第1章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

4 構造的な不正事案

(1)政治・行政をめぐる不正事案
 地方公共団体の長や議員による贈収賄事件、競売入札妨害事件、買収等の公職選挙法違反事件等の政治・行政をめぐる不正が相次いで表面化している。
 警察では、不正の実態に応じて様々な刑罰法令を適用するなどして、事案の解明を進めている。
 第45回衆議院議員総選挙(平成21年8月30日施行)における選挙期日後90日現在(21年11月28日現在)の公職選挙法違反の検挙件数は295件、検挙人員は571人(うち逮捕者116人)と、前回の第44回衆議院議員総選挙期日後90日の時点に比べ、検挙件数は37件(14.3%)増加し、検挙人員は8人(1.4%)減少した。
 
図1-22 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数の推移(平成12~21年)
図1-22 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数の推移(平成12~21年)
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事例1
 元千葉市長(68)は、17年5月ころ及び同年11月ころの2回、土木建築業者から、同市が発注する土木工事の入札指名業者に同業者を選定するなど有利な取り計らいを受けたことに対する謝礼等の趣旨で、現金合計200万円を収受した。21年4月、同市長を収賄罪で逮捕した(警視庁)。

事例2
 当選候補者の選挙運動に関する出納責任者(42)らは、第45回衆議院議員総選挙の際、同候補者を当選させるため、21年8月ころから同年9月ころにかけて、選挙運動者9人に対し、同候補者が立候補していた小選挙区及び比例代表選挙区内の選挙人に同候補者の氏名、顔写真が印刷された選挙運動用文書を配布するなどの選挙運動をしたことの報酬として、現金合計約70万円を供与した。同年9月、同出納責任者ら3人を公職選挙法違反(買収罪)で逮捕した(熊本)。

(2)経済をめぐる不正事案
 最近の悪化した経済状況を背景として、金融機関からの各種融資をめぐる詐欺事犯、証券市場を舞台とした証券の発行や取引に関連した事犯のほか、役職員らによる不正等企業の内部統制の不備に起因する事犯が後を絶たない状況にある。また、投資名目で多数の国民が被害に遭う大型詐欺事犯、生活保護や年金等の社会保障制度を悪用した事犯や国の補助金等の不正受給事犯も相次いで発生している。
 そこで、警察では、金融・不良債権関連事犯、証券取引事犯、企業の経営等に係る違法事犯、その他国民の経済活動の健全性又は信頼性に重大な影響を及ぼすおそれのある犯罪の取締りを推進している。
 このような犯罪の捜査では、犯罪の背景、動機、実行行為等を明らかにするため、関係する企業等の財務実態の解明が不可欠であることから、都道府県警察では、公認会計士等の資格を有する者や民間企業での会計事務の経験者等を財務捜査官として採用しており、経済をめぐる不正事案に対し、その高度な技能を活用し、事案の解明を進めている。
 
図1-23 金融・不良債権関連事犯の検挙事件数の推移(平成12~21年)
図1-23 金融・不良債権関連事犯の検挙事件数の推移(平成12~21年)
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事例1
 不動産会社代表取締役(40)らは、大手都市銀行から運転資金借入名目で現金をだまし取ろうと企て、15年10月ころから18年12月ころにかけて、同銀行に対し、返済能力を有するように見せかけた内容虚偽の決算報告書等を提出するなどして信用させ、約5億5,000万円をだまし取った。21年9月までに、12人を詐欺罪等で逮捕した(警視庁)。

事例2
 光学機器関連メーカーの持ち株会社役員(53)らは、同社の株券について、財産上の利益を得る目的で、その株価の高値形成を図ろうと企て、19年4月ころ、株式会社東京証券取引所が開設する有価証券市場において仮装売買を行うなどして、同株券の株価を吊り上げ、その上昇させた株価により約1,000万株を売り付けた。また、20年2月ころ、同役員らは、同社の株価を上昇させた上で、発行予定の新株等を売却しようと企て、増資が行われたとする虚偽の事実を公表した。22年1月までに、14人を証券取引法違反(相場操縦)、金融商品取引法違反(偽計)等で逮捕した(大阪)。

事例3
 元総合病院理事長(51)らは、県社会保険診療報酬支払基金から診療報酬名目で現金をだまし取ろうと企て、17年1月ころから19年5月ころにかけて、入院中の生活保護受給者数名に心臓カテーテル手術を施したとする内容虚偽の診療報酬請求書等を作成して同基金に提出するなどして、県社会保険診療報酬請求書審査委員らを信用させて診療報酬の支払いを決定させ、約840万円をだまし取った。21年7月、3人を詐欺罪で逮捕した(奈良)。

 第1節 犯罪情勢とその対策

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