特集:変革を続ける刑事警察 

第3節 変革を続ける刑事警察

1 捜査体制の充実・強化に向けた取組み

 警察捜査を取り巻く状況の変化に伴い、一つ一つの捜査に要する労力が増大しているほか、捜査すべき事項は増加し、その内容も複雑化・高度化している。これに対し、警察では、限られた組織・人員の効率的な運用や業務の合理化に努めているほか、なお不足する捜査員の増員を行い、捜査体制を強化している。

(1)初動捜査体制の整備、鑑識活動の強化等
 事件発生時には、迅速・的確な初動捜査を行い、犯人を現場やその周辺で逮捕し、又は現場の証拠物や目撃者の証言等を確保することが重要である。
 警察では、機動力をいかした捜査活動を行うため、警視庁及び道府県警察本部に機動捜査隊を設置し、事件発生時に現場や関係箇所に急行して犯人確保等を行っているほか、機動鑑識隊(班)や現場科学検査班等を編成し、現場鑑識活動を強化するとともに、関連技術の研究開発や資機材の開発・整備を推進している。
 
 図-38 初動捜査体制の整備、鑑識活動の強化等
図-38 初動捜査体制の整備、鑑識活動の強化等

コラム4 犯罪を見逃さない!! ─現場鑑識活動の重要性─

 犯人が犯罪現場等に遺留した物やこん跡から得られる「物からの捜査」には、事件発生直後の犯罪現場における綿密な現場鑑識活動による証拠資料の収集が大変重要な役割を担っている。科学技術の発展と共に、より微量・微細な資料からの分析が可能となっており、洋服の繊維、動物の毛等が重要な証拠となって事件が解決することがある。今後も一つでも多くの事件を解決するため、犯罪現場に残る証拠資料を適正かつ細大漏らさず採取する現場鑑識活動を行っていく必要がある。
 
 現場鑑識活動
現場鑑識活動

事例

 平成19年6月に発生した殺人・死体遺棄事件において、犯行現場等の綿密な鑑識活動を行った結果、被害者の爪から繊維片を、また、被害者着衣等から獣毛様の物等、多数の資料を採取した。これらを鑑定したところ、同繊維片と被疑者所有の着衣の繊維片は同様の色を有する綿繊維であり、同獣毛様の物が被疑者所有の猫の毛に類似しているなどの結果が得られた。その後所要の捜査を遂げ、同年8月、無職の女(33)を逮捕した(宮城)。

(2)捜査体制の効率的運用
 犯罪が発生する範囲の広がりや犯罪の罪種・手口によっては、既存の捜査体制では効果的な捜査を実施することが困難な場合がある。警察では、各都道府県警察や警察署だけでは効果的な対応が困難な犯罪の検挙を徹底するために、捜査体制の効果的な運用を図っている。

事例

 警視庁では、強盗、強姦、窃盗等の検挙体制を強化するため、平成17年1月、機動捜査隊3隊の各隊に班員10名の「特命捜査班」を設置し、警察署のみでは対応が困難で、かつ、本部事件主管課の応援派遣がなされていない事件等に班員を機動的に派遣し、捜査に専従させることとしている。19年中は、104事件に班員を派遣し、81件、154人を検挙するなどの成果を上げた。
 
コラム5 「振り込め詐欺」首都圏派遣捜査専従班

 依然として深刻な被害が続いている振り込め詐欺(恐喝)については、首都圏において被害金が引き出されることが多いが、被害者は全国に広がっており、各道府県警察が被害を認知するたびにそれぞれ捜査員を首都圏に派遣しなければならないとすると、効率的に捜査を進めることが困難となる。
 このような状況を踏まえて、警察においては、首都圏を拠点として、各道府県警察の捜査員により構成された「振り込め詐欺」首都圏派遣捜査専従班を設置している。首都圏派遣捜査専従班は、各道府県警察からの捜査共助の依頼を受け、首都圏内において、犯行に使用された口座や携帯電話の捜査等に従事しており、これにより被害が広域にわたる振り込め詐欺(恐喝)捜査を効率的に行うことが可能となっている。
 
「振り込め詐欺」首都圏派遣捜査専従班

(3)広域捜査力の強化
 通信手段や交通手段の発達等を背景に犯罪が広域化したことから、多くの犯罪捜査では、複数の都道府県にまたがって活動する必要が生じている。このため、都府県警察の単位を越えて広域的に捜査を行う広域捜査隊の編成が進められているほか(平成19年末現在、全国12地域で広域捜査隊の編成に関する協定を締結)、複数の都道府県警察による合同捜査や共同捜査を積極的に推進している。
 また、航空機事故等に関する特別の専門的知識等を有する職員をあらかじめ専門捜査員として登録し、他の都道府県で発生した事案にも活用できるようにしている。
 
 図-39 広域捜査
図-39 広域捜査

 さらに、警察庁では、複数の管区警察局の管轄区域で発生している社会的影響の大きい凶悪又は特異な事件で複数の地域にまたがり組織的に捜査を行う必要がある事件を警察庁指定事件として指定し(20年2月までに24事件を指定)、都道府県警察と捜査会議を開催し、捜査方針を協議するほか、関係情報を収集・分析するなど、事件の解決に向けて捜査活動を支援している。
 
 図-40 合同捜査・共同捜査
図-40 合同捜査・共同捜査

事例

 15年から18年にかけて、中国人の男(31)ら60名は、窃盗グループを組織し、中部地方、近畿地方等において、特別養護老人ホーム、大規模病院等を対象に金庫破り等を敢行し、現金、貴金属等を窃取した。大阪府、三重県、滋賀県、京都府、奈良県及び鳥取県警察が合同捜査本部を設置し、兵庫県警察と岡山県警察との合同捜査本部、愛知県警察と福井県警察との合同捜査本部のほか、神奈川県警察及び和歌山県警察と共同捜査を実施し、19年2月までに、23都府県にわたる金庫破り、事務所荒し等約740件(被疑者60人、被害総額6億9,000万円相当)を検挙し、窃盗グループを壊滅させた(大阪、神奈川、福井、愛知、三重、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、岡山)。

(4)検視体制の充実
 平成19年に警察が取り扱った死体数は約15万5,000体であり、10年の約1.4倍に増加している。
 
 図-41 死体取扱数の推移(平成10~19年)
図-41 死体取扱数の推移(平成10~19年)

 警察においては、死体取扱数の急増に的確に対応し、適正な検視業務を推進するため、刑事調査官(注)の増強、検視業務に携わる警察官に対する教養の充実、資機材の整備による検視体制の強化を推進している。また、死因の究明を適正に行うためには、解剖を担う医師の体制整備が重要であることから、警察庁では20年1月に日本法医学会に対して解剖医の体制充実について要望したほか、関係機関との検討を進めている。

注:刑事調査官とは、刑事部門における10年以上の捜査経験を有する警視又は警部の階級にある警察官で、警察大学校における法医専門研究科を修了したものから任用される検視の専門家であり、全国で160人(20年4月現在)配置されている。

 
 図-42 検視等の流れ
図-42 検視等の流れ
 
 検視時の状況
検視時の状況
 
 司法解剖時の状況
司法解剖時の状況

 第3節 変革を続ける刑事警察

前の項目に戻る     次の項目に進む