第5節 対日有害活動の動向と対策
(1)北朝鮮による対日諸工作
〔1〕 六者会合に関連した批判活動
北朝鮮は、六者会合(注1)参加国である我が国が、拉致問題で進展がない限り、北朝鮮に対する経済・エネルギー支援を行わないとしていることに関し、「日本は六者会合の場にいるよりも、いっそのこと、いないほうがましな不便で面倒な存在となっている」などと批判活動を展開している。
〔2〕 日本政府がとる対北朝鮮措置に対する抗議
北朝鮮や朝鮮総聯(注2)は、日本政府が、2006年(平成18年)の北朝鮮による弾道ミサイル発射等を受けて発動し、現在も継続している万景峰92号の入港禁止措置等の対北朝鮮措置を、「朝鮮総聯や在日朝鮮人等に対する政治弾圧」ととらえて、各種メディアを通じて激しい抗議を繰り返している。
日本政府がとる対北朝鮮措置に対する抗議
〔3〕 朝鮮総聯関連施設等に係る事件捜査に対する抗議
北朝鮮や朝鮮総聯は、警察等が行った朝鮮総聯関連施設等に係る事件捜査に関し、「寝耳に水のとんでもない口実を突き付け、このようなファッショ暴挙を敢行した」、「対朝鮮敵視政策を強行して総聯弾圧策動を引き続き敢行している日本反動らの犯罪行為は、必ず清算されるであろう」などと激しく抗議している。
捜索に対する抗議
事例
朝鮮総聯傘下団体である在日本朝鮮東京都新宿商工会元幹部(54)は、同商工会幹部(33)と共謀の上、18年3月ころから20年3月ころにかけて、税理士ではなく、法律に別段の定めがある場合ではないのに、同商工会会員の求めに応じ、税務書類を作成して税理士業務を行った。同年11月に同元幹部を、同年12月に同幹部を、それぞれ税理士法違反(税理士業務の制限)で逮捕した(警視庁)。
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〔4〕 祝宴等を通じた各界関係者に対する働き掛け
朝鮮総聯は、北朝鮮の各種記念日をとらえた祝宴に、我が国の各界関係者や北朝鮮の主張に同調する日本人等を招待するとともに、その中で、「宴会参加者が、平壌宣言に従い、朝日関係を改善し、国交正常化を実現させ、在日同胞の人権と生活権、民族教育を始めとした諸般の権利を守るための我々の活動に惜しみない支援をしてくれることを確信する」(許宗萬責任副議長)などと挨拶し、北朝鮮や朝鮮総聯に対する理解を求めた。
警察では、北朝鮮や朝鮮総聯による諸工作に関する情報収集・分析に努めるとともに、違法行為に対して厳正な取締りを行うこととしている。
コラム 北朝鮮によるミサイル発射
21年4月5日、北朝鮮は、我が国を始めとする関係国の働き掛けにもかかわらず、「人工衛星」と称してミサイル発射を強行した。これを受けて、国際連合安全保障理事会は、北朝鮮を非難する議長声明を採択し、また、日本政府は、新たな内容を盛り込んだ対北朝鮮措置を実施した。
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(2)中国による対日諸工作
中国は、従来の素材産業中心の産業構造から、自主開発した高付加価値製品の製造・輸出産業中心の産業構造への転換を目指した政策を推進している。
また、2007年(平成19年)10月に開催された第17回中国共産党全国代表大会において胡錦濤総書記が行った政治報告の中で、軍隊の情報化及び武器装備の自主開発の方針が明確にされており、中国は、2008年(20年)9月、人民解放軍総装備部長の指揮の下、有人宇宙船「神舟7号」の打ち上げと中国初の船外活動を成功させたほか、自主開発による武器装備の配備を進めている。
中国は、これらの政策・方針の下、外国に研究者や技術者を積極的に派遣して先端科学技術の収集を図っており、我が国にも、先端科学技術保有企業、防衛関連企業、研究機関等に研究者、技術者、留学生等を派遣するなどして、長期間にわたって、巧妙かつ多様な手段で情報収集活動を行っている。
警察では、我が国の国益が損なわれることのないよう、こうした諸工作に関する情報収集・分析に努めるとともに、違法行為に対して厳正な取締りを行うこととしている。
「神舟7号」の打ち上げ(AFP=時事)
(3)ロシアによる対日諸工作
メドヴェージェフ大統領とプーチン首相は、2008年(平成20年)12月、「ロシア国家保安機関員の日」の祝賀会において、それぞれ、「国家の指導者は、機関員の勇敢さ、未来を予測する能力及び潜在的な脅威を暴き出す能力を常に高く評価している」、「対外情報庁(SVR)が提供する信頼性の高い情報は、軍事面や政治面での重要な決定をする場合において、常に重要な役割を果たしている」などと述べ、政策決定の過程における諜報活動の重要性を強調した。
ロシア情報機関員は、在日ロシア連邦大使館員や通商代表部員等の身分で入国し、違法な情報収集活動を繰り返し行っており、我が国においても、17年、18年及び20年と違法行為の摘発が続いている。
警察では、我が国の国益が損なわれることのないよう、こうした諸工作に関する情報収集・分析に努めるとともに、違法行為に対して厳正な取締りを行うこととしている。
メドヴェージェフ大統領とプーチン首相(AFP=時事)
(4)大量破壊兵器関連物資等の不正輸出
〔1〕 大量破壊兵器関連物資等の拡散についての国際的な取組み
2008年(平成20年)7月に開催された北海道洞爺湖サミットでは、大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散の危険を克服し、テロリストによる大量破壊兵器の取得を防止するためにあらゆる努力を行うことなどを内容とする首脳宣言が発表され、拡散に対する安全保障構想(PSI)(注)の重要性について確認された。
警察では、大量破壊兵器関連物資等の拡散が国際安全保障上の重大な関心事項となっていることを踏まえ、国際的な取組みにも積極的に参加しており、20年9月に実施されたニュージーランド主催のPSI海上阻止訓練には、警視庁及び大阪府警察のNBCテロ対応専門部隊が参加し、税関職員と共同で、コンテナ内で発見された大量破壊兵器関連物資に対する検査・特定等を行った。
PSI海上阻止訓練
〔2〕 不正輸出の取締り
警察では、我が国からの大量破壊兵器関連物資等の不正輸出に対する取締りを積極的に推進しており、20年中には、1件の不正輸出事件を検挙した。
また、これまで検挙した事件において、第三国を経由した迂回輸出の実態が確認されるなど、不正輸出の手口が更に悪質・巧妙化していくことが懸念されるところ、警察では、国内外の諸情勢を的確に把握・分析し、関係機関との活発な情報交換を通じた連携強化を図ることにより、大量破壊兵器関連物資等の不正輸出の取締りを強化していくこととしている。
事例
東京都内の貿易商社代表取締役(66)は、15年7月、大量破壊兵器の開発等に用いられるおそれがあるものとしてその輸出が規制されている真空ポンプ等を、経済産業大臣の許可を受けることなく、台湾経由で北朝鮮向けに輸出した。20年7月、外国為替及び外国貿易法違反(無許可輸出)で検挙した(神奈川)。
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