第5章 公安委員会制度と警察活動の支え 

11 国際社会における日本警察の活動
 
 図5-27 国際社会における日本警察の活動
図5-27 国際社会における日本警察の活動

(1)国際協力の推進

 警察庁では、平成17年9月に日本警察による国際協力の基本方針及びその方向性と今後実施すべき施策を明らかにした「国際協力推進要綱」を制定し、同要綱に基づき国際協力を積極的かつ効果的に推進している。
 
 図5-28 我が国の警察による国際協力の意義
図5-28 我が国の警察による国際協力の意義

〔1〕 知識・技術の移転
 警察庁では、住民の理解と協力を得ながら治安維持に当たる我が国の警察の特質をいかし、政府開発援助(ODA)により、外務省や独立行政法人国際協力機構(JICA)と協力して、日本警察が有する知識・技術の移転による国際協力を推進している。こうした協力は、外国への専門家派遣、外国からの研修員の受入れ及び外国への機材供与・無償資金協力の形態を組み合わせて行われている。

 ア インドネシア国家警察改革支援プログラム
 警察庁では、インドネシアの民主化改革の一つである国家警察の改革を支援するため、13年以降、JICAの協力の下、インドネシア国家警察改革支援プログラムを実施している。各プロジェクトにおいて専門家の派遣と研修の受入れを行っているほか、交番セット(交番建物と機材のセット)等の機材供与や国別特設研修の受入れ等を組み合わせて、インドネシアにおける市民警察活動の促進を図っている。その中核事業である市民警察活動促進プロジェクトは、19年8月から新たな5年間の協力期間(第2フェーズ)に移行する。
 
 図5-29 インドネシア国家警察改革支援プログラム
図5-29 インドネシア国家警察改革支援プログラム

 イ フィリピン警察活動支援
 警察科学捜査(初動捜査・鑑識)に関する専門家を派遣し、16年に無償資金で導入された指紋識別システム(AFIS)(注1)の運用に関する助言と指導を行っている。

注1:Automated Fingerprint Identification System


 ウ 専門家の派遣
 警察では、上記の事例を中心に、JICAと協力してタイ、ブラジル等の開発途上国に専門家を派遣して知識・技術の移転を図っており、指導分野は、交番制度、鑑識技術、薬物対策等多岐にわたっている。18年中には、上記の事例を含め、長期(1年以上)6人、短期(1年未満)24人の専門家を派遣した。
 
 足こん跡採取技術の研修風景
足こん跡採取技術の研修風景

 エ 研修生の受入れ
 日本の有する警察運営、交番制度、犯罪鑑識等に対して、諸外国から高い関心が寄せられている。そこで、警察では、このような分野における知識・技術の移転を積極的に進めるため、上記の事例のほか、セミナーの開催等を通じて研修受入れの充実を図っている。18年中には、28回の研修で215人の研修生を受け入れた。
 
 交番での地域警察に関する研修風景
交番での地域警察に関する研修風景

〔2〕 国際緊急援助活動
 警察では、外国で大規模な災害が発生したときには、国際緊急援助隊の派遣に関する法律に基づき、被災地に国際緊急援助隊を派遣している。昭和62年の同法の施行以降、平成19年3月末までの間に、10回にわたって国際緊急援助活動(捜索・救助)を行っているほか、17年1月のタイ津波災害に際して、被災者のDNA検体採取・鑑定のために国際緊急援助隊専門家チーム5人を派遣した。直近では、17年10月のパキスタン等での大地震に際して、救助チーム要員として捜索・救助活動や通信活動に当たる警察職員を同国に派遣した。

〔3〕 国際連合の活動に対する取組み(文民警察活動等)
 18年8月、国際連合安全保障理事会決議第1704号に基づき、文民警察を主体とする国際連合東ティモール統合ミッション(UNMIT)(注2)が設立され、治安維持を含む東ティモールの安定強化及び国づくり支援が行われることとなった。我が国警察は、19年1月から東ティモール国際平和協力隊に警察職員3人(文民警察要員2人、連絡調整要員1人)を派遣し、東ティモール内務省及び国家警察に対し、警察行政事務に関する助言及び指導業務を行っている。
 このほか、警察では、17年に国際連合からの要請を受け、レバノンのベイルート市内で発生したハリーリ元首相暗殺事件の国際連合国際独立調査委員会(UNIIIC)(注3)に鑑識担当職員を派遣するなどしており、引き続き国際連合の活動に積極的に取り組むこととしている。

注2:United Nations Integrated Mission in Timor-Leste
 3:United Nations International Independent Investigation Commission

 
 東ティモールにおける文民警察要員
東ティモールにおける文民警察要員

(2)国際的連携の強化

 国際的な犯罪が発生した場合、警察では、国際刑事警察機構や外交当局を通じて外国の治安機関との情報交換を行い、事件の解決を図っている。また、個別の事件での協力のほか、国際会議への参加や二国間の協議、条約の締結交渉等を推進し、相手国の閣僚や治安機関職員と顔を合わせて様々な治安問題について共に検討し、協力関係の強化に努めている。
 
 図5-30 国際的連携の強化
図5-30 国際的連携の強化

〔1〕 G8各国との連携
 G8各国の治安担当機関は、国際的な連携が必要な問題について、G8ローマ/リヨン・グループやG8司法内務閣僚会合において断続的に検討を行っている。警察庁では、これらの会合に継続的に参加し、議論に積極的に参画するとともに、我が国が開催国となる2008年(平成20年)を見据えて、これら会合での検討結果が、我が国の国内治安対策の推進に資するものとなるよう、検討課題の設定に際し、我が国が主導的な役割を果たすよう努めている。
 また、主要国首脳会議(サミット)においても、最近の犯罪情勢・テロ情勢を踏まえ、近年特に、国際組織犯罪、テロ等に関する問題が取り上げられることが多く、2006年(18年)7月のサンクトペテルブルク・サミットでは、「テロ対策に関するG8首脳宣言」を採択し、G8としてテロとの戦いを断固として継続していくことを確認した。
 
 図5-31 G8における取組み
図5-31 G8における取組み

 ア G8ローマ/リヨン・グループ
 G8国際組織犯罪対策上級専門家会合(リヨン・グループ)は、1995年(7年)のハリファックス・サミットにおいて、各種犯罪分野における刑事法制や法執行協力の在り方について検討する場として設置することが決定された。2001年(13年)の米国における同時多発テロ事件発生以降は、ハイジャック対策や国際テロの動向について意見交換を行う場として1978年(昭和53年)に発足したG8テロ専門家会合(ローマ・グループ)と合同で開催することとされ、名称もG8ローマ/リヨン・グループと改称された。現在、同グループには、法執行、刑事法、人身取引、ハイテク犯罪、テロ対策等の各課題を扱う様々なサブグループが置かれており、特に、知的財産権侵害事犯対策、児童の保護対策、麻薬対策、テロ対策等、各国が協力して取り組むべき対策について検討を行っている。

 イ G8司法内務閣僚会合
 G8司法内務閣僚会合は、1997年(平成9年)以降2000年(12年)を除いて、毎年開催されており、日本からは国家公安委員会委員長や警察庁の幹部職員が出席し、国際組織犯罪対策やテロ対策についての日本の取組状況を報告するとともに、共同声明や行動計画の起草に参画している。
 2006年(18年)は、サミット議長国であるロシアのモスクワにおいて開催されたが、同会合では、テロ対策、サイバー犯罪・サイバーテロ対策、不法移民対策等に関する協議のほか、ローマ/リヨン・グループにおいて完結したプロジェクトの成果文書につき、G8として承認が行われた。
 なお、2008年(20年)には、警察庁及び法務省の共催により、東京都内において、我が国では初めてG8司法内務閣僚会合が開催される予定である。
 
 G8司法内務閣僚会合
G8司法内務閣僚会合

〔2〕 アジア諸国等との連携
 2004年(16年)以降、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に日本、中国及び韓国(+3)を加えた治安機関の閣僚が参加する「国境を越える犯罪に関するASEAN+3閣僚会議」(AMMTC+3)(注)が開催されており、2005年(17年)11月には、ベトナムにおいて第2回会合が開催され、日本からは国家公安委員会委員長が出席した。同会合においては、テロ、薬物犯罪、人身取引、マネー・ローンダリング等の国境を越える8つの犯罪分野において、協力して対策を講ずることとされている。
 また、警察では、日本との間で多くの国際犯罪が敢行される国や来日外国人犯罪者の国籍国を始めとする各国の治安機関との間で、個別の政策課題についての協議を行うことを通じて協力関係を深めている。特に、我が国周辺国・地域との連携は重要であり、18年12月には、東京において中国公安部との間で3回目となる定期協議を開催したほか、19年1月には、ハバロフスクにおいてロシア極東内務総局と実務者会合を開催し、各種情報交換を行った。

注:ASEAN Plus Three Ministerial Meeting on Transnational Crimeの略称。米国における同時多発テロ事件やインドネシア・バリ島における同時多発テロ事件の発生等を契機として、2004年(16年)、タイにおいて、第1回会合が開催された。同会合はASEAN加盟国に加えて、日本、中国及び韓国の治安機関の閣僚が一堂に会した初の国際会議であり、各国がテロ、薬物犯罪、人身取引等の国際犯罪に対し、協力して対策を講じていくことが約束された。


 
〔3〕 条約交渉への参画
 犯罪対策等に関する取組みの実施を法的に担保するためには、条約等の国際約束を締結し、法的拘束力をもたせる必要がある。刑事共助条約は、相手国の請求に基づく、捜査、訴追その他の刑事手続について、捜査共助の実施を条約上の義務とすることにより、捜査共助の一層確実な実施を期するとともに、これまで国際礼譲で行われてきた捜査共助の実施のための連絡を、外交当局間ではなく、条約が指定する中央当局間で直接行うことにより、事務処理の合理化・迅速化を図るものであり、警察庁では、各国との刑事共助条約交渉の締結交渉等に積極的に参画している。
 また、人の移動の自由化について議論されることが多い二国間の経済連携協定交渉についても、不法就労、不法滞在その他の犯罪を防止するために必要な制度が確保され、的確な対策が講じられるよう、交渉過程に参画している。
 
 図5-32 刑事共助条約(協定)締結状況等
図5-32 刑事共助条約(協定)締結状況等

 11 国際社会における日本警察の活動

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