を設置するモデル事業を、全国から1都道府県を選定し、平成22年度に実施することとしている。
 
コラム6 性犯罪被害者対応拠点モデル事業

 第3節 国民の信頼にこたえる警察

前の項目に戻る     次の項目に進む