第1章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

2 子どもの安全対策

(1)子どもを犯罪から守るための取組み
〔1〕 子どもが被害者となる犯罪
 刑法犯に係る13歳未満の子どもの被害件数(以下「子どもの被害件数」という。)は、平成14年以降減少傾向にあり、20年中は3万3,328件と、前年より1,130件(3.3%)減少した。
 20年中の全刑法犯に係る被害件数に占める子どもの被害件数の割合の高い罪種についてみると、略取誘拐が40.6%(63件)、強制わいせつが13.2%(936件)、殺人が8.8%(115件)、公然わいせつが8.3%(76件)と、特に高くなっている。
 
図1-42 刑法犯に係る13歳未満の子どもの被害件数の推移(平成11~20年)
図1-42 刑法犯に係る13歳未満の子どもの被害件数の推移(平成11~20年)
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図1-43 13歳未満の子どもの罪種別被害状況の推移(平成11~20年)
図1-43 13歳未満の子どもの罪種別被害状況の推移(平成11~20年)
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〔2〕 犯罪から子どもを守るための施策
ア 学校周辺、通学路等の安全対策
 警察では、子どもが被害者となる事件を未然に防止し、子どもが安心して登下校することができるよう、通学路や通学時間帯に重点を置いた警察官によるパトロールを強化するとともに、退職した警察官等をスクールサポーター(〔3〕 スクールサポーター 参照)として委嘱し、積極的に学校へ派遣するなどして、学校と連携して、学校や通学路における児童・生徒の安全確保等を推進している。

イ 被害防止教育の推進
 警察では、子どもが犯罪に巻き込まれる危険を予見する能力や危険を回避する能力を向上させるため、幼稚園や保育所、小学校等において、学年や理解度に応じ紙芝居、演劇やロールプレイ方式等により、子どもが参加・体験できる防犯教室を学校や教育委員会と連携して開催しているほか、教職員に対しては、不審者が学校に侵入した場合の対応要領の指導等を行っている。
 
防犯教室
写真 防犯教室

ウ 情報発信活動の推進
 子どもが被害に遭った事案等の発生に関する情報については、迅速に児童や保護者に対し情報提供が行われるよう、警察署と小学校及び教育委員会との間で情報共有体制を整備している。また、これらの情報を都道府県警察のウェブサイトで公開するとともに、電子メール等を活用した情報提供システムによる情報発信を行うなど、地域住民に対する積極的な情報提供を実施している。
 
子どもの安全に関する情報の提供
写真 子どもの安全に関する情報の提供

エ ボランティアに対する支援
 警察では、「子ども110番の家」として危険に遭遇した子どもの一時的な保護と警察への通報等を行うボランティアに対し、ステッカーや対応マニュアル等を配布するなどの支援を行っている。また、通学路における子どもの保護・誘導を主な活動内容とするボランティア団体に対し、活動拠点を整備したり資機材等を提供したりしているほか、防犯ボランティア団体との合同パトロールを実施するなど、自主防犯活動を積極的に支援している。
 
写真 防犯ボランティア団体による活動
防犯ボランティア団体による活動

コラム2 子どもと女性を性犯罪等の被害から守るための体制の強化

 子どもや女性が被害に遭う凶悪事件が後を絶たず、国民に大きな不安を与えていることを踏まえ、警察では、21年度予算において警察官の増員を行い、子どもと女性を性犯罪等の被害から守るための体制を強化した。
 埼玉県警察において「子ども女性安全対策隊」を設置するなど、各都道府県警察において性犯罪等の前兆とみられる声掛け、つきまとい等の段階で行為者を特定し、検挙、指導警告等の措置を講じる活動に専従する「子ども女性安全対策班(JWAT)(注)」の体制を整備し、取組みを推進している。

注:Juvenile and Woman Aegis Team

(2)少年の福祉を害する犯罪への取組み
 警察では、児童に淫行をさせる行為のように、少年の心身に有害な影響を与え少年の福祉を害する犯罪(以下「福祉犯」(注1)という。)の取締りと被害少年の発見・保護を推進している。特に、児童買春や児童ポルノについては、児童買春・児童ポルノ法を積極的に適用し、取締りを強化している。
 また、日本国民が国外で犯した児童買春・児童ポルノ事犯等の取締りや国際捜査協力を強化するため、警察庁では、平成14年以降、毎年東南アジア各国の捜査関係者、非政府組織(NGO)関係者等を招いて、児童の商業的・性的搾取対策に関する取組みについて意見交換を行っており、20年10月には第7回東南アジアにおける児童の商業的・性的搾取対策に関するセミナー及び捜査官会議を開催した。

注1:児童買春・児童ポルノ法違反(児童買春等)、労働基準法違反(年少者の危険業務、深夜業等)等

 
図1-44 福祉犯の法令別検挙人員(平成20年)
図1-44 福祉犯の法令別検挙人員(平成20年)
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表1-13 福祉犯の被害少年の学職別状況(平成19、20年)
表1-13 福祉犯の被害少年の学職別状況(平成19、20年)
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コラム3 児童ポルノ対策に係る国際的動向

 児童ポルノは、その製造に当たって強制わいせつ等の違法行為がなされることが多いほか、当該画像がいったんインターネット上に流出すれば、画像のコピーが転々と流出してしまうことから、被害児童を長期にわたって苦しませるという特徴がある。
 国際的には、児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書を始めとする条約が採択されており、欧米諸国では、児童ポルノの単純所持を処罰対象とするなどの措置やISPによるブロッキング(注2)等の対策が講じられている。
 我が国でも児童買春・児童ポルノ法が制定されるなどしており、警察では、同法に基づく取締り及び被害児童の発見・保護を強化しているほか、20年11月にブラジルで開催された第3回児童の性的搾取に反対する世界会議に出席するなどして国際協力に努めている。

注2:インターネットにアクセスするためのサービスを提供しているインターネット・サービスプロバイダ(ISP)において、利用者による特定のウェブサイト又はウェブページへのアクセスを遮断することによって、その閲覧を防止する措置
 
コラム 図 児童ポルノ対策に係る国際的動向
 
表1-14 児童ポルノ事件の検挙件数・検挙人員・被害児童数の推移(平成16~20年)
表1-14 児童ポルノ事件の検挙件数・検挙人員・被害児童数の推移(平成16~20年)
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(3)児童虐待対策
 平成20年中の児童虐待事件の検挙件数は307件と、最近5年間で1.3倍に増加した。
 児童虐待の早期発見と被害児童の早期保護は、児童の生命・身体の保護という警察の責務であることから、警察では、児童相談所、学校、医療機関等の関係機関との緊密な連携を保ちながら、児童の生命・身体の保護のための措置を積極的に講ずることとしている。
 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した場合には、速やかに児童相談所等に通告するほか、厳正な捜査や被害児童の支援等、警察としてできる限りの措置を講じて、児童の安全の確認及び安全の確保を最優先とした対応の徹底を図っている。また、児童の保護に向けて、個別事案についての情報を入手した早期の段階から、関係者間で情報を共有し、対応の検討が行えるよう、児童相談所等関係機関との連携の強化を図っている。
 
図1-45 児童虐待事件の態様別検挙状況の推移(平成16~20年)
図1-45 児童虐待事件の態様別検挙状況の推移(平成16~20年)
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事例
 20年8月、乳児を診察した医師から虐待のおそれがある旨の通報を受け、同乳児の母(24)を、泣きやまない同乳児に苛立ち、両手で持ち上げて前後に強く揺さぶり、後頭部や顔面を殴打するなどの暴行により6か月程度の治療を要する硬膜下血腫の傷害を負わせたとして、傷害罪で逮捕した(滋賀)。

事例
 20年7月、虐待のおそれがある旨の通報を受けた児童相談所から援助要請を受け、児童福祉司と連携して虐待を受けていた児童を保護するとともに、同児童と同居する男(21)を、同児童の顔面を殴るなどして負傷させたとして、傷害罪で逮捕した。また、同月、同児童の母(26)を、同男の同児童に対する暴行を制止せず、同犯行を容易にしたとして、傷害罪の幇助で逮捕した(神奈川)。

(4)少年の犯罪被害への対応
 平成20年中の少年が被害者となった刑法犯の認知件数は28万9,035件であり、このうち凶悪犯は1,231件、粗暴犯は1万4,443件であった。
 警察では、被害少年に対し、少年補導職員(注)を中心に継続的にカウンセリングを行うなどの支援を行うとともに、大学の研究者、精神科医、臨床心理士等部外の専門家を被害少年カウンセリングアドバイザーとして委嘱し、支援を担当する職員が専門的な助言を受けることができるようにしている。
 また、警察では、少年が出会い系サイト等を利用することによって犯罪に巻き込まれたり、インターネット上の違法情報・有害情報に触れたりすることのないよう、コンピュータ及び携帯電話におけるフィルタリング・ソフト又はサービスの普及促進や広報啓発活動等の取組みを推進している。

注:特に専門的な知識及び技能を必要とする活動を行わせるため、その活動に必要な知識と技能を有する警察職員(警察官を除く。)のうちから警察本部長が命じた者で、少年の非行防止や立ち直り支援等の活動において、重要な役割を果たしている。平成21年4月1日現在、全国に約1,100人の少年補導職員が配置されている。

 
図1-46 被害少年の支援活動
図1-46 被害少年の支援活動

事例
 パトロール中に発見・保護された家出少年は、学校におけるいじめの被害により不登校に陥っていたことなどから、継続的に支援を行う必要性が認められた。
 少年サポートセンターの少年補導職員と地域ボランティアの被害少年サポーターが連携し、家庭訪問や学校との連絡調整等きめ細かな支援活動を行った結果、同少年は立ち直り、安定した学校生活を取り戻した(岐阜)。

 第3節 安全で安心な暮らしを守る施策

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