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トピックスV 刑法犯認知件数の増減について

 刑法犯認知件数は、平成14年をピークに減少に転じました。治安再生への道筋を確実なものとするため、社会全体で犯罪抑止に向けた取組みを進める必要があります。

 刑法犯認知件数は、平成8年から14年にかけて7年連続で増加し、戦後最悪となりました。このような犯罪情勢を踏まえ、政府では、総合的な治安対策を推進し、警察庁を始めとした関係省庁、地方公共団体、関係団体、企業、地域住民等が連携した取組みを展開しました。
 各方面での犯罪抑止の取組みにより、刑法犯認知件数は、15年から減少に転じました。治安再生への道筋を確実なものとするため、今後も、社会全体として犯罪抑止に向けた取組みを推進していく必要があります。

(1)平成8年から14年にかけての増加

〔1〕 罪種ごとの傾向
 ほぼ横ばいであった知能犯を除いて、粗暴犯、窃盗犯等いずれの包括罪種別においても、認知件数は増加傾向を示しました。刑法犯の大半を占める窃盗犯について手口別にみると、オートバイ盗及び旅館荒しが減少したのを除いて、侵入盗、自動車盗、自転車盗及び非侵入盗(車上ねらい、自動販売機ねらい、万引き、部品ねらい、ひったくり等)のいずれも増加しました。凶悪犯は、放火を除いて各罪種とも増加しました。粗暴犯は、凶器準備集合が減少したのを除いて、暴行、傷害、脅迫及び恐喝のいずれの罪種でも増加しました。強制わいせつ等の風俗犯、器物損壊、占有離脱物横領、住居侵入等のその他の刑法犯も増加しました。

〔2〕 刑法犯認知件数の増加に寄与した度合の高い犯罪
 平成8年から14年にかけての刑法犯認知件数の増加は約104万件ですが、これに対する寄与率(注)を罪種や手口でみると図V-1のとおりで、窃盗のうちの車上ねらい(22.4%)、自転車盗(9.6%)、部品ねらい(7.8%)が大きいほか、その他の刑法犯のうち器物損壊(15.3%)が特に大きくなっており、財物をねらった犯罪が著しく増加しています。

注:時系列において、全体の変化に対して内訳部分の変化がどの程度貢献したかを示す指標のこと。例えば基準時における合計をT0、内訳部分Aの値をA0、比較時における合計をT1、内訳部分Aの値をA1とすると、内訳部分Aの寄与率は、(A1-A0)/(T1-T0)×100(%)となる。(出典:「統計小辞典」(監修 総務庁統計研修所 編集(財)日本統計協会)

 
 図V-1 平成8年から14年にかけての刑法犯認知件数の増加に対する寄与率
図V-1 平成8年から14年にかけての刑法犯認知件数の増加に対する寄与率

 また、8年から14年にかけての主な街頭犯罪及び主な侵入犯罪の増加数は約52万件及び約14万件で、同期間中の刑法犯認知件数の増加に対する寄与率は、それぞれ50.0%及び13.3%といずれも大きくなっており、主な街頭犯罪及び主な侵入犯罪の増加が、8年から7年間連続した刑法犯認知件数の増加の大きな要因となっているものと考えられます。
 さらに、8年中の刑法犯の検挙人員に占める少年の割合は、オートバイ盗で97.2%、路上強盗で74.8%、ひったくりで72.1%と高くなっている一方で、自動車盗で42.0%、侵入強盗で7.0%と、8年中の刑法犯全体の検挙人員に占める少年の割合(45.2%)に比べ、低くなっている罪種もあります。少年は、こういった主な街頭犯罪及び主な侵入犯罪の中では、手口が比較的単純なものを敢行する傾向があるものと推察され、このように、検挙された被疑者中に占める少年の割合が罪種ごとに格段に異なる点からみても、各罪種の発生要因となる防犯対策の不足の程度等には違いがあることがうかがわれます。このことから、犯行の手口や態様等の性格に応じた防犯措置が必要であると考えられます。
 例えば、オートバイ盗については、キーシャッタの装着により鍵を抜いた状態でも鍵穴が露出しないようにする、錠を二つにしたり丈夫なものに交換するなどのオートバイ自体のセキュリティ強化に加え、駐輪場の明るさを一定以上に維持する、管理人が駐輪場に常駐又は巡回するなどの犯罪防止に配慮した環境設計を行うなどの総合的な対策を講ずることにより、8年から12年まで増加を続けた認知件数が、13年から減少に転じました。

 
 キーシャッタ
キーシャッタ
 
キーシャッタ

〔3〕 増加率の高い犯罪
 8年と14年を比較して、認知件数が2倍以上に増加している罪種としては、強盗(2.8倍)のほか、暴行(3.0倍)、強制わいせつ(2.4倍)、傷害(2.0倍)といった身体に対する犯罪の増加率が高くなっています。これ以外では、器物損壊(5.4倍)、住居侵入(3.0倍)、脅迫(2.6倍)等の増加率が高くなっています。また、窃盗の中の手口別で2倍以上に増加しているのは、部品ねらい(2.7倍)、ひったくり(2.6倍)、車上ねらい(2.1倍)、工事場ねらい(2.1倍)、色情ねらい(2.0倍)です。なお、前述の強盗のうち住宅等への侵入強盗は2.4倍、路上強盗等の非侵入強盗は3.1倍にそれぞれ増加しています。

(2)国民と協力し、政府を挙げた犯罪対策の推進

 オートバイ盗等、比較的早期に対策が講じられた一部の罪種については、刑法犯認知件数がピークを迎える平成14年以前から認知件数の減少がみられたものの、その他の主な街頭犯罪及び主な侵入犯罪の認知件数については8年から14年にかけて大きく増加し、治安の悪化に対する国民の不安感が増大して、治安対策はいわば国民的な課題となりました。このような情勢から、14年11月、警察庁は、国民が身近に不安を感じる街頭犯罪及び侵入犯罪の増勢に歯止めを掛け、その発生を抑止することを目的とした街頭犯罪・侵入犯罪抑止総合対策の推進を図ることとしました。これを受け、各都道府県警察では、それぞれの地域の犯罪実態に応じ、街頭活動の強化や非行集団に対する取締りの強化等を進めるとともに、関係省庁、地方公共団体、企業、地域住民等との連携を強化して、犯罪類型に応じた防犯対策の推進等の諸対策を強力に推進しました。また、15年8月には、警察庁は、犯罪抑止のための総合対策、治安基盤の確立等を内容とする「緊急治安対策プログラム」を策定しました。

事例1
 福岡県警察では、街頭犯罪特別遊撃隊を設置し、よう撃的な警戒活動(注)や徹底した非行少年の検挙・補導活動を展開するなど、集中的な警戒・検挙活動を推進しました。その結果、15年まで増加傾向にあったひったくりの認知件数は、16年以降3年連続して減少し、18年の認知件数は15年に比べ60.0%減少しました。

注:犯罪発生に備え、先回りする警戒活動

 
 街頭犯罪特別遊撃隊の活動状況
街頭犯罪特別遊撃隊の活動状況

事例2
 屋外に設置された自動販売機内の金品をねらった犯罪を防止するため、警察では、自動販売機設置業者や製造業者に対し、扉のこじ開け、鍵穴破壊等に強い部品を使用した自動販売機の開発・普及を推進するよう働き掛けを実施しています。18年末現在、「堅牢化自動販売機」(飲料・たばこ)の普及率は100%に達し、自動販売機ねらいの認知件数もここ数年、大幅に減少しています。堅牢化自動販売機の普及は、自動販売機ねらいを減少させた要因の一つと考えられます。
 
 <自動販売機ねらいの認知件数と堅牢化自動販売機台数の推移(平成13~18年)>
<自動販売機ねらいの認知件数と堅牢化自動販売機台数の推移(平成13~18年)>

 政府では、15年9月、首相を長とし、全閣僚を構成員とする犯罪対策閣僚会議を設置し、同年12月には、「国民が自らの安全を確保するための活動の支援」等を基本的な視点として、「平穏な暮らしを脅かす身近な犯罪の抑止」、「社会全体で取り組む少年犯罪の抑止」等を重点課題とした「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」を策定しました。これにより、警察だけでなく、政府全体として、各種の犯罪対策が推進されています。また、地域住民等による防犯ボランティア団体が全国各地で大幅に増加し(第1章第3節2参照)、自主的な防犯活動が活発に展開されています。都道府県の制定するいわゆる生活安全条例は、14年3月に全国に先駆けて大阪府において制定された後、制定が相次ぎ、18年末までに47都道府県中35都道府県において制定されており、自ら防犯対策に取り組む地方公共団体も急速に増えました(図V-2参照)。さらに、建築業界等の関係業界と行政機関が連携して、犯罪防止に配慮した環境設計を普及し、犯罪被害に遭いにくいまちづくりを推進しました。
 こうした各機関と連携した取組みのほか、警察では、13年度から18年度末にかけて、約2万1千人の警察官を増員し、犯罪多発地点における街頭活動の強化、「空き交番」解消計画、少年の補導活動等を推進しました。
 
 図V-2 生活安全条例を新たに制定した都道府県数(平成14~18年)
図V-2 生活安全条例を新たに制定した都道府県数(平成14~18年)

(3)平成14年から18年にかけての刑法犯認知件数の減少

〔1〕 刑法犯全体の認知件数の減少
 平成18年の刑法犯認知件数は、14年と比較して、80万2,889件(28.1%)減少しました。同期間中、主な街頭犯罪の認知件数は68万6,935件(42.1%)、主な侵入犯罪の認知件数は13万6,213件(36.4%)とそれぞれ大きく減少した一方、刑法犯全体からそれらを除いた刑法犯の認知件数は、ほぼ横ばいで推移しています。
 
 図V-3 刑法犯認知件数の推移(平成9~18年)
図V-3 刑法犯認知件数の推移(平成9~18年)

〔2〕 刑法犯認知件数の減少に寄与した度合の高い犯罪
 14年から18年にかけての刑法犯認知件数の減少に対する寄与率を罪種や手口でみると図V-4のとおりであり、窃盗のうちの車上ねらい(29.6%)、自転車盗(15.7%)、自動販売機ねらい(14.8%)、オートバイ盗(13.1%)が特に大きくなっています。これらはいずれも街頭における犯罪です。
 また、同期間の刑法犯認知件数の減少に対する主な街頭犯罪の寄与率は約85.6%、主な侵入犯罪の寄与率は約17.0%といずれも大きいものとなっています。
 
 図V-4 平成14年から18年にかけての刑法犯認知件数の減少に対する寄与率
図V-4 平成14年から18年にかけての刑法犯認知件数の減少に対する寄与率

〔3〕 減少率の高い犯罪
 14年と18年を比較して、認知件数が50%以上減少したのは、自動販売機ねらい(68.0%減)、車上ねらい(53.6%減)、恐喝(53.1%減)、オートバイ盗(53.0%減)等です。これらも主に街頭における犯罪です。

〔4〕 14年から18年にかけての減少の要因
 これまでみたとおり、14年から18年にかけての刑法犯認知件数の減少は、主な街頭犯罪の認知件数の減少によるところが大きくなっています。これは、地域住民、企業、地方公共団体、警察その他の関係機関が連携して各種の犯罪対策を展開したことが貢献したものと考えられます。
 また、侵入犯罪については、認知件数自体が街頭犯罪と比べ少ないため、減少への寄与率は大きくはないものの、ピッキング用具を使用した侵入窃盗の認知件数が92.0%減少したのを始め、その減少率は刑法犯全体のそれよりも大きくなっています。これは、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律に基づく、ピッキング用具を使用した侵入窃盗の取締りと、防犯性能の高い建物部品の開発・普及等の侵入犯罪対策(第1章第1節4(5)参照)とが相まって、侵入犯罪認知件数全体の減少につながったものと考えられます。

(4)今後の方向性

 刑法犯全体の認知件数は、平成8年から14年にかけて、ほぼすべての罪種で増加傾向が続き、治安情勢は厳しさを増しました。その後、認知件数は減少に転じ、侵入盗、オートバイ盗、自転車盗、車上ねらい等の窃盗犯の一部の罪種では8年の水準以下にまで低下しました。
 しかし、中には8年と比較してなお高水準にある犯罪もあります。例えば、8年と18年を比較して、認知件数が2倍以上に増加している罪種として、器物損壊(5.4倍)、暴行(4.8倍)、脅迫(2.9倍)、住居侵入(2.8倍)、強盗(2.1倍)、強制わいせつ(2.1倍)等があります。これらのことから、治安再生に向けてより一層強力な取組みが必要であるといえます。
 警察庁では、18年8月、安全・安心なまちづくり、重要犯罪等に対する捜査の強化、精強な第一線警察の構築等を柱とする「治安再生に向けた7つの重点」を策定し、諸施策を強力に推進しているところですが、治安再生への道筋を確実なものとするためには、政府が一体となった取組みに加え、防犯ボランティア団体を始めとする地域社会、地方公共団体、企業等との更なる連携・協働を図り、社会全体としての犯罪抑止に向けた取組みを進めていくことが必要です。

 V 刑法犯認知件数の増減について

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