第5章 公安委員会制度と警察活動の支え 

8 適正な警察活動

(1)警察改革の持続的断行
 国家公安委員会・警察庁は、「警察改革要綱」に掲げる施策をすべて実行に移し、また、厳しい治安情勢に対処するため、警察改革の精神の下、治安再生に取り組んでおり、平成19年中の懲戒処分者数は303人と前年に比べて58人減少した。
 しかしながら、19年8月には職務上貸与されているけん銃を使用した殺人及び自殺事案が発生したほか、警察職員による飲酒運転、ファイル共有ソフトに係る情報流出等国民の信頼を損なう非違事案がいまだ発生している。また、刑法犯認知件数は依然として高い水準にあるほか、市民生活に大きな不安と脅威を与える事件が相次いで発生するなど、犯罪情勢は依然として厳しい。
 国家公安委員会・警察庁は、国民からの厳しい批判を反省・教訓として「警察改革要綱」を策定した原点に立ち返り、警察改革を持続的に断行するため、17年12月、「警察改革の持続的断行について」と題する、次の5項目から成る指針を取りまとめた。警察では、この指針に基づき今後とも持続的に改革を断行し、その実施状況を検証していくこととしている。
 
警察改革要綱(概要)
 
警察改革の持続的断行について(概要)

(2)適正な予算執行の確保
 警察では、予算執行に関する不適正事案の再発を防止し、適正な予算執行を確保するため、次のような取組みを行っている。

〔1〕 警察が行う会計監査
 国家公安委員会が定める会計の監査に関する規則に基づき、警察庁長官、警視総監、道府県警察本部長及び方面本部長は、会計監査を実施している。
平成19年度に警察庁が実施した監査では、捜査費、旅費及び契約に係る予算の執行状況を重点的に監査することとし、捜査費の執行に直接携わった捜査員1,747人を含む4,396人に対して聞き取りを実施するなどした。その結果、職員の旅行に際して、旅費の支給漏れがあったことから、本来支給すべき額を追加支給すること(宮城、埼玉、石川、福井、愛知)などについて、改善を指示した。また、捜査費関係文書の記載内容の不備、旅費の支払いの遅延が認められたものなどについて、必要な改善措置を講ずるよう、関係部署を指導した。
 20年度については、19年度の会計監査実施結果を踏まえつつ、引き続き厳正な会計監査を行うこととしている。
 
 図5-15 会計の監査に関する規則(平成16年国家公安委員会規則第9号)
図5-15 会計の監査に関する規則(平成16年国家公安委員会規則第9号)
 
 監査における職員からの聞き取り
監査における職員からの聞き取り

〔2〕 会計に関する職員教育
 職員に予算執行の手続に関する正確な知識を修得させるとともに、適正経理の重要性を再認識させるため、会計に関する職員教育を徹底している。また、それに必要な捜査費等の経理に関する各種の解説資料を作成し、配布している。

(3)監察
 警察では、警察内部の自浄能力を高めるため、都道府県警察で監察を掌理する首席監察官をすべて国家公安委員会の任命に係る地方警務官とするほか、警察庁、管区警察局及び都道府県警察において監察担当官を増員するなど監察体制を強化するとともに、国家公安委員会が定める監察に関する規則に基づき、能率的な運営及び規律の保持のため、厳正な監察を実施している。これにより、警察庁、管区警察局等による監察実施回数が大幅に増加した。
 
 図5-16 監察に関する規則(平成12年国家公安委員会規則第2号)
図5-16 監察に関する規則(平成12年国家公安委員会規則第2号)

 平成19年度は、図5-17のとおり、監察実施項目を定め、業務及び服務の両面において監察を行った。同年度の警察庁及び管区警察局による都道府県警察に対する監察の実施回数は1,590回と、警察改革要綱が策定された12年度より982回増加した。また、都道府県警察においては、年1回以上ほぼすべての警察署に対し監察が実施されている。
 なお、警察法の規定により、国家公安委員会は警察庁に対して、都道府県公安委員会は都道府県警察に対して、監察について必要があると認めるときは、具体的又は個別的な監察の指示をすることができ、これまで、神奈川県公安委員会(13年4月)及び奈良県公安委員会(同年7月)が、警察職員による不祥事案の発生に際して各県警察に対し監察を指示したほか、予算執行に関する不適正事案の発生に際して、北海道公安委員会(16年3月)及び福岡県公安委員会(同年4月)が、各道県警察に対し監察を指示した。
 
 図5-17 平成19年度の監察実施計画
図5-17 平成19年度の監察実施計画

(4)苦情の適正な処理
 警察法には苦情申出制度が設けられており、都道府県警察の職員の職務執行について苦情がある者は、都道府県公安委員会に対し文書により苦情の申出をすることができる。
 なお、警察本部長や警察署長あてに申出があったものなど、都道府県警察の職員の職務執行についての苦情でこの制度によらない申出についても、これに準じた取扱いがなされている。
 
 図5-18 苦情申出制度の概要
図5-18 苦情申出制度の概要

(5)情報管理の徹底
 警察では、犯罪捜査、運転免許等に関する大量の個人情報のほか、多くの機密情報を取り扱っていることから、警察庁は、これまで、警察情報セキュリティポリシー(警察情報セキュリティに関する規範の体系)を策定するなどして、情報の流出、改ざん等への対策を進めてきた。
 このような取組みにもかかわらず、平成19年に入っても、捜査資料等を記録した外部記録媒体等を自宅に持ち帰り、ファイル共有ソフトを介してこれらの情報が流出した事案が相次いで判明した。その中でも、同年6月に判明した警視庁の事案は、流出した情報がファイル数で約1万件に及ぶ大規模なものとなった。これらの事案の発生等により、情報管理の在り方について厳しい指摘がなされた。
 こうした事案の絶無を期するためには、情報の組織的管理及び職員一人一人の意識改革の徹底が必要不可欠であることから、警察庁では、同年3月及び6月、警察庁職員及び都道府県警察に対し、捜査資料等の不必要な複写及び持ち出しの禁止、不必要な情報の廃棄・消去等について指示し、情報管理に係る職員の責務等について更なる浸透を図るとともに、同年9月から、すべての都道府県警察等を対象とした情報流出防止に関する監査を実施したほか、19年度末には私有コンピュータ等の公務使用を禁止するとともに監査等の強化及び公費によるコンピュータの整備を含む情報セキュリティの向上のための総合的な対策を推進している。
 特に、外部記録媒体からの情報流出を防止するため、外部記録媒体の利用を制限するとともに、外部記録媒体を用いずにデータを共有することが可能となるファイルサーバ(注)の整備や外部記録媒体に情報を書き込む際に自動的に暗号化する機能の導入等を推進することとしている。

注:自らの記録装置に保存されたデータをネットワーク上のほかのコンピュータと共有することができるサーバ

 
 図5-19 情報管理の徹底に向けた各種対策
図5-19 情報管理の徹底に向けた各種対策

 8 適正な警察活動

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