第1章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

7 知的財産権侵害事犯、環境事犯等

(1)知的財産権侵害事犯
 平成19年中の知的財産権侵害事犯の検挙件数は1,283件、検挙人員は715人で、16年以降、高水準で推移している。
 偽ブランド事犯(商標法違反)では、依然として押収した偽ブランド品の大半が中国及び韓国を中心とするアジア諸国から密輸入されており、92.8%が海上貨物、3.9%が国際郵便を利用して持ち込まれている。販売形態は、店舗販売が41.0%、インターネット・オークション利用販売が27.0%、露店販売が10.4%と様々である。
 海賊版事犯(著作権法違反)では、会社員、学生等、一般のコンピュータ利用者による海賊版CD、DVD等の複製事犯が後を絶たず、販売形態では、インターネット・オークション利用販売が39.9%を占めている。
 警察では、中国及び韓国から大量の偽ブランド品が密輸入されていることや両国において我が国の企業の知的財産権が侵害される例が増加していることを踏まえ、両国の捜査機関に対し、国内での取締りの強化を要請するとともに、両国の捜査機関と情報交換を行うなどの連携強化を図っている。また、不正商品対策協議会(注)における活動を始め、権利者等と連携した知的財産の保護及び不正商品の排除に向けた広報啓発活動を推進している。

注:昭和61年、不正商品の排除及び知的財産の保護を目的として、知的財産権侵害に悩む各種業界団体により設立された任意団体。警察庁等の関係機関と連携し、シンポジウムの主催や各種催物への参加を通じて、広報啓発活動、海外における不正商品販売の実態調査、海外の捜査機関や税関等に対する働き掛け等を行っている。

 
 表1-5 知的財産権侵害事犯の検挙状況の推移(平成15~19年)
表1-5 知的財産権侵害事犯の検挙状況の推移(平成15~19年)
 
 表1-6 押収した偽ブランド品のうち、仕出国・地域が判明したものの国別押収状況の推移(平成15~19年)
表1-6 押収した偽ブランド品のうち、仕出国・地域が判明したものの国別押収状況の推移(平成15~19年)

事例

 日本人の男(40)、韓国人の男(39)ら7人は、18年6月ころから同年12月ころにかけて、中国から約62万点の偽ブランド品を密輸入するなどした。19年2月までに商標法違反(引渡し)及び関税法違反(輸入してはならない貨物の輸入未遂)で逮捕し、偽ブランド品約8万8,500点を押収した(富山、大阪)。
 
 押収した偽ブランド品
押収した偽ブランド品

(2)食品の偽装表示事犯
 平成19年中の食品の偽装表示事犯は4件であった。食肉等の偽装表示事犯の発覚を契機に同種の事犯が全国的に相次いで発覚し、食品の表示に対する国民の信頼が大きく損なわれていることを踏まえ、警察では、農林水産省等の関係機関と連携して、悪質な事案に対する取締りを行っている。

事例1

 精米製造販売会社代表取締役(47)ら3人は、18年9月、精米の原産地を誤認させる表示をし、また、混合米を特定の銘柄米として小売業者に販売した。19年6月、不正競争防止法違反(誤認惹起行為)及び詐欺罪で逮捕した(大阪)。
 
 偽装した精米の検証状況
事例 偽装した精米の検証状況

事例2

 食肉製造加工会社代表取締役(69)ら4人は、牛肉に豚肉、鶏肉、羊肉及び鴨肉を加えるなどして製造したひき肉を牛肉だけを原料としているように表示し、食品加工会社17社に販売するなどしていた。19年10月、不正競争防止法違反(誤認惹起行為)で逮捕するとともに、同年11月に詐欺罪で検挙した(北海道)。
 
 偽装したひき肉製造工程の検証状況
偽装したひき肉製造工程の検証状況

(3)環境事犯
〔1〕 廃棄物事犯
 警察では、環境を破壊する犯罪のうち、特に、廃棄物の不法投棄事犯等に重点を置き、組織的・広域的な事犯、暴力団が関与する事犯、行政指導を無視して行われる事犯等を中心に取締りを推進している。また、関係機関に必要な情報を提供して環境被害の拡大防止と早期の原状回復を促している。
 平成19年中には、検挙事件数、検挙人員共に大幅に増加しており、産業廃棄物の処理責任を負っている排出事業者を不法投棄、委託違反等で379事件を検挙した。また、軽油の密造に伴い生成される硫酸ピッチ(注1)やスラッジ(注2)の不適正処理事犯を6事件、44人、1法人検挙した。

注1:軽油を精製する際、不純物として出る強酸性のタール状沈殿物。触れると肌がただれ、目に入ると失明のおそれもあるほか、鼻をつく亜硫酸ガスを発生させ、これを吸引すると呼吸困難等を起こす危険がある。
 2:硫酸ピッチを取り除いた軽油を更に精製する際に不純物として出る泥状の沈殿物。強酸性のものは硫酸ピッチと同様の危険性を持つ。

 
 表1-7 廃棄物事犯の検挙状況の推移(平成15~19年)
表1-7 廃棄物事犯の検挙状況の推移(平成15~19年)

事例

 会津小鉄会傘下組織幹部(38)ら17人は、15年11月から18年2月にかけて、処分を受託したプラスチック類やスラッジ等の廃棄物約620トンを、造成工事を装い恒常的に埋め立てて不法投棄した。19年3月までに廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反(委託違反、不法投棄)で逮捕した(滋賀)。
 
 埋立不法投棄された廃棄物
埋立不法投棄された廃棄物

〔2〕 鳥獣の違法捕獲等に係る事犯
 警察では、国内に生息する野生鳥獣の違法捕獲等に係る事犯、希少野生動植物種の密輸入や国内での違法取引等に係る事犯、動植物及び生態系の保護等に係る事犯等の取締りを行っている。
 
 表1-8 鳥獣の違法捕獲等に係る事犯の検挙状況(平成18、19年)
表1-8 鳥獣の違法捕獲等に係る事犯の検挙状況(平成18、19年)

事例

 自営業者の男(34)は、18年6月ころから、インターネット・オークションで購入した特定動物である鰐2匹(メガネカイマン、ブラジルカイマン)及び大型の蛇2匹(ボアコンストリクターインペラトール)を許可なく自宅において飼養していた。19年9月、動物愛護管理法違反(特定動物の無許可飼養)で逮捕した(石川)。
 
 無許可で飼養していた鰐・蛇
無許可で飼養していた鰐

(4)保健衛生事犯
 近年、国民の健康や美容願望につけ込み、医学的根拠が明らかでない効能をうたい、又は虚偽の体験談を用いてあたかも特定の疾病や部位に効くような宣伝をして健康食品を高額で販売する事犯のほか、模造された医薬品を販売するなどの薬事法違反、無資格で医業行為を行う医師法違反等の事犯が発生している。
 
 表1-9 保健衛生事犯の検挙状況(平成18、19年)
表1-9 保健衛生事犯の検挙状況(平成18、19年)

事例

 無職の男(32)は、平成17年11月、偽造した医師免許証を用いて診療所を開設し、19年10月までに、約8,000人の患者に対し無資格で眼科診療を繰り返すとともに、その資格がないのにカルテを作成して診療報酬を不正に請求し、合計約3,750万円をだまし取った。19年10月、この男を、医師法違反(無資格医業)で逮捕するとともに、20年1月、詐欺罪等で検挙した(岐阜)。
 
 偽造された医師免許証及び偽の医師が開設したクリニック
偽造された医師免許証及び偽の医師が開設したクリニック

(5)諸法令違反
 平成19年中は、水産資源の違法捕獲等に係る事犯、無線局の不法開設に係る事犯等が発生した。
 
 表1-10 主な諸法令違反の検挙状況(平成18、19年)
表1-10 主な諸法令違反の検挙状況(平成18、19年)

事例

 無職の男(56)ら8人は、19年10月、鮑の採捕禁止期間中であるにもかかわらず、採捕、運搬、見張り等の役割を分担して鮑約2,400個を採捕するなどした。同月、この男らを漁業調整規則違反(採捕禁止期間内の採捕、違反採捕水産動物の所持)で逮捕した。また、同年11月、この男らが密漁したものであることを知りながら、18年7月から19年10月にかけて鮑約16トンを買い付けていた水産物販売会社役員(64)を同規則違反(違反採捕水産動物の所持)で逮捕した(岩手)。
 
 密漁された鮑
密漁された鮑

 第1節 罪種別犯罪情勢とその対策

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