第4節 犯罪収益対策
1 犯罪収益移転防止法に基づく活動
暴力団等の犯罪組織が蓄えた犯罪収益は、新たな犯罪のための「運転資金」や武器の調達等のための費用等に充てられ、犯罪組織を維持・強化するとともに、組織的な犯罪を助長していることから、犯罪組織を弱体化させ、壊滅に追い込むために、犯罪収益の移転を防止するとともに、これを確実にはく奪することが重要である。警察では、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯罪収益移転防止法」という。)に基づき、関係機関、事業者、外国関係機関等と協力して犯罪収益対策を推進している。
(1)特定事業者の拡大と法の適切な履行を確保するための措置
犯罪収益移転防止法が、平成20年3月1日から全面施行されたことにより、顧客等の本人確認、取引記録の作成・保存及び疑わしい取引の届出等の措置を講ずる事業者の範囲が拡大された。国家公安委員会・警察庁は、特定事業者(注1)による犯罪収益移転防止法の適切な履行を確保するために、関係機関と連携して、特定事業者を対象とした各種研修会、ウェブサイト等を利用して犯罪収益移転防止法に対する理解と協力の促進に努めている。
(2)疑わしい取引の届出
犯罪収益移転防止法に定める疑わしい取引の届出は、一定の範囲の事業者(注2)が業務で収受した財産が犯罪収益である疑いがあると判断した場合等に疑わしい取引の届出を義務付ける制度である。これらの事業者がそれぞれの所管行政庁に届け出た情報は、国家公安委員会・警察庁が集約して整理・分析を行った後、都道府県警察、検察庁を始めとする捜査機関等に提供し、各捜査機関等においては、マネー・ローンダリング事犯の捜査等に活用している。警察において、平成20年中に疑わしい取引に関する情報を端緒として検挙した事件数は175事件と、前年より76事件(76.8%)増加した。このうち、132事件は詐欺事件で、全体の75.4%を占め、マネー・ローンダリング事犯の検挙に至った事件数は9事件であった。
また、国家公安委員会・警察庁は、届け出られた情報を総合的に分析し、各捜査機関等と緊密に連携しつつ、暴力団等の反社会的勢力の関係する資金の動きの把握に努めているほか、海外送金に関する情報等について、外国のFIU(注3)と情報交換を行い、国際的な犯罪収益の移転経路の解明に努めている。
図2-31 疑わしい取引の届出状況(平成16~20年)