第1章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

2 ち密かつ適正な捜査の徹底と司法制度改革への対応

(1)ち密かつ適正な捜査の徹底

〔1〕 取調べの適正化
 国家公安委員会では、平成19年11月、警察捜査における取調べの一層の適正化を推進するため、「警察捜査における取調べの適正化について」を決定した。この決定を受け、警察庁では、20年1月、警察が当面取り組むべき施策として「警察捜査における取調べ適正化指針」(以下「適正化指針」という。)を取りまとめた。警察では、これに基づく各種施策を推進している。

ア 被疑者取調べ監督制度の実施
 21年4月1日、適正化指針に基づき、被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則が施行され、被疑者取調べの監督が開始された。また、同日から、警察庁長官官房総務課に取調べ監督指導室を、警視庁及び道府県警察本部の総務又は警務部門に被疑者取調べの監督業務を担当する所属を設置するなど所要の体制整備を行い、適切な制度運用を図っている。
 被疑者取調べ監督制度は、都道府県警察において、犯罪捜査に従事しない総務又は警務部門の警察官の中から指名された取調べ監督官等が、取調べ室の外部からの視認、取調べ状況報告書の閲覧その他の方法により被疑者取調べの状況を確認するものであり、取調べに係る不適正行為を防止する上で効果を上げている。
 
取調べ室の外部からの視認状況
取調べ室の外部からの視認状況

イ 施設整備及び教育訓練の実施
 取調べ状況の把握を容易にするため、取調べ室の設置基準を明確化し、透視鏡を設置したり、机を床面に固定したりするなどの施設整備を推進している。
 また、警察庁では、適正捜査に関する教育訓練の充実を図る一環として、「取調べ専科」を新設し、21年10月、取調べに特化した教育訓練を警察大学校において実施した。本専科は、適正化指針に基づき、警視庁及び道府県警察本部において刑事指導業務を担当する警部等を対象として、一連の施策を着実に推進するために実施されたものであり、主な講師として、部内講師のほか、裁判官、検察官、弁護士、大学教授等の部外講師を積極的に招へいし、取調べの適正化についての見識の醸成、取調べ等に関する具体的手法の習得等が図られた。
 
図1-34 適正な取調べを担保するための施設整備
図1-34 適正な取調べを担保するための施設整備

〔2〕 足利事件における警察捜査の問題点等の検証
 2年5月に栃木県足利市内において発生した幼女誘拐殺人死体遺棄事件(以下「足利事件」という。)について、21年6月、無期懲役の刑に服していた男性の刑の執行が停止され、同男性は釈放された。22年3月、再審公判において同男性に無罪判決が言い渡された。
 足利事件において、警察の捜査によって犯人ではない同男性を逮捕し、虚偽自白に追い込み、同男性が17年半もの長きにわたり受刑者等の立場に置かれ苦しまれたことは、あってはならない事態であり、極めて遺憾である。
 警察庁においては、21年6月、検討チームを設置し、栃木県警察等と連携の上、捜査記録、公判記録等の精査、当時の捜査関係者からの聴取、有識者からの意見聴取を行うなどして、当時の捜査上の問題点等について検討を行った。その結果、DNA型鑑定結果の過大評価、取調べにおける迎合の可能性に対する留意の欠如、捜査主任官の機能の欠如、自白の信用性の吟味の不徹底、鑑定に際して得られたデータ等の保管の不徹底といった問題点等が認められたことから、これらを踏まえ、22年4月、「足利事件における警察捜査の問題点等について」を取りまとめ、虚偽自白を生まない取調べの徹底、捜査指揮における供述のチェック機能の強化、より客観的証拠に依拠した捜査力の向上、鑑定記録・鑑定資料の適切な取扱いの徹底等のための各種施策を推進することにより、同種事案の絶無を期すこととしている。

(2)司法制度改革への対応

〔1〕 裁判員制度への対応
 平成21年5月、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律が全面施行され、裁判員制度が開始された。同制度では、一定の重大な事件の刑事裁判において、一般国民の中から選任された裁判員が、裁判官と共に、被告人が有罪かどうか、有罪の場合にいかなる刑にするかの公判審理と評決を行う。
 警察では、法律の専門家ではない裁判員の的確な心証形成が可能となるよう、犯行を裏付ける客観的証拠の収集の徹底、裁判員が理解しやすいような簡略明瞭な捜査書類の作成、捜査の適正性の一層の確保等に努めている。
 
図1-35 裁判員制度の概要
図1-35 裁判員制度の概要

コラム5  取調べの録音・録画の試行

 警察では、裁判員裁判における自白の任意性の効果的・効率的な立証に資する方策について検討するため、20年9月から警視庁、埼玉県警察、千葉県警察、神奈川県警察及び大阪府警察において取調べの録音・録画の試行を開始し、21年4月からは、すべての都道府県警察に拡大して試行を実施している。取調べの録音・録画の試行は、21年12月末現在、352件実施されている。

〔2〕 被疑者に対する国選弁護人制度
 被疑者に対する国選弁護人制度は、被疑者の段階から弁護人の援助を受ける権利を担保するとともに、弁護人による早期の争点把握を可能にし、刑事裁判の充実・迅速化を図るもので、平成18年10月2日から実施されている。
 被疑者に対する国選弁護人制度の対象となる事件(注)の捜査を行うに当たっては、対象事件の被疑者に対する制度教示の徹底、裁判官及び弁護士会との取次業務を行う留置部門との連携について留意している。

注:本制度の対象となる事件については、制度開始当初は、死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件とされていたが、21年5月21日から、死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件に拡大されている。


 第2節 犯罪の検挙と抑止のための基盤整備

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