第1章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

3 構造的な不正事案

(1)政治・行政をめぐる不正事案
 地方公共団体の長や議員による贈収賄事件、競売入札妨害事件、買収等の公職選挙法違反事件等の政治・行政をめぐる不正が相次いで表面化している。
 第16回統一地方選挙(平成19年4月8日及び22日施行)における選挙期日後90日現在(19年7月7日及び7月21日現在)の公職選挙法違反の検挙件数は1,026件、検挙人員は1,434人(うち逮捕者283人)と、前回の第15回統一地方選挙期日後90日の時点に比べ、検挙件数は956件(48.2%)、検挙人員は1,962人(57.8%)減少した。第21回参議院議員通常選挙(19年7月29日施行)における選挙期日後90日現在(19年10月27日現在)の公職選挙法違反の検挙件数は156件、検挙人員は237人(うち逮捕者55人)と、前回の第20回参議院議員通常選挙期日後90日の時点に比べ、検挙件数は251件(61.7%)、検挙人員は162人(40.6%)減少した。
 
 図1-10 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数(注1)の推移
図1-10 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数(注1)の推移

注1:同一の被疑者で同種の余罪がある場合でも、一つの事件として計上した統計


事例1

 深川市長(68)は、18年に同市が発注した小学校校舎の改築に伴う機械設備工事に係る指名競争入札に際し、建設会社の代表取締役(58)から、同社と別の建設会社1社とで構成する共同企業体が落札できるように取り計らってほしいとの依頼を受け、その見返りとして賄賂を受け取り、同企業体に落札させるよう市幹部職員(59)に指示するなどした。同年12月までに同市長、同市幹部職員、同代表取締役ら8人を競売入札妨害罪で逮捕するとともに、19年1月までに同市長を加重収賄罪で逮捕した(北海道)。
 
小学校校舎の改築に伴う競売入札妨害罪・加重収賄罪

事例2

 不在者投票管理者を務める特別養護老人ホームの施設長(48)ら6人は、19年7月ころ、不在者投票を行う施設として指定を受けた同特別養護老人ホームにおいて、これに入所している有権者十数名の投票用紙を使用して投票を偽造しようと企て、同有権者らに無断で投票用紙に候補者の氏名を記載するなどして選挙管理委員会に送致し、投票日当日に、同有権者らが属する投票区の投票管理者(注2)をして、同投票用紙を投票箱に投入させ、投票を偽造した。同年8月、公職選挙法違反(投票偽造)で検挙した(岐阜)。

注2:公職選挙法第37条に基づき、選挙ごとに置かれ、投票に関する事務を担任する者


(2)経済をめぐる不正事案
 平成19年中の金融・不良債権関連事犯の検挙事件数は79件で、前年より48件(37.8%)減少した。
 また、その他の経済をめぐる不正事案では、次のような社会的反響の大きい事件を検挙した。
 
 図1-11 金融・不良債権関連事犯の検挙事件数の推移(平成10~19年)
図1-11 金融・不良債権関連事犯の検挙事件数の推移(平成10~19年)

事例

 通信事業会社の代表取締役(55)ら3人は、通信機器賃貸会社の代表取締役(54)ら2人と共謀し、同賃貸会社が自社に賃貸する通信機器を購入する資金名目で、一般投資家から、匿名組合契約(注)に基づく出資を募り、これをだまし取ろうと企て、17年1月ころから9月ころにかけて、同賃貸会社取締役が代表取締役を務めるコンサルタント会社の事情を知らない従業員に虚偽の内容のパンフレットを用いて出資の勧誘を行わせ、一般投資家30人から3億6,000万円をだまし取った。19年4月までに詐欺罪で検挙した(警視庁)。
 
通信機器賃貸会社への出資の勧誘詐欺

注:商法第535条に基づいて締結される、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、相手方がその営業から生じる利益を配分することを約する契約


(3)財務捜査体制の整備
 企業等の経済活動に関連して行われる犯罪の捜査では、犯罪の背景、動機、実行行為等を明らかにするため、帳簿類等の客観的な資料に基づいて、捜査対象となる企業等の財務実態を解明することが不可欠である。このため、警察大学校財務捜査研修センターでは、全国の捜査員を対象に、簿記その他の財務捜査に必要な知識や捜査手法等について教育を行うとともに、最新の企業会計制度に即した財務捜査手法等の調査研究を行っている。
 また、都道府県警察では、公認会計士等の資格を有する者や民間企業での会計事務の経験者等を財務捜査官として採用するなど、体制強化に努めている。
 
 財務捜査研修センターでの研修風景
財務捜査研修センターでの研修風景

 第1節 罪種別犯罪情勢とその対策

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