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トピックスII 警察捜査における取調べをめぐる諸施策

 警察では、取調べをめぐる諸施策を着実に実施し、警察捜査に対する国民の信頼を確かなものとするよう全力を尽くしていきます。

 一連の司法制度改革により、刑事裁判の充実・迅速化等を図るための方策として、公判前整理手続、即決裁判手続及び被疑者に対する国選弁護人制度等の各制度が順次導入され、平成21年5月21日には裁判員の参加する刑事裁判に関する法律が全面施行されました。同法に基づく裁判員制度の下では、一般国民から選ばれる裁判員が刑事裁判に参加し、裁判官と共に被告人が有罪かどうか、有罪の場合にどのような刑にするかを決めることとなります。
 警察では、法律の専門家ではない裁判員の的確な心証形成が可能となるよう、犯行の裏付けとなる客観的証拠の収集の徹底、裁判員が理解しやすいような簡略明瞭な捜査書類の作成等の取組みを実施しているほか、次のような取調べをめぐる諸施策を推進しています。

(1)警察における取調べの録音・録画の試行
 警察では、裁判員裁判における自白の任意性の効果的・効率的な立証方策を検討するため、平成20年9月から警視庁、埼玉県警察、千葉県警察、神奈川県警察及び大阪府警察において取調べの録音・録画の試行を開始し、21年2月末までの半年間で、66件実施しました。
 この試行状況を警察庁において検証した結果、
  ・ 試行において録音・録画されたDVDについては、自白の任意性の効果的・効率的な立証方策となり得ると考えられる
  ・ 被疑者が、録音・録画を拒否する事例や供述内容・態度を変化させる事例が存在したことから、取調べの真相解明機能に影響を及ぼす場合があることが明らかとなったため、実施に当たっては、録音・録画の方法について十分に配慮すべきである
ことなどが分かりました。
 21年4月以降、すべての都道府県警察において、実施例を積み重ね、試行に係るDVDの公判における利用状況等を検証することなどによって、裁判員裁判における自白の任意性の効果的・効率的な立証に資するには、いかなる方策が有効であるかをより多角的に検討することとしています。
 
取調べの録音・録画の試行状況(イメージ)
トピックス 写真 取調べの録音・録画の試行状況(イメージ)

(2)取調べの適正化
 我が国の刑事手続において、被疑者の取調べは、事案の真相解明に極めて重要な役割を果たしています。しかし、昨今、その在り方が問われる深刻な無罪判決が相次ぎ、取調べを始めとする警察捜査に対する国民の信頼が大きく揺らぎました(注)

注:平成19年3月、15年に行われた鹿児島県議会議員選挙に関する公職選挙法違反事件の被告人に対する無罪判決が、19年10月、14年に富山県で発生した強姦及び同未遂事件の元被告人に対する再審無罪判決が、それぞれ確定しました。
  なお、21年6月には、2年に栃木県で発生した女児殺人事件につき、再審請求を受けた東京高等裁判所が実施したDNA型の再鑑定の結果を受けて、服役中の男性の刑の執行が停止され、釈放されました。この事件については、今後、警察において、捜査における問題点等について検討することとしています。


 また、裁判員制度の下では、警察捜査の結果が直接国民の視点から検証されることとなります。したがって、裁判員の心証形成に資するという観点からも、警察における捜査手続、とりわけ被疑者の取調べの在り方について、一層の適正性の確保が求められています。
 このような諸情勢を踏まえ、国家公安委員会は、警察捜査における取調べの一層の適正化を喫緊の課題と認め、平成19年11月、「警察捜査における取調べの適正化について」を決定しました。警察庁では、この決定に基づき、20年1月、警察が当面取り組むべき施策の柱を、取調べに対する監督の強化、取調べ時間の管理の厳格化、その他適正な取調べを担保するための措置及び捜査に携わる者の意識向上の4点とする「警察捜査における取調べ適正化指針」(以下「指針」といいます。)を取りまとめました。
 
図II-1 警察捜査における取調べ適正化指針の概要
トピックス 図II-1 警察捜査における取調べ適正化指針の概要

 指針の最大の眼目は、取調べに対する監督の強化、すなわち、捜査部門以外の部門による取調べに関する監督であり、被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則(以下「取調べ適正化規則」といいます。)の制定により制度化され、21年4月に施行されました。
 取調べ適正化規則に基づく被疑者取調べの監督は、不適正な取調べにつながるおそれがある行為である監督対象行為の有無を確認し、これを現に認めた場合には取調べを中止させるなどの措置をとることにより行い、不適正な取調べを未然に防止することを目的としています。
 警察では、警察庁長官官房総務課に取調べ監督指導室を、警視庁及び道府県警察本部の総務又は警務部門に取調べに関する監督を担当する所属を設置するなど所要の体制整備を行い、制度の適正な運用を図っています。
 
図II-2 警察署における取調べの監督業務の流れ
トピックス 図II-2 警察署における取調べの監督業務の流れ

 2 警察捜査における取調べをめぐる諸施策

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