第4章 公安の維持と災害対策 

第4章 公安の維持と災害対策

第1節 国際テロ情勢

(1)イスラム過激派等
 2008年(平成20年)中には、インド・ムンバイにおける連続テロ事件により、邦人1人を含む約160人が死亡するなど、表4-1のとおり、世界各地でテロ事件が相次いで発生した。
 2001年(13年)9月の米国における同時多発テロ事件以降、世界各国でテロ対策が強化されているにもかかわらず、イスラム過激派によるテロの脅威は依然として高い状況にある。中でも、「アル・カーイダ」は、米国に対するジハード(聖戦)の象徴的存在として、世界のイスラム過激派を惹き付けている。また、「アル・カーイダ」を始めとするイスラム過激派は、過激思想を介して緩やかなネットワークを形成しているとみられる。過激派組織及びその支援者は、インターネット等を効果的に活用して、過激思想を広めるとともに、構成員を勧誘するなどしているとみられる。これらの影響を受け、最近では、「アル・カーイダ」の中核(指導部)と直接の関係を有しない組織等がテロの敢行を企図する傾向が世界各地でみられる。特に、テロと何のかかわりもなかった個人が、インターネット等を通じて過激化してテロを引き起こす現象の危険性が各国で認識されている。
 
インド・ムンバイにおける連続テロ事件(AFP=時事)
写真 インド・ムンバイにおける連続テロ事件(AFP=時事)
 
表4-1 2008年(平成20年)に発生した主な国際テロ事件等
表4-1 2008年(平成20年)に発生した主な国際テロ事件等

(2)我が国に対するテロの脅威
 我が国は「アル・カーイダ」からテロの標的として名指しされ、過去に「アル・カーイダ」の関係者が不法に入出国していたことが確認されるなどしており、我が国は、国内における大規模・無差別テロ、海外における我が国の権益や邦人に対するテロの脅威に直面している。
 
図4-1 我が国に対するテロの脅威
図4-1 我が国に対するテロの脅威

(3)日本赤軍と「よど号」グループ
〔1〕 日本赤軍
 日本赤軍は、最高幹部の重信房子がハーグ事件(注1)等により起訴され公判中(注2)の平成13年4月に日本赤軍の「解散」を宣言したのを受け、同年5月、組織としても「解散」の決定を表明したが、その後も別名称を使用して活動を継続しており、テロ組織としての危険性に変化はない。
 警察では、国内外の関係機関との連携を強化し、国際手配中の7人の構成員の検挙及び組織の活動実態の解明に向けた取組みを推進している。

注1:1974年(昭和49年)9月、奥平純三ら3人が、オランダ・ハーグ所在のフランス大使館を占拠し、大使ら11人を人質として監禁した事件
 2:平成18年2月、東京地方裁判所で懲役20年の判決を受け、同年3月、弁護側、検察側双方が東京高等裁判所に控訴していたが、19年12月、これらが棄却されたため、20年1月、弁護側が最高裁判所に上告した。

 
国際手配中の日本赤軍と「よど号」グループ
写真 国際手配中の日本赤軍と「よど号」グループ

〔2〕 「よど号」グループ
 1970年(昭和45年)3月31日、田宮高麿ら9人が、東京発福岡行き日本航空351便、通称「よど号」をハイジャックし、北朝鮮に入境した。現在、ハイジャックに関与した被疑者5人及びその妻3人が北朝鮮にとどまっているとみられており(注3)、このうち3人に対し、日本人を拉致した容疑で逮捕状が発せられている。
 また、「よど号」犯人の妻らについては、これまでに帰国した5人を旅券法違反(返納命令)等で逮捕し、いずれも有罪が確定している。その子女については、これまでに20人全員が帰国している。
 警察では、「よど号」犯人らを国際手配し、外務省を通じて北朝鮮に対して身柄の引渡し要求を行うとともに、「よど号」グループの活動実態の全容解明に努めている。

注3:ハイジャックに関与した被疑者1人及びその妻1人は死亡したとされているが、真偽は確認できていない。


(4)北朝鮮
〔1〕 北朝鮮による拉致容疑事案
 警察では、平成21年6月1日現在、日本人が被害者である拉致容疑事案12件(被害者17人)及び朝鮮籍の姉弟が日本国内から拉致された事案1件(被害者2人)の合計13件(被害者19人)を北朝鮮による拉致容疑事案と判断し、拉致の実行犯として8件に係る11人について、逮捕状の発付を得て国際手配を行っている。
 
表4-2 日本人が被害者である拉致容疑事案(12件17人)
表4-2 日本人が被害者である拉致容疑事案(12件17人)
 
表4-3 日本人以外が被害者である拉致容疑事案(1件2人)
表4-3 日本人以外が被害者である拉致容疑事案(1件2名)

 また、警察では、これらの事案以外にも、「北朝鮮による拉致ではないか」とする告訴・告発や相談・届出を受理し、関係機関との連携の強化を図りつつ、所要の捜査や調査を進めている。
 なお、北朝鮮は、2008年(20年)8月の日朝実務者協議において拉致問題の調査の具体的態様等について合意したにもかかわらず、我が国の首相の交代を理由に調査を先送りしている。
 
図4-2 国際手配被疑者(拉致容疑事案関係)
図4-2 国際手配被疑者(拉致容疑事案関係)

〔2〕 北朝鮮による主なテロ事件
 北朝鮮は、朝鮮戦争以降、南北軍事境界線を挟んで韓国と軍事的に対峙しており、これまで、韓国に対するテロ活動の一環として、工作員等によるテロ事件を世界各地で引き起こしている。
 中でも、1987年(昭和62年)に発生した大韓航空機爆破事件は、日本人を装った工作員により敢行された。
 
図4-3 北朝鮮による主なテロ事件
図4-3 北朝鮮による主なテロ事件

 第1節 国際テロ情勢

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