第4章 公安の維持と災害対策 

第2節 外事情勢と諸対策

1 対日有害活動の動向と対策

(1)北朝鮮による対日諸工作

〔1〕 我が国に対する抗議活動
 北朝鮮は、2009年(平成21年)4月、我が国や米国を始めとする国際社会の反対を無視して、人工衛星の打ち上げと称してミサイルの発射を強行した。さらに、5月には核実験を実施し、これを受けて、国際連合安全保障理事会が北朝鮮によるすべての武器の輸出の禁止等を内容とする新たな決議を採択するなど、北朝鮮に対する措置が強化された。
 また、日本政府は、2006年(18年)7月の北朝鮮による弾道ミサイル発射等を受けて発動し、現在も継続している万景峰92号の入港禁止措置等の対北朝鮮措置に、2009年(21年)6月、北朝鮮に向けたすべての品目の輸出を禁止することを含む新たな措置を追加した。

ア 日本政府による対北朝鮮措置に対する抗議
 北朝鮮や朝鮮総聯(れん)(注1)は、日本政府による対北朝鮮措置を、「朝鮮総聯や在日朝鮮人等に対する政治弾圧」ととらえて、各種メディアを通じて激しい抗議を繰り返している。
 2009年(21年)6月、北朝鮮は、「6月18日から、対朝鮮追加制裁措置の一環として、総聯各級機関の在日同胞、親朝鮮団体が我が国に送る郵便物をすべて遮断するという妄動を働いている」などと非難した。
 一方、朝鮮総聯は、「日本政府の制裁措置は看過できない重大な人権蹂躙(じゅうりん)」、「北朝鮮に対する日本独自の制裁は、朝日平壌宣言に明らかに反するもの」などと、激しく抗議している。

イ 国連安保理決議の採択に対する抗議
 北朝鮮の核実験に関し、国際連合安全保障理事会決議が採択されたことについて、北朝鮮は、同決議を糾弾する集会を平壌等で開催し、我が国等に対し、「万端の戦闘準備を強固に整え、敵が無謀に襲いかかってくるなら、無慈悲な報復によって懲罰しなければならない」と挑発した。

注1:正式名称を在日本朝鮮人総聯合会という。

 
国際連合安全保障理事会決議に対する糾弾集会(時事)
国際連合安全保障理事会決議に対する糾弾集会(時事)

〔2〕 各界関係者に対する働き掛け等
 2009年(21年)12月14日に北朝鮮「帰還事業」(注2)50周年を迎え、北朝鮮は、「祖国の富強と繁栄に積極的に寄与することは聖なる愛国事業である。総聯活動家と在日同胞らは、現情勢の要求に合致するよう一つに固く団結し、日本当局の反共和国「制裁」騒動と総聯弾圧策動を断固粉砕し、総聯の合法的地位を守るための闘争を活発に展開していくべきである」などと主張した。
 また、朝鮮総聯は、我が国の各界関係者や北朝鮮の主張に同調する日本人等に対し、北朝鮮や朝鮮総聯の各種慶祝行事への出席を働き掛けるなど、北朝鮮に対する理解と朝鮮総聯の活動に対する支援を求める諸工作を展開している。
 警察では、北朝鮮や朝鮮総聯による諸工作に関する情報収集・分析に努めるとともに、違法行為に対して厳正な取締りを行うこととしている。
 また、警察では、税関等の関係機関との連携を一層緊密化し、対北朝鮮措置に関係する違法行為に対する徹底した取締りに努めている。21年中には、奢侈品に該当するピアノや乗用車等を中国を経由させて北朝鮮に不正に輸出した外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)違反事件や、次のような事件を検挙している。

注2:日本政府は、1959年(昭和34年)2月13日の閣議で、「在日朝鮮人の北朝鮮帰還問題は、基本的人権に基づく居住地選択の自由という国際通念によって処理されるべきである」との原則を確認し、日本赤十字社が北朝鮮赤十字会と交渉を行い、両者の間で在日朝鮮人の北朝鮮帰還協定が署名された。同協定に基づき、同年12月14日以降、北朝鮮への帰還を望む者の北朝鮮への帰還が実施に移された。

 
北朝鮮に不正輸出された奢侈品であるピアノ(再現)
北朝鮮に不正輸出された奢侈品であるピアノ(再現)

事例
 貿易業経営者(62)は、同社社員(73)と共謀の上、18年11月15日から北朝鮮を仕向地とした奢侈品の輸出禁止措置がとられていたにもかかわらず、20年10月、奢侈品に該当する化粧品(総額約16万円相当)を含む貨物を経済産業大臣の承認を受けないまま、中国の大連を経由して北朝鮮に輸出した。また、21年6月18日から北朝鮮を仕向地としたすべての貨物の輸出禁止措置がとられていたにもかかわらず、同年8月、衣料品等(総額約590万円相当)の貨物を経済産業大臣の承認を受けないまま、中国の大連を経由して北朝鮮に輸出した。同年12月、経営者ら2人を外為法違反(無承認輸出)で逮捕した(兵庫)。

コラム1 韓国哨戒艦が北朝鮮の魚雷攻撃により沈没

 22年3月26日、韓国北西部沖の黄海上を航行中の韓国海軍哨戒艦「天安(チョナン)」が、北朝鮮の魚雷攻撃により沈没する事案が発生した。これを受けて、韓国政府は、国際社会と共に北朝鮮の責任を問う旨を表明し、日本政府は、新たな対北朝鮮措置を追加するとともに、第三国を経由した迂回輸出入等を防ぐため、更に厳格な対応を行うこととした。

(2)中国による対日諸工作
 2009年(平成21年)は、建国60周年を迎えた中国が、国内外に向け、30年余の改革開放路線の成果を誇示し、中国共産党による統治の正統性を強調した一年であった。
 中国は、国内では、農民や労働者を対象とした負担軽減策で融和を図る一方で、思想宣伝、言論統制及び活動家拘束を中心とした治安維持対策を強化することにより、中国共産党の統治を脅かす諸問題に対応している。国際社会においては、世界的な金融危機からいち早く脱却して、その政治的・経済的な発言力を強め、国際的影響力を強めている。
 こうした中、同年7月、新疆(シンキョウ)ウイグル自治区のウルムチ市で大規模な暴動が2度発生し、多数の死傷者が出た。中国は、その直後から、世界ウイグル会議のラビア・カーディル議長を首謀者として名指しした上で、これらの暴動を海外の「3つの勢力」(「テロリズム」、「分離主義」、「過激主義」を指す。)が扇動し、国内の敵対勢力が呼応した事件と位置付けた。
 また、中国は、同年1月、「2008年中国の国防」を公表し、軍の機械化及び情報化で重大な進展を図る方針を示すとともに、同年10月、北京の天安門広場で行われた大規模な軍事パレードでは、すべて国産とされる最新鋭の大陸間弾道ミサイルや戦闘機等を公開したほか、胡錦濤(コキントウ)国家主席が「新中国60年の発展と進歩は、社会主義だけが中国を救い、改革開放だけが中国を発展させることを証明した」と演説するなど、装備の近代化等を誇示した。
 中国は、これらの政策・方針の下、外国の企業や研究機関が保有する先端科学技術の獲得、移転を図っており、我が国にも、先端科学技術保有企業、防衛関連企業、研究機関等に研究者、技術者、留学生等を派遣するなどして、長期間にわたって、巧妙かつ多様な手段で情報収集活動を行っている。
 警察では、我が国の国益が損なわれることのないよう、こうした諸工作に関する情報収集・分析に努めるとともに、違法行為に対して厳正な取締りを行うこととしている。
 最近では、19年3月、愛知県警察において、自動車部品メーカーに勤務する中国人技術者を、大量の電子設計図データを不正に持ち出したとして、横領罪で逮捕した。
 
建国60周年に行われた軍事パレード(共同)
建国60周年に行われた軍事パレード(共同)

(3)ロシアによる対日諸工作
 メドヴェージェフ大統領は、2009年(平成21年)11月、年次教書演説の中で、「我々は、すべての生産分野の近代化と技術的刷新を開始すべきである。私は、これは現代世界で我が国が生き残れるかどうかを決する問題だと確信している」などと述べ、最新技術の重要性を訴えた。
 また、同大統領は、同年12月、「ロシア国家保安機関員の日」の祝賀会において、「国家は、近年、情報機関の強化に向けた様々な取組みを行っており、装備品や技術関係の充実のほか、機動力や分析力の向上に努めている」、「特に強調したい点は、経済近代化であり、特に求められるものは、テクノロジーの保護、航空機産業、宇宙分野、他のハイテク分野等における発展である」などと述べ、情報機関は国益に関し重要な役割を担っていることを強調した。
 ロシアは、今後、これらの分野における国家的関与をより一層強め、技術開発や欧米等からの技術導入に力を注ぐものと考えられる。
 こうした情勢の中、ロシア情報機関員は、我が国に在日ロシア連邦大使館員や通商代表部員等の身分で入国し、違法な情報収集活動を繰り返し行っており、17年、18年及び20年と違法行為の摘発が続いている。
 警察では、我が国の国益が損なわれることのないよう、こうした諸工作に関する情報収集・分析に努めるとともに、違法行為に対して厳正な取締りを行うこととしている。
 
図4-8 最近のスパイ事件
図4-8 最近のスパイ事件

 第2節 外事情勢と諸対策

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