特集:変革を続ける刑事警察 

3 捜査力・執行力の更なる強化

(1)教育訓練の充実
 警察では、捜査員の能力向上を図るため各種の教育訓練を実施している。今後数年間にわたり毎年1万人前後の警察官の退職が見込まれ、刑事部門においては、多くの経験豊富な捜査員が退職し、若手警察官が登用されていくこととなることから、経験豊富で様々な捜査技能を有する退職警察官の再任用や非常勤職員としての再雇用を推進するなどして、聞き込み、取調べ、現場観察等の各種捜査技能の伝承を行うほか、現在の刑事警察を取り巻く諸情勢を踏まえ、新たに刑事に任用される警察官を対象とした各都道府県警察学校における教育訓練等において、司法制度改革の概要や適正な取調べの在り方等に係る教育を行い、取調べに係る意識の向上等を図る必要がある。
 
 若手捜査員を指導する退職警察官
若手捜査員を指導する退職警察官

 また、捜査の遂行に当たっては、捜査幹部の指揮能力が極めて重要である。例えば、人質立てこもり事件等の特殊事件においては、捜査活動の巧拙が直ちに被害者の生命の安全に影響を及ぼすが、適切な捜査活動は、捜査幹部による迅速・的確な捜査指揮によってのみなし得るものである。こういったことを踏まえ、迅速・的確な捜査指揮を行うための能力を養成するため、警察大学校等において、具体的事例に基づく演習型の教育を実施するなどして、捜査幹部としての職務の遂行に必要な知識及び技能の習得に向けた実践的な教養を充実させる必要がある。
 さらに、最先端の科学技術を有効活用するため、DNA型鑑定、画像解析、ポリグラフ等に関する科学警察研究所における研修や、都道府県警察の警察学校におけるDNA型鑑定の手順・手続に関する知識・技能を向上させるための教育訓練を充実させることにより、個々の警察職員の能力に磨きをかけることが必要である。

コラム7 特殊事件対策の強化

 平成19年には、三重県亀山市における女子中学生被害の身の代金目的誘拐事件のほか、東京都町田市における極東会傘下組織構成員によるけん銃使用立てこもり事件、愛知県長久手町における警察官等死傷のけん銃使用人質立てこもり事件といった、銃器を使用した立てこもり事件が相次いで発生した。こういった特殊事件に対しては、捜査幹部の迅速・的確な指揮の下、組織の総合力を発揮して対処しなければならず、平素から有事即応体制の確立に努めるとともに、適切な対応要領の習得を図るため、年間計画に基づく広域誘拐訓練のほか、人質立てこもり事件に対応する部隊の反復訓練、警視総監及び道府県警察本部長以下幹部による指揮訓練、刑事部門、警備部門及び情報通信部門による合同訓練等の充実を図っていく必要がある。
 
突入・制圧訓練
突入・制圧訓練1
 
突入・制圧訓練2

(2)有効な捜査手法の活用
 組織的、広域的な犯罪や、被害者と犯人のつながりが薄い犯罪については、「人からの捜査」や「物からの捜査」といった従来型の捜査手法のみによっては証拠の収集や被疑者の特定が困難なことが多い。このような犯罪の検挙を徹底するためには、通信傍受やプロファイリング等有効な捜査手法を更に効果的に活用していかなければならない。
 通信傍受については、その実施によりこれまで、薬物密売組織の首謀者の検挙や、薬物密売ルートの解明に至るなど、成果が上がっている。警察においては、憲法の保障する通信の秘密を不当に侵害することのないよう、法の定める手続を遵守しつつ、積極的に通信傍受を行う一方、これまでの適用事例に関する分析・検討を重ねるとともに、通信事業者と必要な協議を行うなどして通信傍受に係る環境整備を図っている。今後とも、通信傍受の効果的活用に向けた取組みを強化していく必要がある。
 また、連続して発生する性犯罪、放火等の犯罪に対しては、プロファイリングを積極的に活用していく必要がある。捜査員は、犯罪現場の状況や、目撃者・被害者等の事件関係者から得られた情報に基づき、これまでの事件捜査で培った知識・経験もいかしながら、犯行の連続性の推定や次回の犯行の予測等の「筋読み」を行っているが、これを、体系化された統計学、心理学等の行動科学を活用したプロファイリングと合わせて行うことにより、捜査の一層効果的な遂行が可能となる。今後、プロファイリングの更なる活用に向けて、科学警察研究所におけるプロファイリング実施担当者を養成するための研修を充実させていくとともに、捜査現場での普及に向けた取組みを推進し、プロファイリング実施部門と捜査部門の連携の強化を図っていく必要がある。

 第4節 今後の展望

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