第2章 組織犯罪対策の推進 

第2節 薬物銃器対策

1 薬物情勢

 平成19年中の薬物事犯の検挙人員は、図2-8のとおり、全体では1万4,790人と前年より350人(2.4%)増加し、覚せい剤事犯が全薬物事犯の検挙人員の81.2%を占めている。また、覚せい剤及び乾燥大麻の押収量が前年より大きく増加し、MDMA(注)等合成麻薬の押収量は過去最多を記録するなど、我が国の薬物情勢は、依然として厳しい状況にある。

注:化学名「3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン(3,4-Methylenedioxymethampetamine)」の略名。本来は白色粉末であるが、様々な着色がされ、文字や絵柄の刻印が入った錠剤の形で密売されることが多い。

 
 図2-8 平成19年中の薬物事犯検挙人員
図2-8 平成19年中の薬物事犯検挙人員

(1)覚せい剤情勢
 平成19年中の覚せい剤事犯の検挙人員は前年より増加し、また、押収量は、粉末が前年より大きく増加した。
<19年中の覚せい剤事犯の特徴>
・ 暴力団構成員等の検挙人員が増加し、検挙人員全体の過半数
・ 来日外国人、特にイラン人及びフィリピン人の検挙人員が増加 
・ 再犯者が、検挙人員全体の過半数
 
 図2-9 覚せい剤事犯の検挙状況の推移(平成10~19年)
図2-9 覚せい剤事犯の検挙状況の推移(平成10~19年)

事例

 中国人の男(42)ら5人は、19年4月、東京都新宿区内において、密売目的で覚せい剤約51.4キログラムを所持していた。覚せい剤取締法違反(営利目的所持)で逮捕した(警視庁)。

(2)各種薬物事犯情勢
〔1〕 各種薬物事犯(有機溶剤事犯を除く。)
 最近5年間の大麻事犯、MDMA等合成麻薬事犯等の各種薬物事犯(シンナー等の有機溶剤事犯を除く。)の検挙人員及び押収量は、表2-5のとおりである。
<平成19年中の大麻事犯の特徴>
・ 乾燥大麻の押収量が大きく増加
・ 検挙人員の69.1%は少年及び20歳代の若年層
・ 検挙人員の86.7%が初犯者
<19年中のMDMA等合成麻薬事犯の特徴>
・ 押収量が過去最多を記録
・ 検挙人員の62.8%は少年及び20歳代の若年層
・ 検挙人員の84.8%が初犯者
 
 栽培されていた大麻
栽培されていた大麻
 
 表2-5 各種薬物事犯の検挙状況の推移(平成15~19年)
表2-5 各種薬物事犯の検挙状況の推移(平成15~19年)

〔2〕 シンナー等の有機溶剤事犯
 最近5年間のシンナー等有機溶剤事犯の検挙(補導を含む。)人員は減少傾向にあり、その推移は、表2-6のとおりである。
<19年中の特徴>
・ 検挙人員(摂取、吸入及び摂取・吸入目的所持)の36.6%は少年
・ 検挙人員(知情販売(乱用する目的で購入すると知った上での販売))の65.8%は少年
 
 表2-6 有機溶剤事犯の検挙人員の推移(平成15~19年)
表2-6 有機溶剤事犯の検挙人員の推移(平成15~19年)

(3)薬物犯罪組織の動向
〔1〕 薬物事犯への暴力団の関与
 平成19年中の暴力団構成員等による覚せい剤事犯の検挙人員は6,359人と、前年より283人(4.7%)増加し、覚せい剤事犯の検挙人員に占める割合は53.0%と過半数を占めていることから、依然として覚せい剤事犯に暴力団が深く関与していることがうかがわれる。
 また、大麻事犯については、暴力団構成員等の検挙人員は664人と、前年より72人(9.8%)減少しているものの、全検挙人員の29.2%を占め、MDMA等合成麻薬事犯については、暴力団構成員等の検挙人員は102人と、前年より11人(9.7%)減少しているものの、全検挙人員の34.5%を占めており、暴力団構成員等が薬物事犯に幅広く関与していることがうかがわれる。
 
 図2-10 暴力団構成員等による覚せい剤事犯の検挙人員の推移(平成10~19年)
図2-10 暴力団構成員等による覚せい剤事犯の検挙人員の推移(平成10~19年)

事例

 稲川会傘下組織幹部(48)らが同傘下組織内に覚せい剤の密売組織を作って、覚せい剤の密売を行っているとの情報があったことから、末端の覚せい剤使用者の供述等を基に突き上げ捜査を行った。その結果、18年11月、山梨県甲府市内において、覚せい剤を密売目的で所持していた同幹部を覚せい剤取締法違反(営利目的所持)で逮捕(19年7月、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(以下「麻薬特例法」という。)違反(業としての譲渡)に訴因変更)するとともに、同幹部と共に覚せい剤の密売を行っていた同傘下組織の別の幹部ら3人及び同傘下組織構成員等16人を、19年10月までに、覚せい剤取締法違反(営利目的所持等)で逮捕(うち1人については、19年7月、麻薬特例法違反(業としての譲渡)に訴因変更)し、当該密売組織を壊滅に追い込んだ(山梨)。

〔2〕 イラン人薬物密売組織
 19年中のイラン人の覚せい剤事犯検挙人員は85人と、前年より25人(41.7%)増加した。このうち、営利犯(営利目的所持及び営利目的譲渡をいう。)は48.2%を占め、来日外国人による覚せい剤事犯の検挙人員の中で他の国籍・地域の者と比べると著しく高率であり、依然としてイラン人が覚せい剤の密売に深くかかわっている状況がうかがわれる。最近では、携帯電話を利用して客に接触場所を指定し、交渉役、代金受領役等の役割分担をするなど巧妙かつ組織的な密売が敢行されている。
 
 図2-11 来日外国人による覚せい剤事犯の検挙人員に占める営利犯(平成19年)
図2-11 来日外国人による覚せい剤事犯の検挙人員に占める営利犯(平成19年)

(4)インターネット利用による薬物密売事犯
 平成19年中にインターネットを利用した薬物密売事犯で密売人を検挙した事件は17件と、前年より4件(30.8%)増加した。このうち、2件については、覚せい剤取締法における広告の制限に係る規定を適用した。
 密売の主な手口は、インターネット特有の匿名性を悪用したものであり、具体的には、電子掲示板等に「エスあります。0.2g 1万円」等と掲載して薬物の購入を勧誘し、これに連絡してきた客から注文を受け、指定した金融機関口座に代金を振り込ませた後、薬物を配送するというものである。

(5)薬物密輸入事犯の現状
 平成19年中の薬物密輸入事犯の検挙件数は200件、検挙人員は238人と、それぞれ前年より17件(7.8%)、1人(0.4%)減少したが、薬物事犯別では、覚せい剤事犯、MDMA等合成麻薬事犯、あへん事犯がそれぞれ増加した。我が国で乱用される薬物のほとんどは、国際的な薬物犯罪組織の関与の下に海外から密輸入されており、航空機を利用して、手荷物品の中に隠匿したり、身体に巻き付けたり、国際郵便・国際宅配便を利用するなどの方法が用いられている。
<19年中の大量押収事件(注)での主な仕出地>
・ 覚せい剤・・・カナダ、香港、中国、台湾
・ 乾燥大麻・・・カナダ、南アフリカ、アメリカ、オランダ
・ 大麻樹脂・・・オランダ
・ MDMA等合成麻薬・・・カナダ、オランダ、ドイツ、ベルギー

注:覚せい剤及び大麻については1キログラム以上、MDMA等合成麻薬(覚せい剤との混合錠剤を含む)については1,000錠以上押収した事件

 
 押収された薬物
押収された薬物1

事例

 中国人の女(42)ら4人は、19年7月、パナマ船籍の貨物船を用いて、密売目的で覚せい剤約154.2キログラム、乾燥大麻約279.0キログラム及びMDMA等を含有する錠剤約68万8,000錠を住宅用木材の束の中央部に隠匿してカナダから輸入し、大阪府堺市内の倉庫に保管していた。19年8月、覚せい剤取締法違反(営利目的所持)で逮捕した(大阪)。

 第2節 薬物銃器対策

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