第4章 公安の維持と災害対策 

第5節 対日有害活動の動向と対策

(1)北朝鮮による対日諸工作
〔1〕 日本政府がとる対北朝鮮措置に対する非難
 北朝鮮や朝鮮総聯(注1)は、日本政府が、2006年(平成18年)の北朝鮮による弾道ミサイル発射等を受けて発動し、現在も継続している万景峰92号の入港禁止等の対北朝鮮措置を、「朝鮮総聯や在日朝鮮人等に対する政治弾圧」ととらえて、各種メディアを通じて激しい非難を繰り返している。

注1:正式名称を在日本朝鮮人総聯合会という。

 
 図4-11 北朝鮮による対日諸工作の例
図4-11 北朝鮮による対日諸工作の例

〔2〕 朝鮮総聯関連施設等に対する事件捜査や朝鮮総聯中央本部の競売問題に対する非難・抗議
 北朝鮮は、警察等が行った朝鮮総聯関連施設等に対する事件捜査や株式会社整理回収機構による朝鮮総聯中央本部等の競売に関し、「倭国(注2)反動らの卑劣な攻撃と弾圧、強盗さながらの人権侵害行為」、「横暴非道な朝鮮総聯弾圧策動を絶対に手をこまねいて傍観しないし、わが当該部門では必要な措置を取るようになるであろう」などと激しく非難と警告を行っている。
 また、朝鮮総聯は、朝鮮総聯関連施設等に対する事件捜査及び北朝鮮や朝鮮総聯に批判的な報道に対して抗議活動を展開している。

注1:正式名称を在日本朝鮮人総聯合会という。
注2:我が国に対する蔑称

 
 捜索に対する抗議(共同)
捜索に対する抗議(共同)

〔3〕 国際連合等に対する働き掛け
 北朝鮮や朝鮮総聯は、日本政府がとる対北朝鮮措置等を「在日朝鮮人等に対する政治弾圧、民族差別」等と主張し、国際連合等に対して、日本当局の「差別政策」を即時中止させるための警告を発するよう訴えるなどの働き掛けを行っている。
〔4〕 祝宴等を通じた各界関係者に対する働き掛け
 朝鮮総聯は、北朝鮮の各種記念日をとらえた祝宴に、我が国の各界関係者や北朝鮮の主張に同調する日本人等を招待するとともに、その中で、「日本当局が政治弾圧と人権蹂躙行為を直ちに中止し、朝日平壌宣言に従って過去の清算に基づいた両国関係の改善と正常化に誠実に乗り出すことを望む」(徐萬述議長)などと挨拶し、北朝鮮や朝鮮総聯に対する理解を求めた。

 警察は、北朝鮮や朝鮮総聯による諸工作に対する情報収集活動を強化するとともに、関連する違法行為に対して厳正な取締りに努めることとしている。

(2)中国による対日諸工作
 中国は、2007年(平成19年)の実質GDP伸び率が前年比11.9%を記録するなど、好調な経済成長を続ける一方、従来の「世界の工場」と呼ばれる素材産業中心の産業構造から、自主開発した高付加価値製品の製造・輸出産業中心の産業構造への転換を目指した政策を、国家を挙げて推進している。
 胡錦濤総書記は、第17回中国共産党全国代表大会において行った政治報告の中で、「調和世界構築」「善隣友好」という外交政策を掲げ、周辺諸国との平和協調路線を強調する一方、「情報化の軍隊を作り上げ、情報化の戦争で勝利を勝ち取る」と宣言をし、装備のハイテク化、戦術の近代化による人民解放軍の強化方針を明確にした。
 これらの政策・方針の下、中国は、外国に研究者や技術者を積極的に派遣して先端技術の収集を図っており、我が国にも、公館員、研究者、国費留学生等を派遣し、先端科学技術保有企業、防衛関連企業、研究機関等に技術移転の働き掛けを行うなど、長期間にわたって、巧妙かつ多様な手段で情報収集活動を行っている。
 警察では、我が国の国益が損なわれることのないよう、こうした諸工作に関する情報収集・分析に努めるとともに、違法行為に対しては、法律に照らし厳正に対処していくこととしている。
 
 第17回中国共産党全国代表大会(共同)
第17回中国共産党全国代表大会 (共同)

事例

 国内大手自動車部品メーカーに勤務する在日中国人技術者(41)は、会社から貸与されたコンピュータに同社のデータベースから大量の図面データをダウンロードした上、無許可で自宅に持ち帰り、複数の外部記憶媒体に複製した。19年3月、同コンピュータの横領罪で逮捕した(愛知)。

(3)ロシアによる対日諸工作
 プーチン大統領(当時)は、2007年(平成19年)10月に対外情報庁(SVR)新長官に任命されたフラトコフ前首相を紹介する際、「ロシア政府を3年以上率いた人物、フラトコフがSVR長官に任命されたこと自体、諜報活動がロシア国家機関システムにおいて重要な地位を占めていることを示す」、「諜報機関の努力はロシアにおける潜在的な産業力及び国防力の強化に集中されなければならない」などと述べ、ロシア情報機関を国益拡大のための手足として重用していく姿勢を示した。
 ロシア情報機関員は、在日ロシア連邦大使館員や通商代表部員等の身分で入国し、違法な情報収集活動を繰り返し行っており、我が国においても、17年、18年及び20年と違法行為の摘発が続いている。
 警察としては、こうした犯罪行為により我が国の国益が損なわれることのないよう、今後も、情報収集・分析機能の強化を図るとともに、違法行為には厳正な取締りを行うこととしている。
 
 フラトコフ新SVR長官とプーチン大統領(当時)(AFP=時事)
フラトコフ新SVR長官とプーチン大統領(当時)(AFP=時事)

事例

 元内閣事務官(52)は、19年7月、ロシアの情報機関員とみられる元在日ロシア連邦大使館二等書記官(38)から唆され、内閣情報調査室の秘密を同人に漏らし、現金10万円の賄賂を受け取っていた。20年1月、元内閣事務官を国家公務員法違反(秘密を守る義務)及び収賄罪、元二等書記官を国家公務員法違反(秘密を守る義務違反教唆)及び贈賄罪で検挙した(警視庁)。

(4)大量破壊兵器関連物資等の不正輸出
〔1〕 大量破壊兵器関連物資等の拡散についての国際的な取組み
 2007年(平成19年)6月、ドイツで開催されたハイリゲンダム・サミットでは、大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散防止並びに国際的なテロリズムとの闘いは、国際的な平和と安全に極めて重要なこと、また、拡散に対する安全保障構想(PSI)(注1)を含め、大量破壊兵器等の不法取引と闘うための効果的な措置の採用を強く求めることなどを内容とする声明が発表された。さらに、北朝鮮に対しては、すべての核兵器及び核計画その他のすべての大量破壊兵器・弾道ミサイル計画を放棄するよう求めることなどが、イランに対しては、国際連合安全保障理事会決議に従わず核開発を推し進めていることを非難するとともに、国際原子力機関(IAEA)(注2)に全面的に協力するよう求めることなどが盛り込まれた。

注1:Proliferation Security Initiativeの略。国際社会の平和と安定に対する脅威である大量破壊兵器、ミサイル及びそれらの関連物資の拡散を阻止するために、国際法及び各国国内法の範囲内で、参加国が共同してとり得る移転 (transfer)及び輸送(transport)の阻止のための措置を検討・実践する取組み
 2:International Atomic Energy Agency


〔2〕 不正輸出防止対策
 大量破壊兵器の拡散が国際安全保障上の重大な関心事項となっていることを踏まえ、警察では、国際的な取組みにも積極的に参加している。19年10月、我が国で開催されたPSI海上阻止訓練では、神奈川県警察が、税関及び海上保安庁と共に船舶に対する立入検査を行い、神奈川県警察・警視庁のNBCテロ捜査隊員が、陸揚げされた大量破壊兵器関連物資に対する検知・特定等の検査を行った。
 また、警察では、国内外の諸情勢を的確に把握かつ分析するとともに、関係機関との活発な情報交換を通じた連携強化を図ることにより、大量破壊兵器関連物資等の不正輸出の取締りを積極的に推進しており、19年中には、1件の不正輸出事件を検挙した。
 
 PSI海上阻止訓練
PSI海上阻止訓練

事例

 静岡県内の自動二輪車等製造販売会社の事業部長(58)ら3人は、17年12月、大量破壊兵器の運搬等に用いられるおそれがあるものとしてその輸出が規制されている無人ヘリコプター1台を、経済産業大臣の許可を受けることなく、中国に向け輸出しようとしたが、その目的を遂げなかった。19年3月、同社は、外国為替及び外国貿易法違反(無許可輸出未遂)で罰金100万円に処された(静岡、福岡)。
 
 輸出しようとした物と同型の無人ヘリコプター(共同)
輸出しようとした無人ヘリコプター(共同)

 第5節 対日有害活動の動向と対策

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