特集:変革を続ける刑事警察 

3 捜査力の向上に向けた多角的な取組み

(1)捜査能力の向上
 「捜査は人なり」と言われている。犯罪捜査に従事する者は、刑法、刑事訴訟法等の捜査に関係する法律の知識のほか、取調べ、聞き込み、鑑識資料の収集、捜査指揮等の様々な技能や、激務に耐え得る体力、仕事への熱意、責任感、積極性、協調性、誠実さ等の資質も求められる。刑事警察を取り巻く環境が変化する中で、捜査力を強化し重要犯罪等の検挙を徹底するためには、真に捜査能力の高い捜査員及び捜査幹部の育成が必要である。刑事部門においては、捜査能力の向上を図るための教育訓練を次のとおり実施している。
〔1〕 刑事任用時における教育訓練
 刑事任用時における教育訓練は、新たに刑事部門に任用されることが予定されている警察官に対し、犯罪捜査に関する基本的知識及び技能を修得させるために行うものであり、各都道府県警察の警察学校における教育訓練及び警察署における実務修習を通じて行っている。
 
 模擬公判を体験する警察官
模擬公判を体験する警察官

〔2〕 刑事任用後における教育訓練
 刑事部門に任用された警察官に対する教育訓練は、それぞれの業務遂行に必要な知識の修得や技能の向上のために行うものであり、各都道府県警察の警察学校における専門的な教育訓練や、実例に基づく想定事例等を通じて捜査上の教訓や捜査手法等を擬似的に体験させる研修等を行っている。このほか、警察庁指定広域技能指導官制度、退職警察職員の再任用制度等を活用し、実務経験が豊富な捜査員の専門的技能や知識の若手捜査官に対する伝承を図っている。
 
 鑑識技能伝承官による教育訓練
鑑識技能伝承官による教育訓練

〔3〕 捜査幹部に対する教育訓練
 捜査幹部の捜査指揮及び管理に関する能力の向上を図る観点から、各級幹部に対し、警察大学校又は管区警察学校において教育訓練を行い、捜査幹部としての職務遂行に必要な知識及び技能の向上を図っている。また、警察大学校に置かれた特別捜査幹部研修所では、上級捜査幹部としての適格性を有する捜査実務経験のある警部以上の者に対して、捜査幹部として必要な法的知識や捜査の指揮及び管理に関する研修を行い、捜査指揮能力の向上を図っている。
 
 研修を受ける捜査幹部
研修を受ける捜査幹部

(2) 情報通信技術(IT)を活用した捜査に関する事務の合理化・効率化の推進
 限られた捜査力を効果的に活用するためには、捜査の合理化・効率化を推進する必要がある。各都道府県警察においては、事件の受理から捜査の進捗状況、検察庁への送致等までを電子的に一元管理するとともに書類作成の省力化を図るための「事件管理システム」の導入が進められている。また、捜査過程で押収する大量の証拠品の保管・管理に関する事務の合理化・適性化を図るため、平成20年度中に、証拠品にICタグをはり付けて、入出庫の管理を一元的かつ迅速に行うことのできる「証拠品管理システム」モデル事業の実施が予定されている。
 
 事件管理システムを運用する捜査員
事件管理システムを運用する捜査員

(3)通信傍受の活用
〔1〕 通信傍受法の適正な運用
 警察では、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(以下「通信傍受法」という。)を有効かつ適正に活用し、組織的な犯罪の真相解明や被疑者の検挙に努めている。
 
 図-53 通信傍受の手続
図-53 通信傍受の手続

〔2〕 記録装置の整備と通信傍受の活用
 警察では、電気通信設備への接続、傍受を実施した通信(ファクシミリ装置を用いたものを含む。)の記録、その内容の復元、捜査員の作業状況の表示等に係る機能を備えた通信傍受法用記録等装置(記録装置)を整備し、通信傍受を実施している。通信傍受は、組織的な薬物密売事件の捜査等に有効であり、平成12年8月の通信傍受法の施行から19年末までに、29事件において実施し、合計126人を逮捕している。
 
 通信傍受法用記録等装置
通信傍受法用記録等装置

(4)国際犯罪に対する取組みの推進(参照)
 社会経済のグローバル化による国際的な人の移動の活発化等を背景として、我が国に流入した外国人による犯罪が多発するなどしているほか、日本国内で犯罪を行い、国外に逃亡している者及びそのおそれのある者の数が増加傾向にある。警察では、国際犯罪(注)について、内外の関係機関と連携しながら、各種対策に取り組んでいる。

注:外国人に係る犯罪又は国民の外国における犯罪その他の外国に係る犯罪


〔1〕 国内関係機関との連携
 警察では、不法入国、不法滞在等を取り締まるため、法務省、財務省等の国内関係機関と連携し、不法入国を防止するための水際対策や不法滞在者の摘発等の取組みを推進している。
〔2〕 外国治安機関等との協力
 国際犯罪の捜査では、外国人被疑者の国籍国や被疑者の逃亡先国への捜査協力の依頼等において、外国の治安機関との協力が不可欠である。
 警察では、ICPOを通じた活動のほか、各国治安当局との協議や各国との刑事共助条約締結交渉への積極的な参画等を通じて、外国治安機関との協力を進めている。
〔3〕 国外逃亡被疑者等の追跡等
 近年、日本国内で犯罪を行い、国外に逃亡している者及びそのおそれのある者の数は増加傾向にある。
 警察では、国外に逃亡するおそれのある被疑者について、出国前の検挙に努めるとともに、国外に逃亡した被疑者について、外国治安機関等との捜査協力、刑事共助条約に基づく共助の実施、犯罪人の引渡しに関する条約に基づく被疑者の引渡し等により確実な検挙等に努めている。

(5)捜査特別報奨金制度
 近年、聞き込み捜査等の「人からの捜査」が困難となっている中で、逃走中の重要犯罪被疑者の逮捕や被疑者不詳の未解決重要事件の解決のため、一般からの被疑者検挙に資する情報提供を促進し、重要犯罪等の検挙の徹底を図ることを目的として、警察庁が懸賞広告を実施する捜査特別報奨金制度(公的懸賞金制度)を平成19年度から導入した。
 同制度の対象となる事件等については、警察庁ウェブサイト(http://www.npa.go.jp)等で広報している。
 
 図-54 捜査特別報奨金制度の概要
図-54 捜査特別報奨金制度の概要
 
 警察庁ウェブサイト
警察庁ウェブサイト
 
 ポスター
ポスター

 第3節 変革を続ける刑事警察

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